第134話:むき出しの闘志
“無敵王子”セルビオ・ガルシア。
サッカーの才能に恵まれて、幼いころにスペイン超名門クラブ“レアロ・マドリード”にスカウトされる。
18歳で異例のトップチームでプロデビュー。
その後はクラブとスペイン代表チームで、凄まじい成績を出していく。
前世ではヨーロッパチャンピオンズリーグを6度制覇。
スペインリーグで5度のチーム優勝。
世界最高峰の選手に贈られるバロンドールを6度も受賞。
ヨーロッパリーグとワールドカップで偉業を達成していく、世界NO1プレイヤーの一人だ。
◇
『セルビオ君、久しぶりだね! 5年ぶりかな? 再会できて、本当に嬉しいよ!』
突然の未来のスーパースターの登場に、最初はびっくりしてしまった。
だがセルビオ君に再会できたのは、本当に嬉しい。
オレは駆けよって握手をする。
『ああ、5年ぶりだな、コータ』
オレたち5年前の小学生の年代の世界大会、U-12ワールドカップで対戦していた。
セルビオ君は所属するクラブのU-12の選手として。
オレのいたリベリーロ弘前は、日本代表クラブとして出場していたのだ。
『相変わらず元気そうだな、コータ』
『ありがとう。セルビオ君も元気そうだね! 身長もすごく大きくなっていて、最初は別人かと思ったよ! あっ、でも、5年も経っているんだから、当たり前か!』
再会したセルビオ君は、かなり大きくなっていた。
180cmはゆうに越えて、ヒョウマ君と同じ位の身長。
身体の線もたくましくなり、大人の身体つきをしていた。
『あっ、そういえば、セルビオ君。先日はレアロ・マドリードでトップデビューおめでとう! リーグ戦では大活躍で、ヨーロッパリーグの新人賞もおめでとう! 本当に凄いね!』
セルビオ君は本当に凄い人。
何しろオレと同じ17歳ながら、所属するレアロ・マドリードのトップチームでプレイしているのだ。
レアロ・マドリードといえばスペインリーグの超名門チーム。
この時代では世界NO1クラブとも言われており、地球上のスーパースターが集まるチーム。
昨年彼の16歳でデビューは、クラブ創立でも初の快挙である。
『それを言うなら、コータ、お前の方が凄いだろう? ドイツリーグのF.S.Vでの活躍は、スペインまで聞こえていたぞ』
『えっ、F.S.V時代のことを知っていてくれたの? エヘヘヘ……なんか照れるな』
この時代の日本では、ドイツリーグはまだマイナー。
だが他の国ではドイツリーグは、かなり高い注目を浴びている。
セルビオ君も、F.S.V時代のオレのことを、耳にしていたのであろう。
未来のスーパースターに知ってもらえて、本当に嬉しい。
(ん? あれ、でも、よく考えたら、少し変だな?)
会話をしている時、あることに気が付く。
(セルビオ君は18歳でトップデビューするはずなのに、どうしてだろう?)
前世の記憶を探っていく。
それによるとセルビオ・ガルシアは18歳で、レアロ・マドリードのトップチームでデビューする。
だが今世では去年の16歳でデビューしていた。
2年の差がある。
どうして歴史が変わってしまったのだろうか……?
『オレはあの敗戦から変わった。この5年間は死ぬ気で……命をかけてボールを蹴り込んできた……』
そんなオレの疑問に答えるかのように、セルビオ君が口を開く。
オレの顔を見つめながら、その瞳に力が増していく。
『だから、コータ、今回もオレを楽しませてくれ!』
そしてセルビオ君の口調が変わる。
同時に野生の獣のような闘気が放たれた。
(セルビオ君……いや、これはセルビオ・ガルシアのプレッシャーか……)
セルビオ君は普段は陽気で、いたずら好きなラテン系な性格をしている。
だが試合の中では一気に変わる。
闘気を前面に押し出す、野獣のようなプレッシャーを放ってくるのだ。
『そして、ヒョウマ・サワムラ。お前もな!』
だが今はその闘気を隠すことなく、出してきていた。
オレの後ろにいたヒョウマ君に対しても、その覇気をぶつけていく。
『ああ、オレ様も楽しみしているぞ、セルビオ』
さすがはヒョウマ君。
臆することなく言葉を返している。
『ボクも楽しみにしているよ、セルビオ君。決勝トーナメントで!』
オレも負ける訳にいかなった。
強敵からの覇気は、ドイツ時代で耐性がついている。
そしてスペイン代表と戦うにために、日本は決勝トーナメントに進む必要があるのだ。
『ああ、いい顔だ、コータ。じゃあ、また会おう(アスタ プロント)』
そう言い残して、セルビオ君は去っていく。
同時にどっと汗が流れ出てきた。
セルビオ君の覇気に耐えて、全身から吹き出してきたのだ。
「コータ、大丈夫か?」
「うん、ありがとう、コータ君。やっぱり本物のセルビオ君は凄いね!」
「ああ、そうだな。あの男だけは要注意だ。オレ様たちユベトスFCも、苦汁をなめた相手だ」
ヒョウマ君の所属するユベトスFCと、レアロ・マドリードは名門同士で、ヨーロッパで戦う機会がある。
昨シーズンも、対戦した時はユベトスFCが3対2で負けていた。
休養の作戦ためベンチにいたヒョウマ君の目の前で、セルビオ君は2得点を決めたという。
「うん、そうだね。セルビオ君は間違いなく、現時点での最強の17歳……いや、世界最高峰のU-23の一人かもしれないね……」
ユベトスFCが負けた試合は、オレもTVで観ていた。
あの時のセルビオ君は本当に凄かった。
同じ高校世代とは思えないくらいに、圧倒的なプレイを連発していたのだ。
「だが、そんな怪物も超えていくのが、コータ……お前とオレ様の役目だろ?」
サッカーの世界に絶対的な1番はない。
クラブは常に変化しており、代表チームもその年のよって変化している。
「うん、そうだね! 壁は高いほど……ライバルは凄い人ほど、楽しみだね!」
そしてオレたち選手は無限の進化の可能性を秘めていた。
だから相手がどんな未来のスーパースターでも、挑戦していくしかないのだ。
「よし、そろそろ皆のところに、戻ろうか、ヒョウマ君」
「ああ、そうだな」
他国の仲間とワイワイしていたら、いつの間にか日本代表から離れてしまった。
ヒョウマ君と日本選手団の所にも戻ることにした。
◇
「おい、コータ! さっきのは、あのレアロ・マドリードのセルビオ・ガルシアだよな⁉」
「お前、あのセルビオ・ガルシアと知り合いなのか⁉」
「それにユベトスFCのレオナルド・リッチもいたぞ⁉」
「澤村は分かるけど、なんでコータまでレオナルド・リッチの知り合いなんだ⁉」
日本代表チームの皆から質問責めにあう。
「あとF.S.Vのエース、ユリアン・ヴァスマイヤーも!」
「そうだぞ! F.S.Vといったら、今ヨーロッパでも一番の急上昇中の奇跡のクラブだぞ、コータ!」
質問責めされるのも、仕方がないであろう。
何しろさっきのメンバーは、それほどまでにスーパースター揃いだったのだ。
「それにコータ、お前、何か国語を話せるんだ⁉」
「前は英語で、今回はドイツ語とイタリア語、スペイン語か⁉ お前は天才なのか、コータ⁉」
「というか、親しげだった、あの金髪の美少女は誰なんだ⁉」
質問がどんどん増えていく。
えーと、どれから答えれば、いいのだろうか……。
みんな一気に、いろんなことを聞いてくるので、頭が追いつかない。
「「「お前はいったい何者なんだ、コータ⁉」」」
何も言えずにいたら、代表チームのみんなから一斉に、そんなツッコミが入ってしまった。
(とほほ……これは答えるのは長くなりそうだな……。とにかく、明日からの予選リーグも頑張らないと)
質問にはゆっくり答えていくことにした。
オリンピックサッカーのスケジュールは、かなりタイト。
開会式の翌日には、早くも第一試合が始まる。
それ以降も三日ごとに試合があるのだ。
(決勝トーナメントでみんなと戦うために、頑張っていこう!)
ライバルたちの再会で、オレの闘志は更に燃え上っていくのであった。
◇
そして夜は明けて、次の日になる。
いよいよ日本のサッカーのオリンピックが幕を開けるのあった。