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第121話:危険な再会

 1月中旬。

 オリンピック本戦への出場を賭けた、アジア地区最終予選の戦いは続いていた。


 日本は予選リーグを突破。

 次の8カ国で戦うトーナメントの、1回戦を何とか勝利する。

 これでベスト4入り。


 あと一つ勝てば2位以内が確定して、オリンピック本戦に出場権を得られる。

 2回戦も絶対に負けられない戦いなのだ。


 日本代表チームは1回戦に続き、全員が緊迫した空気に包まれていた。



「いやー、今日の試合も緊張してきたなー♪」


 そんなトーナメント2回戦の試合直前。

 日本代表のスタメンの中で、一人だけ緊張感がない選手がいた。


「コータ、この重圧の中で、たいした余裕だな……」

「オレたちなんて、緊張で朝飯がノドを通らなかったぞ、コータ……」

「さすがは大物だな……」


 他の代表メンバーにそんな風に言われているのは、野呂コータ……オレだった。


「そ、そんなことありませんよ。ボクも緊張しまくりです! 今日の試合でもベストを出させていただきます!」


 どうやら余裕な顔をしてしまっていたらしい。

 試合前なの、これはまずい。

 オレは顔を引きしてしめる。


(危ない、危ない……歴史を知っていると、どうしても気が緩んでしまうな……)


 オレの上機嫌なのには理由があった。

 何故なら今日の2回戦は、日本が圧勝する。

 つまり日本代表は、オリンピック本戦の出場権が確定しているのだ。


(歴史によると今日の試合では、大川さんの出番はない……つまり、オレがベンチにいるだけでOK。歴史は変わらないからね!)


 歴史では今日の2回戦は、日本が3対0で快勝する。

 メンバーも歴史通りにちゃんと揃っているので、再現は完璧であろう。


 唯一の歴史と違う人物のオレが、ベンチで大人しく待機しているだけでOKなのである。


(試合に出られないのは寂しいけど、次の決勝戦で頑張ればいいからな!)


 今日の2回戦さえ突破できれば、日本はオリンピック本戦に出場できる。

 あとは史実通りにしなくでも、問題はないであろう。


(今日はとにかく気楽に観戦して、サッカーを見るのを楽しもう!)


 試合前にピッチで練習しながら、そう決意する。

 オレはサッカーをすることは好き。

 だが同じくらいにサッカー観戦が大好き。


 他のチームメイトがベンチでくすぶっている待機時間も、オレにとっては最高の観戦時間なのだ。



『ヘイ、日本ジャパン14番!』


 そんな時。試合直前の練習していた時だった。

 日本代表の14番な人……オレは英語で、誰かに話かけられる。


 いったい誰だろう?

 今、このピッピ上は、両国の選手しかいないのに?


「あっ、君は……」


 声をかけてきたのは、アジアの国の選手であった。

 その相手の顔に、オレは見覚えがある。


『カ、カルロさん!?』

『やっぱり、コータだったか。久しぶりだな』


 その選手はカルロさん……5年前のU-15の国際試合の時に、一度だけ対戦した相手。

 ボクのことを覚えて、声をかけてくれたのだ。


『こちらこそ、お久しぶりです、カルロさん! 再会できて嬉しいです! ヨーロッパでの活躍はTVで拝見していました! 握手してください!』


 まさかの再会に、オレは大興奮してしまう。

 何しろカルロさんは凄い選手。


 前世ではアジアの国の人としては数少ない、ヨーロッパリーグでも結果を出すスーパースターなのだ。


 今世でも若干19歳で、早くもヨーロッパでプロデビューしていた。

 オレはドイツ留学中に、このカルロさんの活躍を目にしていた。


 この人はオレが大好きな選手の一人であり、5年前にはユニフォーム交換。

 そんな凄い選手と再会できて、本当に嬉しい。


『それを言うなら、コータ。キミの方がドイツで大活躍だったじゃないか? 私の在籍しているクラブにも、F.S.Vの大躍進は噂になっていたよ』


 なんとカルロさんの方でも、留学時代のオレのことを知っていた。

 特にF.S.Vが2部リーグで史上最短で優勝確定したのは、ヨーロッパ選手中で話題だったという。


『うわっ……それは少し恥ずかしいですが、凄く嬉しいです、カルロさん!』


 凄い選手カルロさんに褒められて、オレは歓喜の渦に浸る。

 

 この時代のドイツリーグは、まだ日本では広く知られていない。

 だから日本でF.S.V時代のオレのことを知っている人は皆無に等しい。


 そのお陰で質問責めを受ける面倒くささは無い。

 だが誰もF.S.V時代のことを知らないのは、正直なところ少し寂しかったのだ。


 ヨーロッパの中ではドイツリーグは一目置かれている。

 そんな中でカルロさんに褒めて貰えるのは、最高に嬉しいのだ。


『今日コータはもちろん出るんだろう?』

『今日の試合ですか……今のところはベンチスタートですが、状況によっては途中出場するかもしれません』


 カルロさんに聞かれたので、今日のスケジュールを答える。

 だが内心では申し訳なく思う。

 なぜなら今日のオレは最後まで、ベンチで大人しくしている作戦なのだ。


『ほう。あのコータが控えだと? つまり日本代表が危機になったら、キミが出てくるわけかい?』

『あっ、一応は、そうなる可能性もゼロではないような、気がなんとなくします……』


 上手くはぐらかして答える。

 でも、日本に危機は訪れないのを知っている。


 何故なら歴史通りにするために、オレは大人しくしているつもり。

 もちろんそのことは誰にも内緒にしてある。


『私はキミとの今日の再戦を5年間、楽しみしていた。必ずキミを引き出してみせる。では後ほど戦場であいまみえよう、コータ!』


 そう言い残してカルロさんは立ち去っていく。

 カッコイイ去り際であり、かなり気合の入った言葉だった。


(えっ……後ほど戦場で……?)


 一人残されたオレは、頭を傾げる。

 何故ならカルロさんの国と、日本は今日の2回戦で当たらない。


 というか史実では、カルロさんの国は1回戦で、他のアジアの国に負けているはず。


 でも、カルロさんは試合用のユニフォームで、今ここにいた。

 これはどういうことであろう?


「ん?」


 オレはスタジアムの大型電光掲示板に、ふと視線を向ける。

 そこには日本とこれから対戦する国名が、大きく書かれていた。


「えっ? えっ?」


 対戦国を確認して、オレは言葉を失う。

 何故なら前世の史実とは違う国が、今日の日本の相手なのだ。


(これは一体どういうことだ⁉ 歴史が変わっている⁉)


 こんなことが起こるとは想像もしていなかった。


 オレは基本的に対戦相手のことは、事前に調べたりはしない。

 だから対戦相手の確認も、すっかり忘れていたのだ。


(とにかく原因を調べないと!)


 まさかの歴史の相違に、オレは日本ベンチにダッシュしていく。

 そして今日の対戦国の詳細なデータを確認していく。


 カルロさんの国のここ数年のデータを、特に目を通す。


(まてよ? よく考えたら、前世ではカルロさんは、このオリンピック代表には選ばれてなかったよな……)


 次に頭の中の、前世のカルロさんが20歳時のデータを検索していく。

 彼はたしかに凄いプレイヤーだが、母国のオリンピック代表には選ばれてなかったはず。


(これは、どういうことだ……)


 どこで歴史が変わってしまったのであろうか。

 オレには見当がつかない。


(でも、このデータはヤバイな……)


 今日の対戦国がここまで躍進してきたのは、間違いなくカルロさんに要因があった。

 彼が前世以上のハイスピードで急成長。

 その勢いで点を取りまくり、最終予選も2回戦まで来ていた。


 それはベンチにあるデータが、全て証明している。


(カルロさんが、ここまで代表チームで急成長したのは、いったい何が原因なんだ?)


 オレの知らないところで、何か歴史を動かす原因があったのかもしれない。


 ベンチにある彼のデータと、オレの前世の記憶の相違点……それを比較すると、オレと戦った5年前。

 その時からカルロさんが、急成長してように読み取れる。


(とにかく、このままではヤバイかもしれないぞ……)


 ベンチで一人焦る。

 何故なら今日の対戦国は強敵である。


 いや……あのカルロという選手が、かなりの強敵なのだ。


(これはマズイぞ……)


 サッカーは11人の集団競技だが、一人の選手によって大きく変わる時がある。

 たった一人の凄い選手の出現により、大躍進する国が何度も出ていた。


 今回の場合は、あのカルロさん。

 彼の本番での恐ろしさは、5年前に必死で抑えたオレが一番よく知っている。


 彼のプレイのリズムは独特で、初見では絶対に止められない。

 あれから更に急成長したカルロさんを、今日の日本のスタメンで止められ人はいないであろう。


(もしかしたら日本が負けてしまう危険性も……)


 こうして大きな不安と抱えたまま、オレたちはトーナメント2回戦に突入するのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これだけ色々変えてきておいていまさら何を言ってるだこいつは・・・
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