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1 血塗られた朝と二日酔い

どうも芦静一です。

あらすじに書いてある通りこの文章は番外編的なアレなので、本編を見てない方は作者ページから本編に飛ぶか、まあそんなに問題ないだろくらいの覚悟をご用意ください。じっさいそんなに問題ないと思います。

 生きるのがイヤになる。そのレベルの頭痛に襲われながら、目を覚ます。

 俺は苦しさを絞り出すように、欠伸だかなんだかわからないような息を吐き出した。朝陽とともに窓から流れ込んできた新鮮な空気が、爽やかさとともに吐き気を連れて来て「うぇぇっ」結構ガチで来やがった。口元を急いで押さえる。

 仰向けになってシミの浮いた天井を眺めながら、昨日の夜のことを思い出そうとした。この共同部屋で、研究本部から特別に支給された酒を飲んで、馬鹿騒ぎして・・・その後は思い出せない。そもそもベッドに入った覚えがないんだが。自主的に入ったのか、それともルームメイトが寝かせてくれたのか。


 頭を掻き毟って、もう一つ、欠伸の成り損ないを体外に送り出す。ビールのイヤな苦みが口の中にへばりついている。水飲みたい。十七にして初めて飲んだ酒はトラウマになりつつあった。


 不快感を持て余しながらベッドの上で屍体ごっこをしていると、突然視界全体が薄暗くなった。

 寝ころんだまま首を捻る。陽差しを遮るように枕元に立つルームメイトの少女と目があった。

 ショートの黒髪が朝陽に輝く。すごいいい天気。にも関わらず、少女は無表情を貫いている。

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・おはようございまーす・・・」

 「・・・おはよ」

 しばらくの沈黙の後、耐えられなくなった俺から挨拶を切り出すと、その少女は俺を見下ろしたまま、無愛想に挨拶を返してきた。

 「どうした?」

 「誰も起きてこない。寂しい」

 少女--東川美月は、心底どうでもよさそうな口調で、そう言った。言葉と裏腹に。本心を交えぬ声で。

 「まあ、あんだけ夜中に騒いだらな。日頃から夜更かししてるわけでもないし。俺だって頭とか痛ぇ・・・」

 「お水、持ってくる?」

 ずいっ、と美月の瞳が俺の寝ぼけ顔に迫る。

 食い気味なその勢いに、多少焦った。寝起きを凝視されるのは、多少恥ずかしい。


 それにしても、感情表現が偏った少女である。顔は笑ってないくせに、行動に機嫌がそのまま出る。それは彼女の特徴であり、愛らしいところであり、そして彼女の異常性のわかりやすい発現でもある。


 「お前は、平気なのか?」

 なんとなく目を逸らしながら、俺は美月になにげない風に聞いた。そうでもしないと彼女の瞳孔で俺の心が一夏のアバンチュール・・・みたいな感じでイカレてしまう。恥ずかしさで。彼女の眼の真っ直ぐさに対する、焦燥を伴う恥ずかしさ。仲間内なら誰にでも見せてる表情なのだが、それでも眼の前に突きつけられると威力が高い。


 若干悶々としている俺の心を知ってか知らずか、美月はそのすまし顔を俺から遠ざけると、小さく口を開いた。

「淑女たるもの、酒に飲まれてはならぬ」

「・・・?」

「おじいちゃんが死に際に言ってた」


 突飛な遺言に、思わずぶふっと苦い唾を噴き出す。

「冗談、冗談」

 美月が目をわずかに細める。それが彼女の笑みだと気づくまでに少しの時間を要した。アルコール漬けのがたついた脳味噌が、朝日でのぼせていく。鈍い痛みと苦みが現実味の薄い意識に滲んでいく。とりあえず、太陽が眩しい。


「お水汲んでくるー」

そう言うと、美月は廃人同然の俺をベッドに置き去りにして、流し台のある方へと歩き始める。

 左右に揺れる彼女の黒髪を目で追ってみる。ほっそりとした、それでいてしなやかな少女の後ろ姿が、薄暗い部屋のクソだるい空気の中を歩いていく。

 ・・・テクテクテク、そんな擬音が聞こえそうなほど、無感情な背中で。大人びていて、そのくせ幼くも見える。しかも違和感ねぇし。

 俺はその謎を世界の七不思議にぶち込みつつ、その足元に転がっている死体Bを見つめた。横目で。


 セメントの床に、転がっているもう一人。少女。金髪。泥酔。寝息---というかイビキ。それに伴う胸の上下。たわわな、それ。白い、無防備な、太股。

 なんか見てるこっちが恥ずかしくなるほど豪快に寝ている少女。思わず『ハーフ最高!』とか叫びたくなるしないけど私刑で私刑確定だからしないけどTシャツの生地と胸の膨らみダブルで柔らかそうとかいわないけ「うひょっす!?」不意打ちで肩をトントンされた。


「大丈夫?」

 美月が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。そんなに変な顔をしていたのだろうか。だとしたらすみません。

「だいじょぶです」

「そうなの?」

 同い年の異性に興奮なんてしてないですからあははおかしいな。

 はあ、疲れた。死にたい気分だぜ。


 差し出されたコップを受け取り、頭の熱を覚ますために一気に流し込む。頭が底から真っ白になるような、怖いくらいの快感。新幹線のように爽快が歯の間を抜け、喉へと流れ込んでいく。

「ぷはっ」

 俺の一気飲みになぜか拍手する美月。飲み会の延長かよ。


 冷静さを取り戻し風味な脳味噌がうねる。昨日の飲み会の意図が、いまさらのようにおもいだされる。


 新しい朝のはじまり。

 それは、血塗られた日々のはじまりだ。



「そういえば、昨日の夜に俺をベッドに寝かせてくれたのって・・・」

「・・・」

 美月は俺の言葉に答えることなく、代わりに俯いた・・・あれ、なんか頬赤くないすか?

 いや、別に深い意味は無かったんすけど。

このページを開いてくれた方に、際限ない感謝を。

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