第135話:予選リーグ
開会式の翌日の8月6日となる。
今日はオリンピックサッカーの初日だ。
この時代のオリンピックサッカー本戦では、世界の予選を勝ち抜いた16か国が戦う。
まずは4カ国を4グループに分けて、リーグ戦を行う。
各グループの上位2カ国の、合計8カ国が決勝トーナメントに進出できる。
そして最後は8カ国による一発勝負のトーナメント方式で、優勝……金メダル国を決めるのだ。
◇
「よし、まずは予選リーグ突破を突破を目指すぞ。お前たちの力を、世界中に見せてこい」
「「「はい!」」」
予選リーグ第一試合。
澤村ナオト監督の激励を受けて、オレたち選手は気合の声を上げる。
「野呂コータとヒョウマ。お前たち高校生コンビは、後半から出す予定だ。ちゃんと前半を見ておけ」
オレとヒョウマ君の二人はベンチスタート。
これは澤村監督の戦略の一つ。
相手のスタミナが切れてきた後半に、若い世代を投入して、一気に攻め込む作戦なのだ。
(キックオフか……ついにオリンピック本戦がスタートしたんだ……)
審判の笛の音と共に、試合が開始される。
満員のスタジアムは大きく揺れて、観客たちは日本の応援をしていく。
「凄い、熱気だね、ヒョウマ君!」
「ああ、そうだな。オリンピックが好きな日本人らしい、お祭り雰囲気だな」
試合をちゃんと観察しながら、ベンチ隣のヒョウマ君と話をしていく。
この大阪オリンピックは日本で開催。
サッカーの試合は関西を中心にした、全国のスタジアムで行われる。
そのため観客席の多くは、日本人によって占められていた。
日本とっては常にホーム戦の雰囲気であり、選手にとってもかなり有利な条件である。
「だが外国の選手はアウェイの雰囲気には慣れているからな。油断はできんぞ、コータ」
「そうだね、ヒョウマ君。ヨーロッパのリーグは、半端ないアウェイの洗礼があったからね」
海外のサッカーの盛り上がり方は、尋常ではない。
そのためサポータも時には熱狂的になりすぎる。
世界の過去のアウェイの事例はたくさんある。
・アウェイチームの選手が悪質なファウル、審判が不可解なジャッジをしたら、ホーム側のサポータが一斉に立ち上がる。物を投げたり暴言を吐いたりする。
・審判はホームのチームに対して甘くなる。
・非公開の大事な練習を、相手国に監視されていた。
・更衣室がなく着替えは外。
・練習場に危険物の散布。
・宿泊しているホテル周辺で一晩中騒動を起こして、アウェイ選手団を眠らせなかった。
・選手のバスに物を投げつけ。選手がそろっていないのにバスが出発。
・ロッカールームのシャワールームを、不可解な故障中で使用不能。
など世界では事件が沢山あった。
だから海外のサッカー選手は、アウェーに対応するためメンタルでタフな人が多いのだ。
「海外に比べて、日本は大人しいからな」
「うん、そうだね。日本人はマナーが素敵な国民性だからね」
世界の中でも日本人は、かなり規律と節度を重んじる国民性である。
そのためサッカーのアウェイの洗礼も、海外ほどひどくはない。
今回の大阪オリンピックの開催に関しても、海外のサッカーチームに対しては、万全のおもてなしで迎えている。
そのスポーツマンシップにのっとった日本の対応は、世界中でも高評価を得ていたのだ。
「たしかに日本は美徳で素晴らしい。だが世界のサッカーは戦いだ。負けたら、そこまでだぞ、コータ」
「うん、そうだね、ヒョウマ君。ボクたちも勝って、結果を出さないとね!」
世界に比べて日本のサッカーの歴史は浅い。
100年クラスのヨーロッパや南米に比べて、たったの20年ちょっとしかない。
だが日本サッカーを愛する人たちは、絶え間なく努力と勉強を続けてきた。
日本人らしい戦い方がある。
それを証明するために、今はオリンピックで結果を出す必要があるのだ。
「よし。少し早いが、いけるか? 野呂コータ、ヒョウマ君⁉」
そんな話をしていた時である。
前半35分で試合が動いていた。
澤村監督の声が飛んできた。
「はい、ボクは大丈夫です!」
「オレ様も、もちろんだ」
会話をしながらもアップ運動は終えていた。
前半の相手国の動きも観察して、イメージトレーニングも万全。
「よし、それなら二人同時で交代だ。頼むぞ」
「はい!」
オリンピック本戦に出場する機会が、ついにやってきた。
オレとヒョウマ君は、選手交代のスペースに立つ。
「さあ、大暴れして、オレ様たちの力を、世界に見せつけてやるぞ、コータ!」
「うん、そうだね、ヒョウマ君!」
オリンピック本戦を目の前にして、いつになくヒョウマ君も気合が入っていた。
「よし、いこう、ヒョウマ君!」
「ああ!」
こうして日の丸をつけたサムライブルーの二人の戦士は、戦場へと駆けていくのであった。
◇
それから数十分後。
日本は初戦を勝利で飾る。
ヒョウマ君が1得点で、オレが1アシストの活躍したのだ。
「よし。このままの勢いで、予選リーグを勝ち進んでいくぞ!」
「「「はい!」」」
澤村監督の言う通り、日本代表は勢いに乗っていた。
日本開催ということで、大歓声のエネルギーを追い風にできる。
また8月の日本の気候は世界でも独特。
幼い頃から日本の太陽を浴びでボールを追いかけてきた、日本代表にとっては天の利も味方につけた状況なのだ。
◇
それから数日が経ち、8月9日。
日本代表予選リーグ2試合目。
この日の日本代表は好調だった。
前半から得点を重ね、そのまま試合の主導権をキープ。
2対0で勝利することが出来た。
◇
それから更に日が経ち、8月12日。
この日は日本代表予選リーグ3試合目。
2試合が終わった時点で、日本は勝ち点6。
他国の結果にも恵まれて、予選通過が確定していた。
そのため3試合目で澤村監督は策をうつ。
主力選手の多くを休ませて、サブメンバーで試合に臨んだ。
何しろオリンピックサッカーは過密スケジュールで、選手の疲労が抜けにくい。
またたったの18人しか本登録できなく、他の国際試合が20数人なのに、比べて圧倒的に選手の疲労が大きい。
しかしサブメンバーでの試合はリスクもある。
3試合目に負けてしまったら、チームの勢いが消えてしまう危険性あった。
出来れば最低でも引き分けで、終えなければいけないのだ。
「よし! やったね、ヒョウマ君!」
「ああ、そうだな」
だが澤村監督の策はピタリとはまる。
試合結果は1対1の引き分け。
数日の後の決勝トーナメントを臨んで、主力戦はスタミナを温存に大成功したのだ。
(いよいよ、次は決勝トーナメントか……)
こうしてオレたち日本代表は、8カ国で戦う決勝トーナメントに、無事に進出するのであった。