いい香りはする
こうして屋敷を抜け出すときは、ラウルと一緒にと約束させられてしまった。
だが現在この状態ではどう考えても、
「これからのデートの約束をしただけなのでは」
「気づかれてしまいましたか」
「……こうやって私が油断するとすぐにそう……」
「申し訳ありません。クリスティーヌだけはどうしても諦められませんから」
ラウルがそんなことをのたまう。
どうしてこう、少しの切っ掛けとなる会話だけでこれほどまでに口説くのか。
「私をそこまで口説いて、疲れない?」
「疲れるというよりは、私の場合は“必死”でそれどころではないのです」
「……何だか悪い事をしている気持ちになるわ」
「どうしてですか?」
「ラウルが必死なのに、私はそこまで情熱をまだ持てていないの」
「かまいませんよ、貴方の心を落とすのも楽しみの一つですから」
ラウルが楽しそうに私に言う。
何だか恋愛ゲームをしているみたいねと思いながらしばらく歩いていくと、のどが渇いてくる。
そしてすぐそばには偶然にも空いているベンチと、飲み物を売っているお店が。
「ここで休んで、何か飲みましょう」
「では私が買ってきましょう、クリスティーヌは何が飲みたいですか?」
「そうね……果実を絞った飲み物がいいわ」
「沢山ありますよ。仕方がありません、クリスティーヌが好きなものを選んできますね」
そう言ってラウルが飲み物を購入しに行く。
それを見送りながらそこで、どうしてここのベンチが開いていたのかに気付いた。
「花から少し遠いな。でも、いい香りはする」
目に見える物だけが魅力的だとは限らない。
私はそう思いながら座っていると、飲み物を二つ購入したラウルが戻ってきたのだった。




