伴侶を探している
魔力の強い伴侶を探す、それが目の前のこの人物の目的であるらしい。
どことなく喜びの色が混じった声でそう叫んだ彼に私は、
「ご令息も誘拐したはずでは」
「……普通の誘拐に見せかける必要であったからね。やはり貴族と呼ばれるものたちの方が魔力が強い。だから狙っていた。お前以外にもそこにいる娘にもいくらか魔力を感じたが、お前の方が強い力を持っているようだ」
楽しそうに彼は告げる。
それに私は理解するよりも、ぞくりと肌が総毛立つのを感じた。
気持ちが悪い。
そしてすぐに目の前の彼が、私を伴侶たりうると判断しているのでは、という疑問に突き当たる。
恋人にと望んでいるのだろうが、私の恋人、と小さく心の中で呟くだけで、私の中でラウルが浮かぶ。
婚約破棄のお願い、といった理由ではあったけれど、私にとってもうすでに恋人はラウル以外に考えられない。
こんな状況になってようやく私は、自分自身がラウルを“好き”だと気付いた。
そこで、目の前の怪人が笑うように、
「我々には為すべきことがある。そのためにも、強い魔力を持つ娘が“必要”だ」
告げた言葉にぞっとした。
この人は魔力しか見ていない。
私をただ単に魔力の強い“娘”としか見ていない。
クリスティーヌという個人ではなく、いい“物”を見つけたというかのようなその発言が気に入らない。
そこでようやく、目の前の人物はゆっくりと私に近づき始める。
今だ、そう思った私はドレスに隠した短い護身用のナイフで襲い掛かるが、
「なかなか勇敢な娘だな」
余裕めいた男の声が聞こえて、それと同時に私の手かナイフがポロリと地面に落ちたのだった。




