そうなのです
二つの飲み物のうち、一つを渡してくる。
果実の飲み物がいいというふわっとしたお願いから彼が選んだものは、
「“モモカの実”のジュース?」
「それに微かに香草で香りづけがされているのだそうですよ。あのお店では自身を持ってお勧めする飲み物だそうです。おかげで私も同じものを購入してしまいました」
「意外にラウルは押しに弱いのね」
「美味しいと薦められて断るのは、至難の業ですよ?」
「それもそうね」
といった話をして、飲み物に口をつける。
紙の使い捨てのカップ。
この今いる私達の世界は、魔法がある分色々な進歩が違っている。
科学が必要だから進歩した、という結果を今私は見ているのかなと思いながら口をつけると、
「! 美味しい、爽やかな香りがする」
「本当ですね、お薦めするだけの事がありますね」
ラウルも美味しそうに飲んでいる。
表情は相変わらずだが、雰囲気には感情がにじみ出る。
でも、思い出すとそういえば初めて出会った時は、まるでゼンマイ仕掛けの“人形”のように雰囲気も凍り付いていた気がする。
またいつもの、とその時私は思ったのだから確かだろう。
けれど今はあの時感じた作り物のような空気はラウルにはない。
ラウルの、ラウルらしい一面を一つ、私は見つけられた気がした。
それが嬉しくて、ニコニコしながら私は飲み物を飲んでいると、
「そんなにその飲み物がお好きですか?」
「美味しいわよ。でも、それ以上に良い事に気が付いたの」
「それは何ですか?」
「ラウルの感情が私の屋敷に来た当時と比べて、読みとれるようになっているなって」
「……」
「小さな変化だから見逃していたわ」
そう私が答えるとラウルは困ったように、
「では、もう少し隠すようにしましょう」
「? どうして」
「……貴方が無防備すぎるので、私の……その、男性としての感情を悟られてしまうと逃げられてしまいそうな気がしますので」
「そうなの? 全然分からないけれど」
不思議に思って答えるとラウルは、
「そうなのです」
そう、一言だけ答えたのだった。




