思い出した
その日、私は風邪をひいていた。
ここ数日冬の寒さが厳しく風邪をうつされてしまったらしい。
心労もあったのかもしれない。
うんうん唸りながら薬を飲みつつベッドに眠っていた私は、そこで夢うつつながら不思議な光景を見ていた。
白いビル群が立ち並び、石や砂利でなく、何かで舗装された地面。
けれど酷く見覚えがある。
ここは何処だったかなと思っていると名前が呼ばれる。
そう、私は×××だ。
趣味は、乙女ゲームというもので、そして。
ん? あれ、悪役令嬢クリスティーヌ? 主人公は別の子で、このルートだとバッドエンドでクリスティーヌが没落しなくて。
婚約破棄は偽物で、でもそっちルートは皆不幸になって。
没落した方が幸せエンドってどうなんだろうね、と話していたような気もする。
頭に衝撃が来た。
大きなものが頭にぶつかったような衝撃。
死ぬかと思うくらいに居たいような変な感覚が私の中に生まれて感じてしまう。
だが、同時に私の中に大量に降り注いだ“知識”の海が、私を、風邪をひいている場合じゃない、という焦燥感に駆り立てた。
「ま、待ってよ、どうしてこんな状況に! うぎゃ」
私は余りの展開にベッドから身を起こした。
だがすぐに頭痛がして、私はベッドにもぐりこむ。
風邪の治っていない体では、起き上がって行動を開始するのは不可能だった。
「く、どうして私は今風邪をひいているの、うう、婚約破棄はいいのだけれど、あの展開だけはいただけないわ。……とりあえず今は治そう」
私はそう呟き、再び布団にもぐりこんだのだった。