五
「侵入するのはふたり組の子供……ですか? すみません、益々話が見えてこないのですが」
「そう苛立つな。ホント短気だな。お前はもう少し人生を楽しむ余裕を持ったらどうだ。丁度、良さげな手本がお友達になってくれたことだし」
「余計なお世話です。それに洋子さんは別に友達ではありませんので」
「……え、あ、あれ? そうなの? あれ? あれー?」
と戸惑う洋子を無視して話は進む。
「さてさて、本来ならそんな不届き者は、子供であろうが容赦なく厳罰に処すのが習わしではあるが、犯行の動機が〝病床の母親を助けたいが為〟らしい。そんないたいけな子供らの願いを、この優しい優しいユータオ様が無碍にできると思うか?」
「ねえねえ恵君、この人、結構性格悪い?」洋子は恵に耳打ち。
「柊さんが言えたもんでもないです。黙ってて下さい」
「ひーん、まだ怒ってるー!」
「んで、な、聞け。わたしとしちゃ、いとけなき子らの願いを叶えてやるのもやぶさかではないが、理由があるとはいえ悪事をはたらこうとした者どもに、おいそれと我が宝を分け与えて良いのやら……で、こう考えた。子らには試練を与えよう、と」
「試練……ですか?」
「試験、と言った方が正しいかも知れぬが。ま、その子らには敢えて、この我が屋敷へと侵入して貰う。その為の準備を……ちょっと……な……してもらいたいのだが……」
「ああ、本題ですか。何です?」優が聞いた。
「お前らに質問なのだが、もしも、何の能力も無いヤツらがこの屋敷へ入ってきたとして、どうなる?」
「灰になります」「塵になります」「お空が綺麗」
「よろしい」
月夜に照らされる少年少女を見つめる瞳が、木陰や草むらから数多。
「見てみてー、お姉ちゃん必死に引っ張っちゃってかわいい!」「あんくらいだと男の子の方がかわいいわよねー女の子ってだいたい生意気」「あらやだあんたショタコン? うちの子と随分よく遊んでくれてると思ったら」「しかし情けないなぁ女に先頭を行かせるとは」「いやいや、丁度優ちゃんや恵くんみたいな例もあるわけだし」「そうそう、あのくらいの歳は女の子の方が強いよ。優ちゃんと恵くんじゃ、あの歳でも比べものにならないけど」「しかしなぁ、恵くんはあれで気丈なところがあるから」「気丈って言うか、あんまりモノを考えてないだけじゃろ」「いいじゃない、恵くんかわいいし。正義よ大正義」
などなど、この屋敷の住人たちが、わいのわいのと騒ぎ立てている。
「なーに? これ。修学旅行か林間学校か何か?」
洋子と恵と優の三人も、木陰に隠れて小さな姉弟を監視している。
「なーんか、好き勝手言われているような……」
「別にこんなの見に来なくたって良かったのに。眠いわ」
優はかわいらしく目を擦った。
小さな姉弟は庭を真っ直ぐに進む。
……何も起こらない。
「……はぁ。頑張ったわよねぇ、わたしたち……」
「……それに関しては、同感です」
「トル○コの、全階層全フロアモンスターハウスで、全罠解除しなきゃならないって感じ」
「せめてシ○ンって言って」
「眠いわ」
洋子の溜息に、恵の溜息と、優の小さな欠伸が重なった。
「ってことで、皆様にはこの屋敷の全罠解除を行って貰います! 今日中に! はい!」
作務衣姿の隆雄が、三人を前に縁側に立っていた。恵がまず手を挙げた。
「あのー、ひとつお伺いしますが、罠を仕掛けた場所等を記したものは……」
「ごめん!」
隆雄は手を合わせた。
「無いんですね、分かりました……」
「いやー、ユータオの使いの各々が、勝手気ままにありとあらゆる罠を仕掛けちゃって、安全な場所以外は、危険だってコト以外まったく分からない摩訶不思議な状態なんだ。ごめんごめん」
「謝ってる割りに頭がわたしらよりお天道様に近ェじゃねえか土下座って言葉知ってッか筋肉ダルマってごめんね恵君今の嘘ッ!」洋子は言葉の途中から恵に対して土下座をした。
「大丈夫ですよ、あなたには何の期待も感情も抱いていませんから」
「ああ……許された……」
「どんな育ち方したらそう言う思考回路が形成されるのかしら。ま、いいわ。とにかくちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」
「お、ちょ、優!」
隆雄の制止も聞かず、優は振り向いて歩き出した。
優の八方から槍が現れて優を貫かんとした。が、造作も無くそれを素手で受け止めた。
優は進む。今度は巨大な鎌が彼女の首許に現れた。優はプチッと髪の毛を抜いて、鎌に巻き付けた。〝つっ〟と引っ張ると、パキィッと、鎌はものの見事に微塵になった。
優は足許の拳大の石を拾い上げた。地面から刀が生えてくるも、何事も無かったかのようにするするとその間を通り抜けて行く。
そして先ほど拾った石を無造作にポイッと投げると、彼女を目掛けた凶弾が、あたかもはじめから石を狙ったかのようにそれに当たって弾かれた。
恵と洋子が同時に手を挙げた。
「「優ちゃん/姉さん、無理でーす」」




