子供だまし
どうやら私が怖がってこのラウルに抱きつくという展開を、ラウルは期待しているようだった。
私の事が好きなのに怖がらせようとするのはどういった了見なのかと思いはしたけれど、涙目なラウルを見たいと思ったのは私で、だからここを選んだわけなのである。
人の事は言えない。
とはいえ怖い展開があろうとも、ラウルに抱きついてやるものかと私は思った。
今回の件で思い出したい世界の知識は乙女ゲームだけではない。
その世界に存在したCG映像である。
CGのリアルな化け物描写を見たことがあった私は、この程度の劇など子供だまし、恐れるものなど何もないと、自身の能力を過信していた。
せいぜい張りぼてのお化けが、宙を舞う程度だろう、そう思っていた。
実際に幼いころに見たお化けの出てくる劇では、ホラーの苦手な私は顔のついたカボチャに悲鳴を上げて泣き叫んでいたものだが……相変わらずホラーは苦手だが今ではあの程度の張りぼてを見たら泣き叫ぶどころか笑える自信がある。
だからどう考えても私が怯えてラウルに抱きつく展開などありえない!
自信を持って私はそう思った。
思っていた。が、やがて劇が始まり、
「ひいっ!」
そこで私のすぐそばに白い靄のようなものが動いていった。
しかも周りよりも冷たい。
そして劇場に反響する、不気味な笑い声……。
実はあとで知ったのだが、この劇は“リアル”指向で受けていたらしい。
魔法を色々な風に使った極上エンターテイメントだったそうだ。
けれどそれを知らなかった私は、白いお化けもどきがそばを通るまでは我慢できたけれど。
ドサッ
天井から血塗られたゾンビの人形が目の前に落ちてきた所で、たまらず隣に座っていたラウルに抱きついた。
「役得ですね」
いつもと変わらない声音でそう、ラウルが呟いたのだった。