混乱する
相談したいことはもちろんラウルの事だ。
「全部、ラウルには分かっていて、私はラウルの手の中で踊っている気がするの」
「そうなの? ただ単にラウルがクリスティーヌに夢中なだけではなく? 夢中で何時もクリスティーヌを見ていたから全部わかってしまうのではなく? いつも目を離すことが出来ないくらいに」
意外な答えに私は目を瞬かせながらキャンディを見る。
そんな私をキャンディが何処か悪戯っぽく笑いながら見ている。
私はそこまで見られていたのかと思いつつも、
「……それもあるかもしれないけれど、でも、少し驚かせたいなって思うの。どんな時もラウルは動じないから」
「冷静だものね。でも頼れる相手ではないのかしら」
「それはそうだけれど……私はもっと、完璧じゃないラウルが知りたいの」
優等生なのは知っている。
執事として完璧。
彼ほど有能な人物は見たことがないと聞いた事もある。
でも私は、
「誰でも知っているラウルではなくてもっと……」
「クリスティーヌだけが知っているラウルがあると良いなって思うのね」
「そう、なのだと思う」
「クリスティーヌは、ラウルを独占したいの?」
「……分からない」
キャンディの言葉に私は、首を横に振る。
ラウルを独占したいのか、どうか。
自分だけを見て、自分だけのものにラウルをしたいのか。
元々は婚約破棄をお願いするための交換条件だったけれど、今もこうやって、デートをしたり私の気持ちが追い付くのを待ってくれている。
私の気持ち。
そう考えると私は戸惑ってしまう。
自分の気持ちはよく分からなくて、夢中になる恋がどんなものなのか私にはまだよく分からなくて、でも、ラウルが私の手を離れてしまうのは、嫌。
混乱するように様々な感情が、思いが、不安が混ざり合う。
黙ってしまう私だけれどそこで……その部屋の窓に、誰かが現れたのを見たのだった。




