表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/157

第114話:大騒動

 オリンピック代表の発表から一夜明ける。

 オレはいつものように朝練のため、葵と学校に向かう。


「ん? 何だ、あの人だかりは?」


 校門の前に妙な人だかりを発見する。

 今は早朝の5時50分。

 いつもなら正門の守衛さん以外はいないはずだった。


「あれは、TV局の人たちかな? 誰かの取材かな?」


 校門前にいたのはTVカメラを構えた、取材陣だった。

 マイクを持ったリポートもいて、各社のマスコミの人たちだった。


「もしかしたら、マヤのやつが、何か発表があったのかな?」


 この学園には世界の歌姫MAYAマーヤこと、マヤが在籍している。

 そのためマスコミ陣もたまに校門前にいるらしい。

 きっと今日も彼女の登校を待っているのであろう。


(それにしても、こんな早朝から集まっているとは、マスコミの人たちも随分と大変だな)


 そんな感じのことを思いながら、葵と校門にランニングで近づいていく。


「ん? もしかして、キミたちはサッカー部の子たちかな?」

「野呂コータ君という選手を知っていますか?」

「彼のことを何でもいいので、教えてください!」


 リポーターの人たちが、いきなりマイクを向けてきた。


「これは……もしや……葵、ダッシュだ!」

「うん、分かった。お兄ちゃん」


 TV局の目的は、なんとオレだった。

 今のところは気づかれていなかったが、捕まるのも面倒くさい。


 オレたちは全力ダッシュで、リポーター陣を突破していく。


(よし、これで大丈夫か?)


 オレたちは何とか学園の敷地内まで逃げ込むことができた。

 守衛さんがいるので、TV局も敷地内まで深追いしてこない。


(これは大変なことになりそうだな……)


 だが、今日一日は大変なことになりそうだだった。

 彼らマスコミは数日間は校門の前に張り付いているであろう。


 とにかくオレたちは朝練のグラウンドに向かうことにした。



「という訳なんです、皆さん……」


 朝6時になる。

 朝練が始まる前に、オレはサッカー部の皆に説明する。


 先週のセレクションに参加したこと。

 その結果、次の日の日本代表との練習試合に参加したこと。

 そして昨日の夜にTVでいきなり名前を呼ばれたことを説明する。


「皆さんにも、迷惑をかけたみたいで、本当にすみませんでした……自分でも今でも信じられなくて……」


 サッカー部のみんなも校門前のマスコミから取材攻撃を受けていた。

 いきなりのことだったので、皆も気分を害しているであろう。

 オレのために迷惑をかけたみたいで、本当に申し訳ない気持ちなる。


「これは謝ることじゃないぞ、コータ!」

「えっ、部長……でも……」


「ああ、そうだぜ、コータ! だってウチの部からオリンピック代表が選ばれたんだぜ!」

「そうだよな! こんな御めでたいことはないぜ、コータ!」


 頭を下げるオレに対して、部の皆は笑いながら励ましてくれた。


「オレなんか昨日のTV発表の時に、鳥肌が立ったぜ!」

「オレも! うちも家族総出で大喜びしていたぜ!」


 部の誰もが笑い飛ばしていていた。

 先ほどマスコミから取材攻撃を受けたことを、まったく気にしていなかった。


「皆さん、ありがとうございます。でも、ボクは自分のことを隠しながらプレイして、みんなを騙すようなことを……」


 そのことはオレにとって後悔であった。

 この部活の練習中、オレは力をセーブしてプレイしていた。

 嘘はついてはいないが、結果としては騙したことになる。

 そのことだけは本当に、謝罪するしかない。


「ああ、そのことか? コータがドイツでプロリーグに参加していたのは、オレたち知っていたぞ」

「えっ、部長なんで?」


 まさかの部長の返答に、オレは目を丸くする。

 F.S.Vに在籍したことは日本の誰にも言っていない。

 ネットで『野呂コータ』を検索しても、なぜか見つからない現象で、誰も知らないはずなのに。

 いったいどうして部長たちは知っていたのであろうか?


「それは葵ちゃんから、聞いたからだぞ、コータ」

「へっ? 葵から?」

「ああ、そうだぜ、コータ。2ヶ月前から、オレたち全員、知っていただぜ!」


 オレは思わず変な声を出してしまう。

 なんと、葵から聞いていたのか⁉


 だが、これで理由は判明した。

 特に葵には口止めしていないかったから、バレても困る理由はない。


「2ヶ月前って、けっこう前ですよね? でも、誰もドイツのことを、ボクに聞いてこなかったですよね?」


 新たな疑問が浮かんできた。

 普通は新入部員が、ドイツでプレイしていたなら気になる。

 

 練習後とかに質問責めとか、してくるはずなのに? 

 でもサッカー部の皆は、いつも通りに接していた?


「コータが普通の選手じゃないことは、入部した時から気が付いていたからな、オレたちは」


「えっ、最初から?」


「ああ、そうだぜ、コータ。明らかにお前のプレイは、普通じゃなかったからな!」

「なんか訳ありっぽかったけど、最初からバレバレな感じだったよな、コータのヤツは!」


 なんということだ。

 オレは自分の力を隠してプレイしていたのは、バレていた。

 それを分かった上で、サッカー部のみんなは知らないふりをしてくれていたのだ。


「だからオリンピック代表チームの方に全力を尽くしてこい、コータ!」

「ああ、そうだぜ、コータ! 部の試合の方は、オレたちだけでも何とかなるから、心配するな!」


 オリンピック代表チームに選ばれたとなると、今まで通りに部に参加できない場合が多くなる。

 練習や海外遠征などで、スケジュール管理されてしまうのだ。


「マスコミの奴らからも、コータのことを守ってやるぞ!」

「ああ、そうだな! 学園長にも協力してもらって、コータを守ろうぞ!」



 オレは部に参加できにくくなってしまう。

 だが部の皆は暖かい言葉をかけてくれた。

 今まで以上にタマ高校サッカー部として、暖かく歓迎してくれていたのだ。


「部長……先輩方……みんな……」


 そんな熱い仲間たちの言葉に、オレは目頭が熱くなる。

 上手い言葉が見つからず、本当に感謝しかない。


「よし、コータが泣きはいったことだし、朝練開始しようぜ!」

「ああ、そうだな! コータがいなくなる期間のために、みんなでレベルアップしようぜ!」


「はい、よろしくお願いします!」


 こうしてオレはサッカー部のみんなの笑顔に背中を押してもらうのであった。



 そんな早朝の朝練が終わり、1限目が始まる時間となる。


(この後は教室に行って、どうなることか……)


 今は大阪オリンピック前年度で盛り上がる年。

 昨日のTVの発表はクラスのみんなも観ていたであろう。


 きっと質問責めにあうに違いない。


 でも、どう答えればいいのかな?

 理解あるサッカー部の皆とは違い、クラスメイトにいちいち答えるのは骨が折れそうだ。


『ピンポン、パンポン~♪ 1年1組の野呂コータ君は、至急、学園長室まで来てください。もう一度、言います。1年1組の……』


 そんな時、校内放送が流れた。

 呼ばれているのは、オレの名前である。

 もちろん内容はオリンピック代表チームのことであろう。


(怒られるのかな……とにかく、学園長室に行かない!)


 1限目に出ている場合ではなさそうである。

 オレはダッシュで学園長室に向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ