冗談なのか本気なのか
ラウルは私を兎に喩えて、“獲物”だといった。
そしてラウルは自身を“狼”だといった。
発言は、少し怖いし熱っぽくささやかれた自覚はある、のだけれど。
私はラウルの顔をじっと見つめた。
相変わらず穏やかな微笑を浮かべる。
時々この顔で怖い発言をするが、その時もこの顔なので冗談なのか本気なのか区別がつかない。
これが区別になる様になればいいのにと私は思う。
けれど何もしないままでは一生分かりそうにもないので、私はラウルの顔をじっと見つめた。
穴が開くほど見つけてみたが、ラウルは相変わらず微笑を浮かべるのみである。
それが私には悔しい。
結局ホラー劇でラウルを涙目にする計略は失敗した。
代わりに私が涙目になったが。
余裕じみた彼のもっといろいろな表情が見たい。と、
「そのようにじっと見られてしまうと、誘われているように感じますよ」
「……発言は危機感を覚えるような物なのに、ラウルのその表情を見ていると全然危機感を覚えられないわ」
「そうなのですか? それは良い事を聞きました。クリスティーヌ様のその油断は大いに利用させていただきましょう」
「……」
私は無言になった。
こうやって手の平でひたすらコロコロされているだけなのは私にとっては気に入らない。
だからせめてもの仕返しと思って私はラウルに手を伸ばし……頬を引っ張った。
「?」
「……頬を引っ張っても表情はあまり変わらないのね。こうすると笑みが深くなるだけだし……」
そこで私はラウルの頬から手を放すと、相変わらずラウルは微笑を浮かべている。
だから、油断した。
「!」
そこで私はラウルに額にキスをされて、
「頬を摘ままれた仕返しです」
相変わらずの微笑みを浮かべたラウルにそう、私は告げられたのだった。