困ったわ
熱にうなされていたとはいえ、少し無防備すぎただろうか?
「成功報酬は、“私”、か」
執事の……何故かいまだに執事をやっているラウルにお願いをしたのは、つい数日前の事。
偽の婚約破棄書を仕込んだのも彼で、だから私は本物にしてくれるようにお願いをした。
その交換条件は二つ。
どうして私がラウルの正体について知っていたのかを話すこと。
もう一つは後になって聞いたのだが、私が“欲しい”らしい。
「私にどうにか出来る事ならと思ったけれど、私自身が欲しい、か」
完全に予想外だったと思う。
乙女ゲームの世界では、その辺りの詳しい話はなかったから気づかなかったのだ。
ラウルが、彼が、私を好きだと。
そもそも普通に執事として接していて、私自身が信頼できる人だとしか認識していなかった。
そんな私に恋い焦がれるような様子は、何処にもなかった……と思う。
鈍感主人公のように、私自身が自分への好意に気付いていなかっただけ、とは思いたくはない。
「だいたい、装うのがうますぎるのよ、ラウルは。どこからどう見ても普通に有能な執事にしか見えないし」
私は呻くようにつぶやいた。
あの美形であるラウルの正体は……アレである。
本来であれば従者なんてものをやるような人物ではないのに、数奇な運命に翻弄される彼はここの屋敷の執事として働いている。
もうすでに彼自身に話は行っているので、執事なんてものをやめてもっと自分の思うがままに幾らかはふるまえる様な気もする。
けれど彼は、未だに私の執事のままだ。
「告白も今は保留にさせてくれているしね。『あまり待ってあげられませんよ?』とは言っていたけれど」
彼が何を考えているのかよく分からない。
それも私が困っていることの一つだった。