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愛してる

 声を聞いて私は安堵した。

 

「ラウル」


 名前を呼ぶと、それだけで私は安心してしまう。

 そこで怪人が私から手を引き、振り返る。

 何処か苦虫をかみつぶさ板ような声で、


「これはこれは、王子様が何故ここに」

「私は、私の誰よりも大切な女性、クリスティーヌを迎えに来ただけです」

「ははは、ご冗談を。貴方が誰かに執着するとは思えない」

「私もそう思っていましたよ。クリスティーヌと出会う前は」


 そう告げたラウルの声は、驚くほど冷たい。

 どんな表情をしているのか私からは見えない。

 けれど怪人の“怯え”が見える。と、


「本気のようですね。ですが僕の役目もご存じでしょう?」

「知っています。ですが、すでに彼女は私の物です。それでも手を出すというのであれば、私もそれなりの行動をとらなければならない」

「……貴方を敵に回すのは、あまりよくありませんね。仕方がありません。はじめからまた探しましょう、王子様。いえ、“幸運な化け物”でしたか?」

「あまり私に関わると、貴方が一番困る出来事が降りかかるやもしれませんよ?」

「それは恐ろしい。……では失礼させてもらいますよ。ですがこれでこの国にはもう僕が探している人物はいなそうですね」


 そう呟くと、怪人は私の目の前から消え失せる。

 後には、ラウルが先ほどの怪人がいた場所の近くに立っていて、でも、


「無事でよかった。クリスティーヌ」


 ラウルがそう微笑んだのだった。







 助けに来てくれたのは嬉しい。

 けれど私には一つ気になることがあった。


「ラウルは怪人と知り合いのようだったけれど……」

「……クリスティーヌは私の伴侶になる女性です。彼にはどんな理由があろうとも渡せません」

「怪人は、何者なの?」

「……この世界の秘密に関わる、おとぎ話に出てくるような魔法使い、とだけ」


 ラウルは私にそう告げる。

 それ以上は話せない内容なのだろう。

 けれど、


「誘拐して身代金を何て、どうしてそんな面倒な事をするのかしら」

「魔力の相性も含めてみていたのでしょう。どのみち、彼の要求する身代金は、貴族にとってはした金でしかありません。目的を隠すためにそのような行動をとっていたのですから当然ですが」


 ラウルの説明を聞きながら、そういえばそのような話も先ほどしていたと私は思い出す。

 身代金目的ではなく、魔力の強い伴侶を探すためだと。

 けれどそれほど強い魔法使いならば、


「あんな……人を操る魔法使いにどうしてラウルは恐れられているの?」

「彼の、人心を操る魔法は昔から私達王族には効かないのです。しかも、魔法は私は“幸運な化け物”と呼ばれる特殊な力を持っている」

「そういえば彼もそんな名前でラウルを呼んでいたけれど、どういう意味なの?」

「……私はどうあっても死なないし、勝利するという事です。それが私の“幸運”という名の特殊能力。偶然にすべてが私を守るように動く。だから……私は生き残ったのです」


 淡々と告げるラウル。

 彼の過去はいくらか乙女ゲームの中で知っているとはいえ、きっとそれだけではないのだと私は思う。けれど、


「その“幸運”があったから私はラウルに出会えたのかしら?」

「さあ。しれは何とも。むしろ……出会ってしまったがために、貴方は私から逃げられないのかもしれませんよ? 私の“幸運”のせいで」

「でも私はラウルが好きだから、それは私にとっても“幸運”だと思う」


 私はそう言い返した。

 だって私は、ラウルが好きだと抑えきれない自分の気持ちに気付いたから。

 言い訳なんてできない、そんな気持ち。


 それを告げるとラウルは……本当に驚いた顔をする。

 珍しい。

 それを見て何だか私はおかしくなってしまう。


「そこまで驚くことはないのに」

「いえ、私はそこまでクリスティーヌに思ってもらえるなんて……」

「嬉しい?」

「嬉しいです」

「それならばもう一度。私はラウルの事が好きです。きゃあ!」


 そこで地面に座り込んだままの私に、ラウルが跪くようにしてそのまま強く抱きしめる。

 私からはラウルの表情は見えない。

 けれどその力強さが、私思う話したくないと言っているように感じる。


 だから私もラウルの背に手をまわして抱きしめる。

 言葉は何もなかったけれど、私にとってラウルが一番近い場所に感じる。と、


「決めました」

「何を?」

「私の全てを手に入れてきます。大切なクリスティーヌを守れるように。だから、少し時間をください。必ず迎えに行きます」


 そう、私に決意したかのようにラウルは告げる。

 私はラウルに待っているわと答えて……そこで顔を赤くして私たちを見ている、いつの間にか目が覚めたキャンディの存在に、私はようやく気付いたのだった。

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