好意があるから悩む
彼の気持ちが分からない。
いったいいつどこで何時何分に私にほだされる部分があったのか。
真剣に私は考えてみたが、やはり、思い当る節はない。
「あのポーカ―フェイスの内側で何を考えているのか分からないわ」
もう少し、確たる愛されている証が欲しいと思うのは……公爵令嬢としては、贅沢すぎる悩みだ。
政略結婚当たり前な私の今の立場で、結婚してから恋はするもの、という環境では当然なのだけれど。
「……嫌いではないから、求めてしまう」
小さく私は呟いた。
私が欲しいと言われたのは、嫌いではない相手だったので嬉しくはあったのだけれど、その嬉しいという感情以上の、恋い焦がれるような“思い”が私自身に欲しかった。
私自身が“不安”なのかもしれない。
それとも欲張りなのだろうか。
「嫌いではない、でも好きというのは、もう少し、こう……」
強い思いが私の中でほしい。
私の中の情熱。
そして彼の持つ強い思いを見てみたい。
そこで私は気づく。
私は、愛し、愛されたいのではないかと。
「贅沢な悩みだわ。そしてその我儘を彼は許してくれている」
いまだに執事の立場に甘んじているのは、そういう事なのだろうか。
罪悪感がふつふつと私の中で芽生えていく。
けれどだからと言ってすぐに彼を受け入れられるわけでもなく、
「……嫌いじゃないから割り切れない、どうしよう」
私は頭を抱えた。
なまじ好意があるから悩む。
どうしよう、どうしよう。
風邪は治ったけれど別な意味で頭が痛い。
これならば外を散歩した方が気がまぎれるのか、と考え出した私は気づいた。
「……デートをしましょう。今日は快晴だし、丁度いいわ」
私は小さく呟き、ラウルを呼ぶようお願いしたのだった。