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序
道を行くのはふたりの男女。
では、まずはじめに男の方。姓を橘、名を恵。きめ細やかな肌と奥二重で丸く大きな瞳、さらさらと風にたゆたう髪の毛は、男の目さえも惹いてしまう。虚ろな瞳でさっと髪を掻き上げる仕草は、本人にその気がなくても悩ましげに見せてしまう、それは一種の才能であろう。
さてさて女の方。姓を橘、名を優。長身で、きりりとした力のある瞳は、男をたじろかせ女を引き寄せる魅力がある。頬にはそばかす。紅を差す前から濃い赤をしているその唇は、いつも端でキュッと引き締められており、媚びを感じさせない表情に、憧れと嫉妬の双方が付きまとう。
男女が逆ならば普通。なんの違和感もない。
が、
普通でないから始まるのが物語というもの。
彼女は、彼が普通であることを望んだ。
しかし彼は彼女を思い、それを拒んだ。
そうして始まる物語。
背中合わせに取り合った両手。伝わる温もりと、否が応でも伝わる苦しみ。