成功報酬は
それから再び熱が上がってきた私は数日寝込んでいた。
本来であれば自分で動いていられたのだが、風邪で身動きが取れなかった。
乙女ゲームではそんな展開だったかな? という気がしないでもなかったが、どうやらそのようだ。
有能なラウルという執事がいてよかったと私が思いながら、安心して私は風邪を治すのに専念していた。
そう言えばラウルが言っていた数多の危機を“回避”する予知のようなものがあると言っていたが、両親はそんなものを迷信だと一蹴してあまり私には話さなかった気がする。
というか一回だけだった、話したのは。
良くも悪くも現実主義者な両親だったなと私は思う。
とはいえラウルの暗躍により結局は上手く婚約破棄が成功していたらしい。
私が風邪をひいている間に。
物語内のヒロインと私を婚約破棄した王子はくっついたそうだ。
眠っている間にすべてが解決している素敵な展開、そう私は思ったが、何かを忘れている気がした。
「何だっけ。大したことないだろうし、多分問題ない」
そう思って大分熱の下がった私はベッドで背伸びをした。
そこでドアを叩く音がする。
現れたのはラウルだ。
「全てクリスティーヌ様、貴方の望んだとおりに事を運びました」
「ありがとう。助かったわ、これで当面の問題は回避されたわ」
「そうですね。それで、もう一つの報酬を頂きたいのですが」
ラウルが楽しそうに私に告げる。
そう言えばそんな話があったなと私は今更ながら思い出して、
「ええ、分かったわ。その成功報酬は何かしら」
「貴方です」
ラウルは即答した。
私は一瞬何を言われているのか分からなかった。
呆然とラウルを見上げているとラウルは微笑み、
「何でもくれるといったのは貴方でしょう? クリスティーヌ様」
「……ラウルは私が好きだったの?」
「そうです。偽の婚約破棄書を作ってしまう程度に」
あっさりと言い切ったラウルに私は何も言えなくなってしまう。
今までそんな素振り、全くなかったというか気づかなかった。
そもそも、
「私、前は結構性格が悪かったような気がするけれど、何処が好きになったの」
「あの程度性格の悪いうちに入りませんよ。……ですが私がクリスティーヌ様に恋をしていると全然気づいていらっしゃらなかったのですね」
「う、で、でもだって、いつも普通だったし」
「装う事には慣れていますから。それで、約束は守って頂けますか?」
「……もしも破ったらどうなるのかしら」
ふと気になって私は聞いてみた。
ラウルが、嗤った。
「では、破ってみますか?」
「……止めておく、ラウルが怖い笑顔を浮かべているもの」
「そうですか、残念です。それも楽しそうなのですが」
ラウルは何処からどう見ても残念ではない顔で笑っている。
何だかなと私は思いつつも、
「でも相性があると思うの。もう少しお試し期間でデート等をさせてもらえないかしら」
「……それでクリスティーヌ様が納得するなら構いませんよ。既に長い間片思いをしていたわけですから」
ラウルがそう頷いてくれる。
というわけでほんの少し猶予期間を得た私だが、結果としてラウルの“溺愛”にほだされてしまうのは、これからすぐ後の出来事だった。




