目的
この誘拐犯である奇妙な人物は私の事や、私の能力を知っているらしい。
だからといってその能力が、攫われてしまった“今”、それが役に立たなくてはどうしようもない。
魔法もほんの少しであれば使えるけれど、目の前の彼を相手にして勝てるだろうか?
魔法について考えるならば、それよりも近づいてきたところを倒した方が確実だ。
だがまだ彼は動かない。
そう思っていると、背後でパタンっと何かが倒れる音がした。
まさかと思って振り返ると、キャンディが気を失って倒れている。
怖い怖いと呟いていたが……恐怖で倒れてしまったのか?
そう思うも私は乙女ゲームの世界でヒロインだったキャンディの行動力や豪胆さを知っている。
そんな彼女がこの人物を見ただけで倒れるとは思えない。
同時に先ほどからほんの少し、いつもと違う恐怖感を私も感じている。
抵抗できる、と目の前の人物は言っていた。まさか、
「“恐怖”を感じさせる、それが貴方の魔法なの?」
「そこまでの答えでは、20点程度しか上げられませんね」
「……どうでもいいわ。誘拐犯であることには変わりない。私達を攫って……ただで済むと思っているの? 最近新聞をにぎわせている“怪人”さん?」
「ああ、そういえばそんな見出しで新聞に僕の事が描かれていたね。身代金目当ての“怪人”といった話になっていたね」
「他人事のように話すのね。お金が目的ではないと言いたいかのよう」
私はそう言い返すと目の前の彼は小さく笑い、
「そうだよ。僕の目的は身代金ではない。……僕の目的は、魔力の強い伴侶を探すことなのだから」
そう、目の前の彼は私に告げたのだった。




