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冗談だから

 時間は、クリスティーヌ達と別れた後にさかのぼる。

 ウィリーを呼び出したラウルは、周りに人がいないのを確認してから、


「ここならば、誰にも聞かれないでしょう」

「それで、こんな所に俺を呼び出した理由をそろそろ説明してもらおうか」


 何処か不機嫌なのは、だまし討ちのような真似をしたからなのかとラウルは思う。

 それとも、


「いえ、クリスティーヌ様に、本当に恋愛感情の欠片もないのかを一度本音で聞いておきたいと思いまして」

「俺にはキャンディがいる。クリスティーヌよりも美しくはない、と誰もが言うが俺にとってはただ一人の美しい最愛の女性だ」

「安心しました。欠片もクリスティーヌ様には興味がない、と受け取ってもよろしいですね」

「……それを聞いてどうする? そして婚約破棄したもののまだ、“愛人”という手が残っているが?」


 意地悪くウィリーが聞いてしまったのは、全てラウルが裏で今回の婚約破棄に暗躍していたのが気に入らないからだ。

 恋愛感情がないとはいえ、美しい異性であり、そこそこに好意を抱いていたクリスティーヌ。

 それが婚約破棄という形をとったのも、クリスティーヌ嬢が望んだとはいえ全て、このラウルの奸計によるものだった。


 だからこういった悪趣味な意趣返しはどうだろうと思って言ってみたウィリーだが、そこでラウルが頷き、


「なるほど、では、キャンディ様に、クリスティーヌ様をウィリー様が愛人にしようとたくらんでいるとお伝えしておきましょうか」

「待て、止めろ。冗談だから」

「……冗談でもそのような事は口になさらない方が賢明ですよ。でないと……取り返しのつかないことになりますから」


 そう、ラウルは焦るウィリーに穏やかに返したのだった。 


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