一
柔らかな木漏れ日にきらめく、草木を濡らした朝露が、ツツジの匂いを含んだ微風に揺れる。
ここ天明寺には樹齢百年を超す大きな桜があって、それを目当てに県外から観光客が来ることもある。広い寺だ。がらんとしている。桜の季節を過ぎた今、特にこんな早朝から、参拝客の姿はない。しかし威勢の良い勤行の声が響いているせいか、わびしさはない。
その一室から、雰囲気にそぐわない電子音が響く。鳴って早々にかちりと止まる。
恵は己の意思で止めた時計を睨む。
はあっと諦めたような溜息をついて、身体を起こし、枕元の眼鏡をかけて、パジャマを着替える。目覚まし時計が鳴って制服に着替えるまで、五分と経っていない。
縁側を伝って風呂場近くの洗面所へ到る。さっさと顔を洗って、眼鏡をコンタクトレンズに変えて、次に炊事場へ向かった。
「おはようございます」
恵は流し台に立つ女に挨拶をする。女は振り向いてにっこりと微笑みかける。
「あら、おはよう恵君。まだ寝ていてもよかったのに」
「いえ、手伝います」
恵は返事も待たずに割烹着を着る。
「んー。じゃあ、冷蔵庫の佃煮よそってくれるかな?」
「はい」
鍋では大根人参が踊っている。出汁の匂いが満ちている。恵がお盆を持って、四人分の朝食を机へ運ぶ。時計を見る。六時半。
「恵君、優ちゃん起こしてきてー」
台所から聞こえた声に、
「はーい」
と返す。
縁側を伝う。襖の前に立ち止まる。
「姉さーん、朝です。起きてください」
返事なし。息を吸って、もう一度、今度は大きな声で、
「姉さーん! 朝です起きてくださーい! 遅れてしまいまーすぅ!」
返事なし。
「姉さーん! 入りますよー! 良いですかー!」
返事なし。ふうっと息を吐いて、面持ちを緊張させ襖を開けた。
部屋の中央の布団には、布団から身体の半分以上出した白い狼の留がすーすーと寝息を立てている。それに少しだけかかった掛け布団が、寄り添うようにこんもりと膨らんでいる。
恵は深呼吸をひとつ、
「姉さん、おはようございます」
ぺろっと布団をめくった。
留を抱き抱えるように眠る姉が現れた。パジャマ姿に、すーすーと静かな寝息を立てて、甘えるように留に寄り添っている。俯いて肩を震わせる恵。
「ふふ……ふふふふ……。もしも〝覚悟〟をしていなければ、ぼくは死んでいたろうさ。僕も成長しているんだなぁ。……ってそんなこと言ってる場合じゃないや。姉さん、起きて下さい」
恵はゆさゆさと揺らした。優は眉をひそめてちらりと恵を見た。そして、ぎゅっと留に強くしがみついた。恵はそっと掛け布団を元に戻した。
「……伯母さんすみません。ぼくにはできませんでした」
「恵」
背後から男の声。振り返り見上げると、袈裟を着た体躯の逞しい剃髪の僧が恵を見下ろしていた。
「あ、伯父さん。おはようございます」
「ああ、おはよう。……それより優を起こさなくて良いのか?」
「良いのです。姉さんが眠いと主張していらっしゃいます。それを尊重するのが弟というもの」
「……身内が間違いを犯しそうだったら、助けてやるのが義理というものではないのか?」
「はっはっはっはっは。伯父さん、ご冗談を。姉さんが間違っているはずがない。この世界は姉さんを基準に作られておるのです。このかわいらしさが証拠です」
「相変わらずわたしの理解を超えるよ、お前は」
その時ゆさゆさと布団が揺れる。
「うるさいなぁ……」
優がちらっと掛け布団をめくって目を細めながらふたりを批難の眼差しで眺めた。
「あ、ごめんなさい姉さん。どうぞ寝ていて下さい」
「いや、起こせ。優、朝だ。起きなさい。朝食もできてるとのことだ」
「ぶー……」
優は頬を膨らませて、やっとのこと起き上がった。身体をふらふら揺らせながら、枕元の眼鏡をかけて、パジャマのボタンに手をかけた。
「あ、姉さん手伝いましょう」
恵が優のパジャマに手を伸ばしたとき、
「喝ッ!」
伯父が叫ぶと、恵の全身を電流が走ったような衝撃に襲われた。
「うぎゃ!」
ばたんと畳に突っ伏す。伯父は恵の足を掴んで、ずるずると縁側を引き摺る。
「ああ……ぼくのサンクチュアリがぁ……」
「そんなものこの世の中にはない」
*
ふたりは制服姿で神社の掃除をしていた。天明寺のすぐ側にある大蔵神社。
優は眼鏡をコンタクトレンズに変えて、いつも通りの凜々しい表情を作っている。
「……何?」
優は自分をじっと見つめる恵に気づいた。
「姉さんは眼鏡をかけていてもかけていなくても素敵です」
「そう」
優は恵を無視して掃除を続ける。恵も特に気にしない。
さっさっさっと箒をかける。
と、ふたりは不意に、お堂の裏に回る。そこには木製の木箱が設置されていた。
通称〝妖怪ポスト〟。何の説明書きも成されていないが、通称が付くほど今や有名になってしまっている。
ここへ届くのは、妖しげな便りばかり。
狐に化かされた。
人語を喋る大きな犬が畑を荒らす。
狸の大宴会が毎晩煩い。
身長三メートルのを超える鬼が出没が出たかと思えば、こちらを見てびっくりして逃げていった。
蛇を殺したら家が傾いた。
地蔵のお供え物を盗んだら、毎晩地蔵が大群をなして家へとやってくる。
酒を抱えてやってくる猿にアルハラを受けている。
恐らく警察へ相談などできないお悩みが、次々投函されている。ここへ投函されたお悩みは、たちまちのうちに〝何ものか〟によって解決されてしまう。
恵が投函箱を開ける。
「……姉さん、なんか入ってました」
「見りゃ分かるわ」
素っ気ない茶封筒を取り出して、無警戒に開ける。
さて、内容は次の通り。
『友人のことで相談があります。わたしは賀来高校二年の吉沢柳子と言います。
その友人は、元々すごく明るい子でした。でも高校へ入学した辺りからでしょうか、急に他人を避けるような態度をとりだしました。声をかけてもひと言二言しか返してくれなかったり、そして単に人付き合いが悪くなっただけではなく、引きこもりがちになり、学校もよく休むようになりました。笑顔が当たり前だった彼女が、暗い表情ばかりをするようになりました。
これはおかしいと思いましたが、それ以上におかしなことがあったんです。
ある朝の登校中でした。その友人を見つけたのですが、声をかけづらくなっていて、距離を取って歩いていました。そんなわたしの元に、朝練の野球部のボールが勢いよく飛んできました。危ないという声を聞いて振り返ったときには、ボールはすぐ側まで迫ってました。
ボールはわたしに当たりませんでした。友人がそのボールを受け止めていました。友人は十メートルは遠くに居たはずです。一瞬でこちらに来て、ボールを掴んでいたのです。ボールはぐにゃりと握りつぶされていました。
人間業ではありませんでした。わたしは確信しました。わたしでは彼女の力にはなられない。どうか、彼女を掬って下さい。』
「……んー。友人が誰かってことは書いてませんね」
「会って話せということね。信用されているのかされていないのか」
優は恵から手紙を取って、くしゃくしゃと丸めた。
「嘘ならば青の花咲かせ。真ならば赤の花咲かせ」
と言って、ぽいと投げた。地面に着地するとにわかに光り炎を上げるも、一瞬にして消えた。
後には、真っ赤な一輪の花だけが残った。
「……面倒臭い」
優は大きな溜息をついた。
「ま、がんばりましょう」
恵は苦笑して、真っ赤な花を取った。
*
実のところ彼にとって「告白」というイベントは珍しいものではない。小さいことや、一部言動を除けば、彼の大人びた言動やつんとした仕草、整った見目形はひとの心を惹いた。しかしながらこうして、手紙が靴箱に入っている、と言う経験は初めてであった。
(……面倒臭い)
まず抱いた感想がそれだった。同日に二通の手紙。
「恵」
「はいィ!」
優に呼ばれて反射的に手紙をポケットに隠した。
「……どうしたの」
訝しげな視線を投げる。
「いえいえ、何でもありませんよ。どうしました?」
「ううん、今日は玉涛さんのところに用があるから先に帰っててって言おうとしただけ」
「ああ、そうですか。分かりました」
「……ま、いいわ。気をつけて帰りなさいね」
「はーい」
優の姿が消えてから、恵は手紙を開いた。
『放課後、誰も居なくなった時間、教室で待て』
そういうことで、夕焼け差し込む、恵以外誰ひとり残っていない教室で待っていると、さて、きゅっきゅっと上履きを鳴らして何ものかがこちらへ向かってきた。
がらり。戸が開いて女が姿を現した。リボンの色を確認。ひとつ上で、優と同学年だ。長い黒髪を風になびかせて、眼鏡越しに恵の姿を鋭い瞳で捉えている。長身だ。
きゅっきゅと上履きを鳴らして恵に近づいてきた。どうやら目当ての人らしい。
恵は深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。ぼくには想い続けている人が居るので」
きゅっ。音が止まった。恵は顔を上げる。女は、驚いたような表情を浮かべている。
「……は? 貴方、何を言っているの?」
(面倒臭い)恵は心の中でもう一度呟いた。(そんなに自信があったのかな。泣かれたりしたらどーしよ)
そんなことはおくびにも出さずに、
「お気持ちは嬉しいですが、貴方と付き合うことはできません。心に決めた人が居るので」
女は言葉を失って立ち尽くした。そして深い溜め息。
「貴方……それってわたしを油断させるための演技? それとも本気?」
「……えーっと?」
どうもいつもと勝手が違う。女はさっと髪を掻き上げる。恵を睨みつけると、威圧感がほとばしる。
(……あれ、コレってもしかして〝ソッチ系〟? ちょっとこれ、マズいかな)
「貴方でしょう? わたしを付け狙っているのは」
「……え?」
「貴方から、そのにおいがする。わたしをずっと追いかけてくるにおい……」
「ん? え? 何? どゆこと?」
本当に憶えがない。謂われのない逆恨み?
「別に、素直に教えてくれるなんて思ってないわ。貴方の身体に教えて貰うから」
「ちょっとー?」
女が膝を曲げて地を蹴ると、既に恵の目の前にまで迫っていた。
「えー?」
女の拳が繰り出される。拳に空気が螺旋状に巻き込まれて破裂音を響かせる。恵は紙一重で躱す。衝撃波に教室の硝子窓がバリバリと鳴る。
「具離ッ!」
恵が叫ぶ。管の中から金色の狐の具離が飛び出して、怒りの形相で牙を剥き女に襲いかかった。襲いかかってきた具離を紙一重で避けて、恵に向かって今度は回し蹴りを繰り出す。一歩下がってそれを避けようとした、が、女はぴたりと回し蹴りを止めて、前蹴りで見事恵の腹部を捕らえた。
「んぐッ!」
黒板に身体が叩きつけられる。お椀状に教室の壁がえぐれる。この激しい物音に、学校中が騒ぎ立てる。
「においが強くなった。……はっきりしたわ。やっぱり原因は貴方ね」
(ヤバいッ!)
この女をマトモに相手するのはヤバいが、それ以上にこの状況下で自分たちの姿を見られるのはヤバい。恵は窓硝子を割って、三階から躊躇なく飛び降りた。
「逃がさない」
女もそれを追った。
*
女は学校裏の林の中に居た。
「居るのは分かっている。出てきなさい」
がさっ。茂みから物音。狐が飛び出し襲いかかった。女はその脳天に正拳突き。ぽんっと軽い音を出して狐は消えた。と同時に四方八方から狐が飛び出してきた。
女は冷静だった。素早い動きと鋭く力強い拳で次々と狐を消し去った。
(嘘でしょ、どうなってんの?)
恵としては、草むらから狐を飛び出させるタイミングやスピードを工夫して攪乱させようとしているのだが、まったく通じていない。
「そこでしょ? 分かるわ」
女は林の奥の木へ目掛け風になって走った。回し蹴りで、隠れていた木を砕いてしまった。恵は既に別の木へと飛び移っていたものの、その表情に余裕はない。
「随分戦い慣れていらっしゃいやがりますねェッ!」
「慣れたくないわよ、こんなの」
女は瞳を鋭くして恵を睨みつけた。恵の額を汗が濡らす。
(……駄目だって言われてるけど、仕方ないよね)
恵は枝の上でピンと背筋を伸ばした。
「具離、入れッ!」
命ぜられ、具離は草むらより飛び出して、彼の額目掛けて跳んだ。しゅるしゅると額の中に入り込むと、過去と同じように、髪が金色に染まり、具離同様の耳、尻尾、髭がぴょこんと生えた。
恵は不敵に笑って女を見下ろした。
「どこの誰だか知らないけど、売られた喧嘩は買うさ」
「ふーん。それが貴方の本性? 性根悪そうね」
女は怯むことなく、拳を構えて膝を曲げた。そして地面を蹴って、弾丸のように恵に向かい飛び込んだ。
「はッ! 調子づくなアマがッ!」
恵は瞳を金色の輝かせ、彼もまた女向かって跳んだ。
「化け物めッ!」――女が叫んだ。
「お互い様」――恵が冷淡に返した。
その時だった。
「双方、納めなさい」
声とともに恵の脇腹に衝撃が走った。
それが優の蹴りだと分かったときには、恵の身体は十メートル近く飛ばされていた。
突如として現れた優は、同時に女の拳をふんわりといとも簡単に受け止めていた。
「優ちゃん!?」
女は驚いてその名を呼んだ。
「愚弟が迷惑をかけたわね、柊洋子さん」
優は諦めたような溜息をひとつ。
そして恵の身体はドスンと木の幹に叩きつけられ、重力に引き寄せられて地面にぽとんと落ちた。
「……姉さん、お友達でしたか」
地面に突っ伏しながら恵は聞いた。
「クラスメイトよ」
素っ気なく答えた。
「え? え……? 何、どういうこと? えっと……。あれ、優ちゃんっていつも眼鏡かけてたっけ?」
私服姿の優は、学校のいつもの姿と違い、寝起きの時同様の黒フレームの眼鏡をかけていた。
「この状況で良くそれを聞けたわね。混乱しているのかしら? ま、それだけ追い詰められていたってことかしらね。あと……こんなところに来ちゃったのはマズかったかしらね」
ひょこり。ひょこり。茂みから次々と狐が頭を出した。
その狐どもは、先ほどと違い色は黄色黒赤茶色とさまざまで、その視線に含まれた敵意は、洋子ばかりでなく優と恵にも向けられていた。
「え……何、これ?」
「〝朱高集〟。言ってしまえば、狐のチンピラ連中よ」
優は洋子を引き寄せて、がっちりと肩を抱いた。
「ここってコイツらの縄張りじゃないはずだけど……」
いつの間にやら恵が優の隣に陣取っていた。
「……」
優は怒ったような視線を恵に向けた。
「ごめんなさい! でもでもこんなことになるなんて予想できないもん!」
「言い訳なら後で聞くわ。それよりも……」
がさっ。木の枝から、ひと際大きな紫色の狐が姿を現して、三人を見下ろした。
「〝白狼巫〟、〝金狐士〟よ……」
狐は呻くように人語を話した。
「その女を如何にする気だ。かの〝雅綾〟めの落とし胤ぞ」
落とし胤。その言葉に洋子は世界がぐるぐると回る心地がした。自分の疑いが、確信に変わりつつあった。
「柊さん」優は洋子を抱き締める力を強めた。「とにかく今はここを逃げ出すわよ。あなたには、ちゃんと説明するわ。あなたのご両親の口からね」
「え?」
洋子の疑問を置き去りにして、優は彼女を抱えて風に成った。めまいがするほどの加速度を受けて、今まで見たことがないくらい、風景が目まぐるしく過ぎ去っていった。
「逃すなッ!」
紫の狐が叫んだ。狐どもが一斉に牙を剥いて追った。
「させるかッ!」
恵が人差し指と中指の二本を地面に突き刺すと、木立がぐにゃりと曲がって触手のように伸びて、狐どもに絡みついた。
「ナメくさって金狐士めッ! 人間風情が増長するなッ!」
狐の半数の攻撃目標が恵に切り替わった。狐どもは蛇に成って縛める蔦をするりと抜けた。
ぽんぽんぽんぽんぽんぽん。恵の周りに金色の狐が次々と現れた。恵は両手をつくと、たちまち姿形を狐に変えて周りの狐と紛れた。そして入り乱れながら駆け出した。
「小癪な真似を!」
青い狐が金色の狐に噛みついた。途端に金色の狐は身体を燃焼させた。青い狐は熱さにのたうち回った。飛びかかった狐たちは皆一様に己に燃え移った炎を消すのに必死だった。
「何をやっておるのかッ! この程度の術に惑わされおってッ!」
紫狐の怒号が響く。狐たちは、自分たちの身体のどこにも火傷痕のないことに気づいた。その時にはもう、恵の姿は何処にもなかった。
住宅街を、優と洋子は手を繋いで歩いていた。
「ねえ、優ちゃん……」
「心配ないわ。あいつらもここまでは追ってこない。ここは、別のやつらの縄張りだから」
「別のやつら……?」
洋子は不安げに手を握る力を強めた。
「……ま、少なくとも、あいつらみたいに突然襲ってくるような輩ではないわ。安心なさい」
「う、うん……」
洋子は、甘えるように優に身を寄せた。
「姉さん」
声とともに恵が降ってきた。既に具離とは分離されている。
「ご苦労様」
「いいえ」
優の労いに、恵はにっこり嬉しそうに破顔した。洋子はびくっと身体を緊張させたが、優の動じない表情に、安心させられてしまう。むしろ、くっついて歩く自分の姿を、自分より小さな彼に見られていることに、恥ずかしさを感じてしまう。
そんな余裕を持ったと同時に疑問が浮かぶ。
(あの狐たちはいったい……? それにわたしは、こんな子に、どうして怯えていたんだっけ?)
「朱高集」優が洋子の疑問に答える。「朱高山を根城にする、柄の悪い狐連中よ。どうやらあなたをつけていたみたいね。……で、どうやらあなたも敏感になっちゃって、やつらとは無関係な恵に染みついた狐のにおいに、敵だと勘違いしちゃったみたいね。無理もないけど」
「まったく、傍迷惑な」恵は口を曲げて眦で洋子を見た。
「ご、ごめんなさいわたし……」洋子は顔を赤くして縮こまる。
「偉そうなこと言うんじゃないわよ。気配も殺せないで、素人に察せられて」
優は恵を睨み付けた。
「……怒った姉さんもかわいいなぁ。……あ、やべ、声出てた。あの、ごめんなさい姉さん」
「……」優は怒気を研いだ。
「……ねえ優ちゃん、弟さん、ちょっと残念な子?」
「んな、失礼な! 初対面なのに!」
「……初対面に馬鹿にされてんじゃないわよ」
優は再三溜め息をついた。