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第138話:セイレーン病

 夜の選手村散歩をしていたら、クラスメイトのマヤとで会った。

 更にエレナも登場。

 

 そんな時、マヤは急に意識を失い倒れてしまったのだ。


 隠れていたマヤの専属のマネージャーたちも、あの後に駆けつけてくれた。

 みんなで協力して、マヤを医療センターまで運ぶのだった。



「マヤ……大丈夫かな……」


 医療センターの廊下の待合室で、オレは静かに息を吐き出す。

 診察中のマヤのために、ここで待機しているのだ。


「ごめんね、コータ。さっきは取り乱しちゃって。あなたのクラスメイトが、あのMAYAマーヤだったなんて、想像もできなくて……」


 マヤのことは医療センターに向かいながら、エレナには一通り説明しておいた。

 先ほど興奮して詰め寄ってしまったことを、エレナは素直に謝ってくる。


「ううん。大丈夫だよ、エレナ。こっちこそ医療センターのことを教えてくれてありがとう」


 マヤが倒れた時、オレとマネージャー陣はあたふたしてしまった。

 

 そんな時、選手村に隣接した医療センターに運ぶことを、指示してくれたのはエレナ。

 彼女はドイツ代表の緊急時に対して、医療センターのことも事前に調べていたのだ。


「それにしてもクラスメイトに、あの世界の歌姫のMAYAマーヤがいるなんて……コータは相変わらず凄い人脈よね」

「そんな、エレナ……ボクは何もしていないよ? クラスで一緒に話すくらいで、あとサッカー部の試合を観に来てくれるくらいの関係で……」


 マヤがクラスメイトなのは偶然。

 オレが彼女と仲良くなったのも偶然。

 MAYAマーヤがオリンピックサッカーの公式ソングを歌うことも、後で知ったことだ。


「世界の歌姫のMAYAマーヤが、一介のサッカー部の観戦に⁉ やっぱり普通じゃないわね。まあ……何となく私には理由は分かるけど」

「えっ? 分かるの、エレナ?」


 マヤがうちの部の練習を見に来ていた理由は、未だに不思議である。

 サッカーの勉強をしたいのなら、プロの試合もあるのに。


「それは女の勘よ……コータがモテるのは仕方がないけど、まさか、あのMAYAマーヤまでとは……」


 エレナは小声で何やら言っている。

 女性のこう時は、あまり詮索しない方がいい。


 オレも高校生になって、少しだけ人間的に成長していた。



「野呂コータ君……」

「あっ、学園長」


 そんな時、病室から学園長……マヤの父親が出てきた。

 マネージャーから連絡を受けて、学園長も飛んで駆けつけていたのだ。


「野呂コータ君。それにエレナ・ヴァスマイヤーさん。今回は迅速な対応をしてくれて、本当にありがとう」

「当然のことをしたまでよ、私は」

「ボクもです。学園長。頭を上げてください」


 オレたちに向かって、学園長は頭を下げてきた。

 かなり神妙な顔つき頭を下げているので、オレは逆に申し訳ない気持ちになる。


「あの……学園長。マヤは、大丈夫そうでしか?」


 彼女の容態が気になり、尋ねてみる。

 

 マヤは事前に会話していた時は、特に異常はなかった。

 だが急に意識を失い倒れてしまった。

 

 貧血や寝不足とは違い、明らかに異様な状態だったのだ。

 素人のオレから見ても、明らかに普通ではなかった。


「マヤの症状か……」

「あっ、コータ。私、ジュースを買ってくるわ。好みにうるさいから、見つかるまで10分くらいかかるかも」


 学園長の微妙な表情を察して、エレナが席を外す。

 

 オレと学園長を二人っきりにしてくれたのだ。

 こういったところの彼女の気づかいは、凄い。


 さすがは16歳にして、大人たちとクラブ経営をしている才女である。


 エレナが立ち去った後、待合室にはオレと学園長しかいない。

 マネージャー陣の気配は、今はなくなっている。


「野呂コータ君。キミだけには話しておこう……うちの娘の病気のことを……」

「病気? マヤがですか?」


 学園長の突然の告白に、オレは思え声を上げそうになる。

 でも、声を抑える。


「ああ、そうだ。あの子は生まれつき病気を抱えている。特殊な病気で、通称は“セイレーン病”という特殊な病気なのだ……」


 学園長の説明によると、マヤの病気は世界でも特殊なものだという。

 現代医学でも治療薬や治療方法がないと。


「“セイレーン病”にかかった者は、普通の生活ができる。だが今回のように、いきなり症状が進む時もあるという。初期段階では、まずは声が出せなくなるという……」

「えっ……声が……」


 学園長の口から出た説明が、信じられずにいた。

 オレは大きな声を出しそうにあった、口を押える。


「更に“セイレーン病”が発症した患者が1年以上、生き残る確率は1%未満だという」

「1%未満……そんな…………マヤが……」


 更に信じられない説明に、オレは言葉を失う。

 思考が追いつかず、頭の中が真っ白になる。


 同級生のマヤはオレと同じ17歳。

 さっきまであんなに元気だった彼女が、あと少ししか生きられないなんて。


 未だに信じられず、思考が止まってしまう。



「神はなぜ、マヤに……うちの娘に……こんな過酷な仕打ちを……残酷な運命を仕向けてきたのだ……」

 

 先ほどまで冷静に説明していた、学園長の身体が震えていた。

 手が真っ赤になるまで、こぶしを握り締め、自分の感情を必死で押し殺していたのだ。


「病気の話は、マヤは知っているんですか……?」

「1年前までは、言っていない。だが、うちの娘は勘が鋭くてね。霊感というか、それで病気のことはバレてしまったのだ」


 マヤは幼い頃から霊感が鋭かったという。

 不思議な声を聞いたり、オーラを見えたりできるという。


 そのため父親である学園長も、“セイレーン病”のことを話してしまったのだ。


「でも、マヤはそんなに辛そうには見えなせんでした。クラスでも普通にしていたし、歌の仕事もしていて……」

「ああ見えて、うちの娘は気丈でね。“セイレーン病”のことを聞いても、娘は笑っていたのだ……」


 マヤは病のことを知っても、普通に暮らしていた。

 周りに気をつかわせないように、死の恐怖を抑え込んで生きていたのだ。


恥ずかしいことに一緒にいたオレですら、まったく彼女の病気のことを気づけずにいた。


「娘はいつも言っていたよ……『私、死を迎える日まで歌う。声が出なくなる瞬間まで、好きな歌を』……とな……」


 そんな真剣な娘の言葉を口にしながら、学園長は涙を流していた。

 たった一人の娘を、病気で失う父親として涙を流していたのだ。



「ん?」


 その時である。

 オレは誰かが近づく気配を察知する。


「学園長……お嬢様が目を覚ましました」


 それはマネージャーの一人。

 陰のようにマヤに付き添っていた女性である。


 どうやら倒れたマヤが、病室で意識を取り戻したらしい。


「お嬢さまから伝言です。『コータと少しだけ話をしたい』と」

「ああ、そうか。分かった」


 マネージャーから伝言を受け取り、学園長は涙を拭く。


「すまないが、野呂コータ君。娘と話をしてくれないか。これは父親としてのお願いだ」

「はい……もちろんです」


 なぜマヤがオレのことを指名したのか分からない。

 だが日本男児として、断る訳にはいかない。


 マヤの言葉をしっかり聞くために、オレは彼女の病室に向かうのであった。


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