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第131話:日本代表の危機に

 オリンピック代表メンバー18人が発表されてから、数日が経つ。

 その第1回目の合同練習に、オレは参加することになった。


「私が新監督の澤村ナオトだ」


 代表メンバーを前にして、ヒョウマ君のお父さんが自己紹介をする。

 オレもこうして直線目にするのは数年ぶり。

 ヒョウマ君と同じで、相変わらずカッコイイパパさんだ。 

 

 監督の挨拶か。

 最初は気合いを入れるための、激励でもしてくれるのかな?

 代表メンバーは誰にもそう思っていた。


「代表の現状が知りたい。早速だが紅白戦をしてもらう」

「「「いきなり紅白戦ですか⁉」」」


 だ予想は見事に外れた。

 想定していなかったことに、代表メンバーも思わず声をあげる。


「よし、2分後に開始するぞ。急げ」

「「「はい!」」」


 だが澤村監督は構わず言葉を続けていく。

 

 その急な展開に選手たちは、ドタバタしながら紅白戦の準備をする。

 代表メンバーはいきなり混乱の中、練習がスタートとなったのだ。


(相変わらずヒョウマ君のお父さんは先の読めない人だな……)


 そんな中でも、オレだけは冷静に準備を終えていた。

 ヒョウマ君のお父さんとは、オレが小学生の時にしか会ったことはない。


 この人がクールで自分中心なのは、息子のヒョウマ君とよく似ていた。

 だからオレは冷静に対応できたのだ。


(いきなり紅白戦か……面白そうだな。よし、頑張っていこう!)


 オレはワクワクしていた。

 何しろ今日ここに集まったメンバーは、日本のサッカー界の中でも凄い人たちばかり。

 次のようなメンバー構成になる。


・オリンピック代表18名

・バックアップメンバー4人

・トレーニングパートナー5人


 選手はこの合計27名である。

 

 バックアップメンバーは代表メンバーの代役の選手。

 万が一に代表メンバーが怪我した時、彼らが代わりに代表メンバーになる。

 もちろん全員が現役Jリーガーだ。


 またトレーニングパートナーは代表に同行して、成長を促す若手選手。

 19歳の世代別の日本代表メンバーが多く、4年後のオリンピックのための勉強メンバーである。


(こうして考えると、オレ以外は本当に凄い選手ばかりだな……興奮してきたぞ!)


 この27名で紅白戦を行うのだから、ハイレベルな試合となるであろう。

 先発出場するオレも、心拍数が上がってきた。


「よし、それでは紅白戦、はじめ!」


 コーチの合図で紅白戦が開始となる。


「よし、いくぞ!」


 オレは気合いの声と共に駆けだす。


 こうしてオリンピック代表の練習がスタートするのであった。



 それから2時間後、代表メンバー練習会は終わる。

 あまりの楽しさと充実ぶりに、あっという間に時間が経ってしまった。


「ふう……今日は楽しかったな……」


 家に向かいながら、感慨にふける。

 

 ハイレベルなチームメイトとの練習は、それだけ楽しい。

 更に有名選手との紅白戦ともなれば、サッカーオタクなオレにとって至福のひと時なのだ。


「大阪オリンピック開幕まで、あと少しか……本当に楽しみだな」


 今日は練習の後に、ミーティングがあった。

 その時に代表メンバーのスケジュールが、改めて連絡された。

 

 今は7月12日であり、今後のスケジュールは次の通りになる。


――――◇――――

 

7月20日まで、各自で練習と体調管理。


7月21日:涼しい長野県の合宿場で、1週間の事前合宿。


7月28日:事前合宿終了。各自で練習と体調管理。


7月30日:国際親善試合。関西のスタジアムでヨーロッパの強豪国と対戦


8月1日:関西の合宿場で4日間の直前合宿



8月5日:オリンピック開会式


8月6日:日本代表予選リーグ1試合目


8月9日:日本代表予選リーグ2試合目


8月12日:日本代表予選リーグ3試合目

※予選リーグを2位内に入れたら、8月15日から決勝トーナメントに進出できる。


――――◇――――


こんな感じのスケジュールになる。


本番まであと7日間と4日間の2回の合宿があった。

そこで代表メンバーの総仕上げをしていくという。


それ以外の空いた日は、メンバーが各自で調整していく。

各クラブで自主練をして、本戦までコンディションを最高潮までもっていくのだ。


またオリンピック前後はJリーグ自体が、1ヶ月ほど中断となる。

今回は母国開催ということもあり、国を挙げてオリンピックに協力していくのだ。


「あと少しでオリンピック開幕か……未だに実感はないけど、悔いがないように頑張ろう!」


 高校生であるオレが、本戦の試合に出られる可能性は低い。

 

 だが自分はU―23日本代表。

 選ばれなかった日本中の他の選手のために、ギリギリまで努力していくつもりだ。


「よしっ!」


 なんか今日は叫んでばかりだ。

 周りの人からチラチラ白い目で見られてしまう。


 だが今日ばかりは止める訳にはいかない。

 オリンピックを間近にして、オレはそれほどまでに気合が高まっていたのだ。



 それから日が経つ。

 オレたち日本代表のスケジュールは、順当に進んでいた。

 

 今日は7月22日。


 長野県の冷所で事前合宿を行っている最中である。


「ん⁉」

「大丈夫ですか⁉」


 ここまで順調だった日本代表に、大事件が起きてしまった。

 練習中に代表メンバーの一人が、怪我をしてしまったのだ。


「とりあえず東京の病院へ行ってこい。無理はするな」


 怪我はそれほど大きくはない。

 だが完治までは1ヶ月はかかると診断されてしまった。

 

 オリンピックは2週間後……つまり本戦まで間に合わないのだ。


「代わりの選手はバックアップメンバー4人、および国内の23歳以下のJリーガーから再選出する」


 オレたちメンバーに対して、コーチからそう説明がある。

 本来ならバックアップメンバーから1名昇格する予定。


 だが今回、怪我した選手は普通ではなかったのだ。


(まさか日本代表のエースが怪我するなんて……)


 今回怪我したのは日本代表の攻撃の要の人だった。

 背番号は10番での絶対的なエース。

 これにはオレも大きな衝撃を受ける。


(やはり歴史が大きく変わってしまったのかな……このままでは日本はヤバイな……)


 前世とオリンピック代表と、今世の歴史は微妙に変わってきている。

 一番大きなのは監督の解任と、新監督に澤村ナオトが選ばれたことだった。


 だが今回のエースの怪我で、更に歴史が変わってきている。

 このままでは日本は予選リーグ突破も、難しくなるかもしれないのだ。


(バックアップメンバーのFWの人に頑張ってもらうしかないのか? いや、タイプが違うから難しいな……)


 今回怪我をしたのはU―23の絶対的なエースだった。

 残念ながらバックアップメンバーでは、代役の人ではタイプが違い難しいであろう。


(それなら他の23歳以下のJリーガーで、誰かいないか?)


 自分の頭をフル回転させる。

 23歳以下で日本にいるFWのデータを思い浮かべていく。

 

 また前世の知識も同時に掘り起こし、代わりになりそうな選手を検索していく。

 前世の記憶をもつサッカーオタクならでは、必殺検索技である。


(ダメだ……代わりになりそうな選手が、誰もいない……)


 だが日本国内の数百人の有力選手を検索しても、該当する人は見つからなかった。

 凄く上手いFWの選手は、国内にも沢山いる。


 しかしオリンピックで結果を出せる、絶対的なストライカーがいないのだ。


(どうしよう……こうなったらコーチや監督に任せるしかないな……)


 本番まで時間がない。

 焦る気持ちを抑えながら、オレは合宿に集中するのであった。



 それから更に数日が経つ。

 

 今日は7月28日。

 事前合宿の最終日の朝である。


(結局、代わりの選手は見つからなかったな……)


 ここ数日間、コーチ陣とサッカー協会も動いていた。

 だが代わりになるような選手は、まだこの合宿には合流していない。


『オリンピック直前で、日本エースの怪我!』

『どうなる日本サッカー⁉』

『メダル獲得どころか、予選リーグ突破も壊滅的に⁉』

『澤村新監督に責任が⁉』


 マスコミ各社は今回の怪我のことで、また大きく騒ぎだしていた。

 せっかく回復した代表にたいする世論も、かなり下がり始めているという。


(悔しいけど、危機なのは間違いない……誰かいないのか⁉ この危機を救ってくれるストライカー……)


 オレの足取りは重かった。

 これから合宿最終日の練習だというのに、気持ちがどんよりしていたのだ。


「それでは、これより事前合宿の最後の練習を始める」

「「「はい! よろしくお願いします!」」」


 そんな気持ちの中、監督の挨拶で練習がスタートなる。

 オレは暗いムードに負けないように、カラ元気で挨拶をした。


「練習を始める前に、紹介する選手がいる。FW枠の追加候補メンバーだ」

 

 監督の紹介で一人の選手が姿を現す。

 先日怪我をした選手の代わりの人だという。


(誰になったんだろう……でも……)


 代わりの選手を誰なのか、確認したかった。

 でも同時に怖い気持ちにもなった。


 前世の記憶と知識があるために、怖さが強くなってしまう。

 今の日本にはエースストライカーとなれる、代わりの10番はいないのだ。

 

 その事実が重くのしかかり、オレは思わず下を向いてしまう。


「お前らしくない、辛気臭いツラだな、コータ」

「えっ……?」


 その時である。

 あり得ない人の声が聞こえてきた。


 オレは思わず自分の耳を疑う。

 知らない人の声ではない。


 その声はオレがよく知る人のもの。


 だが、ここに……日本にいるはずのない友の声だったのだ。


「そんな……」


 顔を上げて、オレは言葉を失う。

 その声の主の顔を見つめて、身体を震えてきた。


「どうして、ここに……」


 暗くなっていた心が、一気に熱くなってきた。

 武者震いにも似た興奮が、オレの身体を震わせえいるのだ。


「オレ様はユベトスFCから来た。将来の……いや、これからずっと日本代表の10番だ。以上だ」


 その選手は監督の隣で自己紹介してきた。


 オレと同じ16歳でありながら、最初から太々しい態度。

 

 自らのことを『オレ様』と呼ぶ口調。


 はっきりいって、かなり上からの目線である。


「よかった……来てくれたんだね……」


 オレは声を震わせる。

 その人の自己紹介は9年前と、全く同じ口調。


 リベリーロ弘前に入団してきた時の、そのままのセリフだった。


 この声と口調は世界でただ一人。

 

 オレが世界で一番尊敬する人で、世界で誰よりも頼りにしている仲間。


「待たせたな、コータ」


 その人は現役高校生ながらイタリアのセリエAプレイヤー。

 

 ユベトスFCトップチームで活躍するスーパーストライカー。


「うん……おかえり……おかえりなさい、ヒョウマ君!」


 こうして日本代表は最強のエースストライカー、澤村ヒョウマを迎えることになったのだ。















この作品はフィクションのため、オリンピックのスケジュール等が現実とは違います。あらかじめご承知くださいませ。


大まかな点では次のことが現実のオリンピックとは違います。


・日本開催のオリンピックには、サッカー日本はアジア地区を戦わなくても母国枠で出場できる。(この作品では都合によりアジア地区予選も戦いました)


・サッカーは開催式の前のすでに第一試合が始まる。(この作品では開催式の後に、第一試合をします)


・24才も3人出場できるオーバーエージ枠は、この作品では深く書かない予定です。


・そもそも大阪オリンピックが架空なので、温かい目でご覧下さい。



今後も頑張って投稿していくので、よろしくお願いします!



ハーーナ

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