表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/157

第139話:同じ想い

 意識を取り戻したマヤに呼ばれて、彼女の病室を訪れる。


「や、やあ、マヤ。元気そうだね。いや、さっき倒れたから、元気そう……は変か。あっははは……」


 つい先ほど病気だと知ったマヤと、病室で二人きり。

 でも、オレが知っていることを、彼女は知らない。


 オレは何も知らない態度で、ベッドの上のマヤに接した。


「その様子。パパから聞いたの、コータ?」

「う、うん。実はそうなんだ」


 だが速攻でバレてしまった。

 そういえばオレは嘘を付くのが苦手だった。

 これは降参するしかない。


 “セイレーン病”のことを学園長から聞いたと、正直にマヤに話す。


「やっぱり。コータ、嘘つくとき、すぐ顔に出る」

「あっはっは……面目ない」


 嘘も方便……それすらも使えない自分である。

 ここは笑ってごまかすしかない。


「そういえばマヤ、体調は大丈夫? たまに倒れたりするの?」

「倒れたのは今回、初めて。でも声、だんだん出なくなっていきた……ごほごほ」


 マヤは少しせきをしながら、自分の症状を説明する。


 日常的な会話は問題ないが、歌うのは支障が出てきたと。

 ここ1ヶ月で“セイレーン病”の症状が進んできたと語る。


「そ、それなら休養した方がいいよ、マヤ! オリンピックの歌の仕事も、なんか理由をつけて休むとかして!」


 歌姫のMAYAマーヤは、オリンピックサッカーの決勝戦で生ライブする予定があった。


 普段はTV出演をしないMAYAマーヤ

 世界中のファンが待ち望んでいるが、そんなのは関係ない。


「ほら、今なら映像とかでも、放送できそうだだし! 無理して歌必要はないよ!」


 今のマヤは症状が進んでいる。

 満員のスタジアムで生ライブするのは、更に危険な状況になる可能性が大きい。


 何しろ多くの人の前でパフォーマンス披露するには、膨大なエネルギーを必要とする。

 オレもサッカー選手として、その大変さは分かっていた。


「私、歌う。倒れてもいいから、歌う」

「そんな……危険だよ、マヤ!」

「それは無理、コータ。前も言ったけど、歌は私の全てだから……」


 マヤは危険を承知していた。

 自分の余命を知っていたかのように、覚悟している。

 その瞳はいつになく真剣だった。


「歌は私にとって全て。歌だけが自分の人生。だから歌うの、コータ……」


 マヤは覚悟を決めていた。

 自分の寿命を削ってでも、決勝戦で生ライブすることを。

 MAYAマーヤとしての最後の花を咲かせようとしていたのだ。


「でも、マヤ……」

「逆にコータに質問。もしコータがサッカーを続けたら、命を失ってしまう。コータならどうする?」


 いきなりマヤが質問をしてきた。

 話をそらすためや、冗談の質問ではない。真剣な表情で聞いてきた。


「『サッカーを続けたら、命を失ってしまう』か……そうなっても、ボクはサッカーを続ける……と思うよ」


 オレは前世で全てを失っていた。

 だから今世では怖いモノは何もない。


 逆行転生に気が付いた幼稚園時代に、全てサッカーに捧げると決めていたのだ。

 だからサッカーで命を失うことは、何も怖くはない。


「ほら、コータも私と同じ」

「あっ……しまった⁉」


 マヤの仕掛けた誘導尋問に、オレは引っかかってしまった。

 彼女は嬉しそうに、少しだけ笑みを浮べている。

 オレの答えを先読みてして、マヤは質問をしてきたのだ。


「コータと私は同じ。私は歌に。コータはサッカーに魂を捧げている。似ている。だからコータだけには心を許せたのかも……ごほっ、ほごっ」


 その時である、マヤが急に咳をする。

 先ほどとは違い、明らかに具合の悪そうな咳だ。


「マヤ、大丈夫⁉ いま、看護師さんを呼ぶから!」


 オレは急いでナースコールを探す。


 あった!

 マヤの枕元にボタンがある。


「大丈夫、コータ。私、病気になんかに、負けないから……」


 ナースコールを押そうとしたオレの手を、マヤが掴んでひき止める。

 その力は非力でか弱い。


 男のオレが引き離せそうと思えば、いつでも出来る握力。

 セイレーン病はマヤの身体から、力を奪い取っていたのだ。


「私、歌うの……コータが優勝を決める……その決勝戦で……最期に歌いたいの……」


 オレは彼女の手を振り払うことを出来なかった。


 マヤは本気だった。

 歌うことによって、その寿命は確実に削れてしまう。


 だが歌ことによって病に屈せず、自分の運命に必死で抗うとうとしていた。

 彼女は生きること、諦めていないのだ。


「分かったよ、マヤ……」


 ナースコールを押すことが出来なった。

 マヤとオレはよく似ている。

 互いにサッカーと歌に、命をかけていた。


 そんな同じ想いの同志を、オレはひき止めることが出来なかったのだ。


(でも……どうにかして、マヤを助けることはないのか…… “セイレーン病”か……くそっ!)


 マヤの手を握りながら、自分の非力さを痛感する。

 どんなにオレが頑張っても、彼女を助けることはできない。


 今までは前世の記憶で、何とか乗り越えてきた。

 だが今回は治療薬や治療方法がない、特殊な病気が相手。


 なんの専門的な知識がないオレは、情けないほど無力なのだ。


(くそっ、“セイレーン病”のやつめ! セイレーン病……ん? セイレーン病だと?)


 そんな時である。

 頭の中に疑問が浮かんできた。


 医学的な専門知識がないはずの自分に、セイレーン病の単語が響き渡ったのだ。


(“セイレーン病”……現代医学では治療薬や治療方法がない特殊な病気……声を失って、やがて死に至る難病……)


 オレに医学的な知識はない。

 だが“セイレーン病”の名前と症状を、どこかで耳にした記憶があるのだ。


 どこで聞いたのであろうか?

 オレは頭の中の記憶を掘り返し、全ての記憶をチェックしていく。


(……ああ、そうか!)


 そんな時、頭の中に稲妻が落ちてきた。


 探していた単語が浮かび上がってきた。

 セイレーン病の記憶の正体が見つかったのだ。


「マヤ、聞いて、マヤ!」

「ど、どうしたの……コータ?」


 突然オレが大声を出したので、マヤはビックリしていた。

 特別個室とはいえ、ここは深夜の病院。出していい声量ではなかったのだ。


 だが今はそんなことに構っていられない。


「マヤ、聞いてちょうだい! オレが必ず“セイレーン病”の特効薬を探してくるから! 決勝戦の前の日まで、必ず見つけ出してくるから! だから希望を持って待っていて!」


 オレは言葉を伝える。

 詳しくは伝えることが出来ない内容。

 だからマヤの両手をギュッと握って、ありったけの勇気を伝える。


「“セイレーン病”の特効薬……? なに言っているの、コータ……」

「じゃあ、急いで探してくるから! またねマヤ!」


 マヤはまだ状況をつかめていなかった。


 だがいつまでも病室で話をしている時間はない。

 一刻も早く“特効薬”の場所を、突き止めないといけないのだ。


 オレは病室からダッシュで飛び出す。


「どうした、野呂コータ⁉ マヤに何かあったのか⁉」

「大丈夫、コータ⁉」


 病室を出た所で、学園長とエレナに鉢合わせした。

 大声で叫んでいたオレのことを、心配したのであろう。


「あっ、エレナちょうどいい所にいた⁉ ちょっと助けて欲しいんだけど! いいかな?」

「な、何よ、いきなり⁉ 何か分からないけどコータの頼みなら、当たり前に助けるに決まっているでしょう!」


 ジュース探しから帰ってきたエレナと、ここで会えたのは最高のタイミング。

 オレ一人では特効薬の場所を探すことは不可能だった。


 頼もしいエレナの協力も得られたことで、希望の光が見えてきた。


「では、学園長。今宵は失礼します! また来ます! じゃあ、いこうエレナ!」

「おい、野呂コータ。どういうことだ⁉」


 状況がつかめていない学園長には、後でちゃんと説明しておく。


 今のオレはとにかく急いでいるのだ。

 エレナと二人で医療センターを後にする。


 向かう先は国際電話ができる場所。

 どこかないかな?


 ……そうだ!


 たしか選手村には個室の通信センターがあった。

 あそこならオレたち選手も24時間無料で使えるはずだ。


「ちょっと、待ってよ、コータ! どこにいくのよ⁉」

「ドイツに国際電話できる場所だよ、エレナ!」


 セイレーン病は数年後には、難病指定から解除される。

 

 何故なら特効薬が見つかるからだ。

 

 そして実は特効薬は、この時代のドイツだけに既にあるはずなのだ。


「ドイツに電話を⁉ どうして⁉ 説明してよ、コータ!」

「後で全部説明するね、エレナ!」


 詳しい説明は後だ。

 こうしてオレたちは特効薬探しを行うのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] セイレーン病って、壊血病のことですよね? 普通にビタミンC摂れば治るでしょうに……というか難病でもないですし。
[気になる点] 「マヤ、聞いてちょうだい! オレが必ず“セイレーン病”の特効薬を探してくるから! 決勝戦の前の日まで、必ず見つけ出してくるから! だから希望を持って待っていて!」 ここの聞いてちょう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ