私の策略
ラウルの意外な一面を見た私は、ほんの少しだけ欲を出した。
折角なので、このラウルが慌てふためいたり怯える姿を見てみたい、と思ったのだ。
私も性格が悪いなと思いつつ、最近話題であるらしい演劇を見に行くことに。
大盛況ではあるものの、随分と以前から宣伝されていたのでそろそろ皆、見終わったころだろう、と思うのだ。
だからその場で劇の券は買えると思う。
小道具なども凝っていて、それはそれは恐ろしい仕上がりになっている……というのがうたい文句だった。
いわゆるホラーに分類されるその劇は、“怪人”が美しい孤児の少女に恋をしてしまった事から始まる恋愛であるらしい。
大筋は、私の元いた世界の“オペラ座の怪人”に似た物語のようだ。
そう言えば私の名前はクリスティーヌだったなと思ったが、それは置いておくとして。
ある種の狂気に満ちた恋愛物語なのだが、幽霊が出てきたりゾンビが出てきたりといったあたりは、私の世界の物とは違うらしい。
そして今回のその劇の見所は、そのホラー部分であるようだ。
なので私はそれを見て涙目になるラウルを見たかった。
だから目的地を決めて、貴族令嬢だと分からないような服に着替えてこっそりラウルと屋敷を抜け出した。その時、
「なるほど、時々屋敷を抜け出されていましたが、このような抜け道があったのですね」
「……そういえば今まで抜け道を見つけるたびにそこが使えなくされていたのは、まさか貴方の仕業?」
「クリスティーヌ様に怪我をされては困りますから」
微笑みながら告げたラウルに、そういえば彼が来てから抜け道が全て防がれていた事にようやく気付いたのだった。