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第126話:晴天からの暗い雲

 新入部員が入部してから、2ヶ月が経つ。

 暦は6月になる。


 オレは相変わらず、サッカー漬けの毎日を過ごしていた。


「よし。今日の朝練はここまで。全員、1限目に遅刻するなよ!」

「「「はい、部長!」」」


 今もちょうど、サッカー部の朝練が終わったところ。

 うちの部の朝練は毎朝、朝6時から8時まで。

 強制参加ではなく、全員が自主的に参加で、実りある練習をしていた。


 だが、学生の本分は学業。

 遅刻しないように、みんなで急いで部室で着替える。


「そういえば、コータ。オリンピック代表の方の調子は、どうだ?」

「先週の国際大会は、どうだった?」


 着替えながら部の皆から、代表チームのことを聞かれる。

 彼らはサッカー好きな高校生であり、代表チームのことが気になるのであろう。


「代表チームの方は、ぼちぼちかな? 順調な仕上がりだと思うよ」


 オレは着替えながら、質問に答えていく。

 コンプライアンス的な守秘義務もあるので、代表のことは具体的なことは答えられない。


 でも実際のところ、代表チームは順調に仕上がっていた。

 先週もフランスでの国際大会に参加。

 世界各国の同年代の強豪国と、互角の戦いをしてきたのだ。


「おお、それはスゲーな、コータ!」

「オリンピックまで、いよいよ、あと2ヶ月ちょっとだからな……このまま頼んだぞ、コータ!」


 着替えながら、部の皆は大盛り上がりしていた。

 オリンピック代表チームは、日本でサッカーをする者の憧れの存在。


 今回は自国開催ということもあり、部のみんなも好成績を楽しみにしていた。


「ボクも頑張りますが……でもボクが最終メンバーに選ばれるかは、分からないので……」


 オレはうやむやに答える。


 今のオリンピック代表は予選を24名で戦ってきた。

 だがオリンピック本戦に出場するためには、最終メンバー18名に選ばれる必要がある。


 予定では来月の7月1日。

 そこで最終メンバー18名が、TVで発表される。


「何しろボクは、まだ高校2年だからね……あまり期待はしない方がいいかも、みんな」


 新聞などの記事によると、オレは最終選考では圧倒的に不利だと噂されていた。


 何しろ自分以外の23名は、全員が現役Jリーガー。

 彼らは毎週のようにTV放送されるリーグ戦を戦い、注目を浴びている。


 代表の監督やコーチ陣は、最後の18人に絞り込むために、Jリーグの試合の視察に行っていた。


 一方で普通の高校生なオレが出ているは、高校の試合だけである。

 特に今の時期は大きな大会もなく、練習試合しかしていない。


 そんな訳で注目度は圧倒的に低く、選考基準では不利と言われていたのだ。


「でもコータのお蔭で、最近は強豪校からの申し込みが増えてきたよな?」

「ああ。先月も、あの青森山多あおもりやまた高校がわざわざ来てくれたからな!」


 部の皆が言うように、最近のウチの部は注目を浴びていた。

 色んな強豪高校からの、練習試合の申し込みが後を絶たないのだ。


「ボクのお蔭か分からないけど……そう言われてみれば、そうだね。最近は?」


 その中で地元の青森山多高校と試合した。

 お互いに新しい新入生を入れた、新体制のチームでの対決。

 実りある試合をすることができた。


 オレはまた地元の仲間に会えて、本当に嬉しい出来ごとだった。


「とにかくコータはうちの宣伝隊長! だから頑張ってくれよな!」

「そうだぜ! オレたちも応援するから、なんとしてでも18人の残ってくれ!」


 部の皆は着替えを終えて、更に応援してくれた。

 誰も特別扱いすることなく、本当に仲間として親身に応援。


 オリンピック代表で緊張する中で、こういった仲間の応援は本当にありがたかった。


「うん。ボクも最後まで頑張るね! 最終選考に選んでもらえるように!」


 オレに出来ることは地道にサッカーをすることだけ。

 最終メンバーが発表される直前まで、自分なりのスタイルで頑張っていこう。


 そんな感じで気合を入れ直して、部室を出ていく。


「お兄ちゃん、着替え終わった? 早く、行こうよ!」


 部室の外には葵が待っていた。

 さっきまで一緒に朝練していたが、今はもう高校の制服に着替えている。

 朝練の時は女子用の部室で着替えていた。


「おお、葵ちゃん。今日も可愛いね!」

「たしかに練習着の姿とは違って、可愛らしさが何段階もアップするね!」


 葵の制服姿に、部のみんなが大興奮する。

 朝練中は鬼軍曹として恐れられているが、普段の葵はマスコット的な存在なのだ。


(葵の高校の制服姿か。だいぶ見慣れてきたな……)


 そういえば4月から、葵は高校1年になっていた。

 オレと同じ高等部に通っている。


 うちの学園の高等部の制服は、中等部のもの比べて大人っぽい。

 高校の制服を着ている葵は、急に大人になったように感じるのだ。


「どうしたの、お兄ちゃん? そんなに見つめられると葵、なんか恥ずかしいな……」

「あっ、ごめん。葵が急に女の子っぽくなったと思ったんだ」

「えっ……お兄ちゃんに褒められると、なんか照れくさいな……でも、嬉しい。エヘヘヘ……」


 高校生になってもこういう反応は、まだ子供っぽいところがある。

 でも、ここが葵のチャームポイントだから、仕方がない。


「あっ、時間がヤバイ! 急ごう、葵!」

「うん、お兄ちゃん!」


 気がついたら、時間が攻めっていた。

 オレたちは部室から校舎に向かって、ダッシュしていく。

 早くしないと1限目に遅刻してしまうぞ。


(バタバタしているけど……本当に充実した毎日だな……)


 走りながら感慨にふける。


 部活や学校生活は楽しい毎日。

 オリンピック代表チームでの練習や試合も、常に刺激に溢れている。


(来月の最終メンバーが発表……本当に楽しみだな……よし、オレも選ばれるように頑張らないとね!)


 こんな感じでオレの順調な毎日を過ごしていた。



 それから日が経つ。

 6月も下旬になっていた。


 いつものように部活を終えて、オレは家に帰宅していた。


 今は家での自主練を終えて、TVのある居間にやってきた。

 今日のサッカーニュースを観るためである。


「いよいよ、来週は最終メンバーが発表日か……」


 サッカーニュースを見ながら、感慨にふける。

 最終メンバーの発表日が、ついに1週間後に迫っていたのだ。


 今見ているサッカーニュースの中でも、最終メンバー18人の予想を立てていた。

 オリンピックを目前にして、日本中がそわそわしている時期なのだ。


(歴史通りの18人になるかな? それもワンチャンス、別の人が選ばれるのかな?)


 オリンピック代表チーム24名は、オレ意外ちゃんと歴史通りに選ばれていた。

 だが日本はアジア地区の最終予選で、歴史を変えて優勝していた。


 その結果がどうなるか?

 もしかしたら最終メンバー18人は、歴史と少し変わってしまうかもしれない。

 こればかりは前世の記憶があるオレでも、予想はできないのだ。


「おい、コータ! 大変だぞ!」


 そんな時。同じTVを見ていたら父親から、急に名前を呼ばれる。


 かなり驚いた感じ。

 いったいどうしたのかな?


「んっ? どうしたの、パパ?」


 ふと視線をTVに戻す。

 画面にはさっきと同じニュース番組が映し出されていた。


 サッカー関連で何か発表があったのかな?

 でもオレの記憶が確かなら、今日は何も重大な発表はないはずだ。


「コータ、上の緊急速報を見てみるんだ!」

「ん? 緊急速報を?」


 父親が指さしているのは、TVの上に出てきた字幕の緊急ニュースである。

 白い文字で横から、何回か流れてくるやつだ。


「何だろう? なになに……『日本サッカー協会の山口会長は……理事会で決定したと発表しました』……か……」


 ふむふむ、やはりサッカー関連だったか。


 それにしても、こんな発表は前世ではなかったぞ。


 もしかしたら、どこかれ歴史が微妙に変わったのかな?


 まあ、変わった歴史は仕方がない。

 上手く付き合っていくしないであろう。


(ん? 待てよ……? 今、何て書いてあった⁉)


 ふと冷静になり、もう一度TVに視線を向ける。

 そこには先ほど同じように、白文字の速報が流れてきた。


(今度はちゃんとよく見よう……『日本サッカー協会の山口会長は本日20時、オリンピック日本サッカー代表チームの監督のエンゼル氏を、解任すること理事会で決定したと発表しました』……か……)


 えっ……。


 えーーー⁉


 確認して心の中で絶句する。

 何故なら速報は、目を疑うような内容だったのだ。


(なんで、こんな事件が⁉ サッカー協会の会長が、オリンピック直前に、監督の解任を⁉ これは大変なことになるぞ……)


 これは前世の歴史では起きなかったことだった。


 日本サッカー史上、前代未聞の大事件。

 2年間、率いてきた監督が、サッカー協会によって急遽クビになってしまったのだ。


 しかもオリンピックを目前にした、この時期に。

 普通ではあり得ない事件だった。


(これはヤバイな……いったい、どうなっちゃうんだろう……)


 歴史が大きく変わろうとしていた。

 

 こうして日本サッカー界を揺るがす大事件に、オレは選手として巻き込まれていくのであった。


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