ちょっとだけ悔しい
こうして私は、気づかなければよかったラウルの腹黒さに気付かされた。
気づかないうちに手の平で転がされていたという事実を知らされた私は、その事実に衝撃を受けて気落ちしていた……というわけではなく、絶対にこのホラーな劇で泣かせてやると決めた。
そう私が心の中で決めてニマニマして歩いていると、周りに歩いている人がちらちらと私達の方を見ている。
「私、そんな変な恰好をしているかしら」
そう呟き自分の恰好を見る。
普通の量産品のワンピースで、薄い青色の生地に、金色で縞模様や花の模様が為されていて、裾の部分には白いレースがつけられている。
けれど普通の人達も着れるようなお値段のものであったはずだ。
でなければ変装の意味がない。
そう思っているとラウルが何がおかしいのか笑っている。
「……何がおかしいの?」
「いえ、クリスティーヌ様はご自分の事はよくお分かりになっていないのだなと」
「……外で“様”づけはやめて。変装の意味が無くなってしまう。それにデートなのだから」
そう言い返してやるとラウルは、小さく笑い、
「そうですね、今はデートの最中でしたね、クリスティーヌ」
私のことを名前だけで呼ぶ。
様をつけるなといったのは私だけれど、実際に言われてみるとそわそわしてしまう。
特別な感じがするからだろうか?
それともラウルが私に、前よりも近く感じるからだろうか?
この違和感がどこか気恥ずかしく感じて私は、
「そ、それと、そういうなら私だって言い返してやるわ。さっきの女の子達が見ていたのはラウル、貴方だった気がするわ。きっと私ではなく、貴方が綺麗だから皆こちらを見ているのよ」
「クリスティーヌは私が綺麗だと思っているのですか?」
「そ、そうよ」
「それは嬉しいですね。他ならぬ、貴方からの賞賛ですから」
微笑んだラウルに私は、敗北を悟る。
ちょっとだけ悔しい。
そう私が思っていた所で、魔法で作られた明かりで装飾された、劇の看板が見えたのだった。