白い怪物
硬い石の地面を歩く乾いた高い音。
この部屋の外には石畳が広がっているのだろうか、と思う。
けれどその足音は一つだけ。
以前攫われた時のように、何人もの足音はしない。
そして話声も、不規則な歩く音の羅列も、ない。
けれどそのただ一人というのが逆に不気味に感じられる。
ここにいるのは私とキャンディの二人。
女といえど二人がかりで襲われればひとたまりもない、は言い過ぎかもしれないが人数的に危険ではある。
よほどの愚か者なのか、それとも……。
そう私が経過しつつ扉の方を見ていると、かちゃかちゃと鍵が開く音がする。
今更ながらにドアには鍵がかけられていたのだと私は気づいた。
キィ
周りが静かだからこそ、ドアが開く鈍い音するも薄気味悪さを感じる。
けれど、現れた人物はもっと奇妙で不気味な恰好をしていた。
一言で表すなら、“白”。
この薄暗い夜の闇が満ちる中、その人物自身が淡く輝いているようにも見える。
その白い服はローブのようにも見える。
端の方に、目をモチーフにした絵が描かれていて、それが時々赤い光を帯びている。
そんなこれまでに見たことも無いようないような様相の人物が、私達の前に現れたのだ。
「ひぃ」
キャンディが怯えたように小さく声を上げる。
私も悲鳴を上げそうになったが、彼女の声を聞いてすぐに正気に引き戻される。
そしてすぐに彼女の前に行く。
「クリスティーヌ?」
「……こう見えても、自分の身は守れる程度の教育は受けておりますの」
冗談めかして告げながら、護身用にドレスに隠しておいたナイフにそっと手を伸ばす。
まだ目の前の人物は扉の入り口に立ったまま動かない。
冷たい風が、部屋へと吹くのを感じる。と、
「……恐れないのか」
そんな男の声が、その白い奇妙な人物からしたのだった。




