四
後日、恵が神社の境内を掃いていると、ぽとり、と頭上に封筒が落ちた。中から手紙を取り出す。
此度の事件解決、ご苦労であった。
世の中に恨みつらみのあったあの男が、死んだはずの青鬼の思念と呼応したのか、はたまた思い込みからこのように発展したのか。調べなければならないことはある。が、まあ、些事である。
くだんの男と話して判ったことがある。儀式に関してだが、曖昧で朦朧とした意識の中で、他の説話などから着想を得て実行したらしい。それで実際に青鬼なんぞを現化せしめたのだから、ま、なかなかの知識と発想だ。そこだけは素直に感心できる。
さて、報酬はいつも通りの額だ。不満があれば隆史にでも言っておけ。あまり浪費しないように。まあ若いお前らに言ったところで無理だろうが。
読み終えると手紙は発火し、途端に札束へと変わった。通常のサラリーマンが三ヶ月働いて得られる額である。
「……高校生がには過ぎたる額だよ」
恵は溜息をついて、そそくさと懐にしまった。
*
朝。校門前。続々と人が集まっている、そんな中に、優と恵、姉と弟が、一緒に登校している。
(姉と弟が連れ立って歩くのなんて、結構目立つと思うんだけど。姉さん的には構わないのかな)
実際彼は幾度かクラスの人間にからかわれたことがある。しかし素っ気なく返すのが常だから、からかう方も白けてしまい、うるさく言われることはすぐになくなった。
「どうかした?」
優は、下を向いて考え込む恵に首を傾がせた。
「姉さん以外の雌に〝かわいい〟なんて言葉はふさわしくない」
「恵、間違っても人に聞かれないように」
「はーい」
ぞくッ――。
不意に恵の背筋が凍る。振り返り、辺りを見回す。
人だかり。自分に向けられた、変わった視線は見当たらなかった。
「今度は何?」
優は眉をひそめる。
「いえ……多分、気のせいです」
恵は首を傾がせて校舎へ向かう。
「……ふーん」
優は何かに気づいた素振りを見せなかった。
しかし……
それは、確かにあった。
人だかり、彼を捉え射竦めた視線は確かに存在した。