答える気は無いようだった
さらっと脅しも込めてそう告げたラウルにウィリーはうんざりしたように、
「分かった、それで聞きたいことはそれだけか?」
「まだクリスティーヌ様への恋愛感情があるのかないのかを聞いておりません」
「ない、これでいいか」
「ありがとうございます。これで、次の手を打たなくて済みそうです」
その時、ウィリーはラウルのぞっとするような笑みを見た。
残酷で冷たい深淵をのぞいたかのようなそれに、この執事は一体何者だとウィリーの背筋に冷たい汗が出る。
けれどすぐにそんな様子など消し去ってしまったラウルが、
「クリスティーヌ様に関してはこちらはもう譲れません。一度手に入ったのならばもう、手放すことなど無理ですから」
「……諦められないと」
「ええ、本当は貴方と婚約の話が出た時には、私としたことが怒り狂ってしまい……いえ、何でもありません」
「……何をしたんだ?」
「大したことではありませんよ。そしてもう一つのお話ですが……」
「おい、気になるじゃないか」
「最近、怪人が出没する、その話をご存知ですか?」
これ以上ラウルは答える気は無いようだった。
だから聞いてもこのラウルは答えないだろうという妙な確信からウィリーが、
「怪人ね。新聞をにぎわせている、といった話は見たな。貴族の令嬢令息、どちらも巻き込まれている。それがどうかしたのか?」
「その次の標的が、貴方の愛しいキャンディ嬢と、私のクリスティーヌ様だと言ったらどうされますか?」
「今、さりげなく“私の”といっていたな」
「些細な問題です。そういった話があると、一応はお伝えしておこうと思いまして」
「彼らが行動する日時は? そしてどうしてお前はそれを知っている?」
「日時は数日中。情報は……徐々に地位の高い貴族を狙っているため、いずれはクリスティーヌ様も狙われるだろうと調べていたから、とだけ」
「偶然、ね。お前が言うと偶然に聞こえない」
そう嘆息気味にウィリーが答えると、ラウルが、
「偶然です。全て。私は偶然の中にしかいない」
「? どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。それ以上ではありません。さて、そろそろ戻りましょうか。お二人の話が終わっているよ良いのですが」
そして部屋に向かったラウル達が見たものは、愛しいものたちのいない寒々とした部屋だったのだった。




