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帰れる場所があるなら帰りたい件  作者: なにかの中の人
【第2章】地球
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救出ケースファイル3-6 一方その頃3 涙のエトランゼ

遅くなりまして申し訳ありません。

「のわああああああああああああああああああああああああ」


ザバアアアアアァァァン!

ダンダンダンダン

ゴロゴロゴロ

ガシィッ!


先程、海の指示のもと巨大ワームから発せられていた地球のものと思われる生体反応の源を救出に向かっていたザイン。


それが何故か、叫び声と共に城の近くにある大河の表面を水切り遊びの石が如くポンポンと飛ばされてきて水面を渡り切ると、今度は地面を転がりつつ丁度城壁の外に出てきた海の胸に抱き止められる形で止まるのだった。


男の子と一匹(・・)を掴んで目を回しグデンと伸びたままではあったが……


しかしまあ…だらしなく舌を出してホガホガ言う彼の顔は残念の一言。




城周りの風景を若干変えてしまう程、そら恐ろしい勢いで吹き飛ばされてきたザインらに城内に逃げ込んでいた者達は大混乱をきたすと思われたのだが、意外なほど静まりかえっていた。

まあ、この世界ではおおよそ信じられぬような現象やら出来事が立て続けに眼前で起こり続けた故からかとも思うが、それでも尚、暴風荒れ狂う中ザインらを注視したまま硬直していたのであった。


多分にこの世界の人々の脳内キャパシティーが上記の理由にてパンクを起こし、他の反応が出来なくなっている気もする。




一方、苛烈に飛んできた弟子らを海は流水のような体捌きを生かし、ソフトタッチで傷付ける事無く華麗に受け止めるも、前述のように大気はそうはいかず龍のように氾濫した衝撃波は海の後方へジェット気流が如く通過していくと、かすっただけの城壁の一部や樹木等を引っこ抜きそしてこ削ぎ落とすことでようやく収束するのだった。


これだけの状況の中でも、ザインを抱えたまま臆する事なくただ(ひたぶ)るに目線は吹き跳んできた方向に固定されている。更には彼に対して気遣うだけの余裕を見せ、救出成功の労いを掛ける。

それだけ今では、お互いに信頼できる間柄を構築できているのは明らかである。


「サンキュなザイン…大丈夫かい?」


「ふふぁぁ、し、ししょーかいな?申し訳ない、不覚じゃわ……あれ・・硬過ぎるわい!」


その言葉に対して、何故謝罪ともとれる言葉をザインが返したのかに引っ掛かりを感じ小首を傾げるものの


「ん?……まあ、でもよくやってくれた。ぐっじょぶさ!ははっ。とりあえず……ハォッァ!!」


直ぐ様、海は彼らが吹き跳んできた方向より接近してくる気配に対し挨拶がわりとばかりに、威圧を込めた剣気を飛ばし相手に対する警告となす。

何もない空間より突然現出した通常剣撃で発生するはずの衝撃波は、先程目の当たりにしたものと遜色ない一般の者達の目にも見える程の大気圧の荒ぶりを見せ、迫り来る者へとその刃が向かっていくのだった。




【剣気】




達人の域での斬り結び時にままある現象。

心理的物理的にも高度な隙の読み合いとなると周りにはただ向かい合って動かざる如しにしか見えないのだが、達人が幾手もの先読みをする内にいつしか物理的現象を引き起こす迄に至る。この時に生じる剣の衝撃波が【剣気】と呼ばれる。


普通の人間であればそのような無動作での現象、言ってしまえば抻技のような理解及ばぬ物が苦もなく出来るような者はどの世界であってもそうそういまい。

そういった非常識さを証明するかのように、海らを目の当たりにしていた城の崩落を免れた者・海の手で回復した者達の口はだらしなく開きっぱなしで皆の表情が呆気にとられているまま動かなくなっていたのである。


召喚された女の子らの世話をしていたメイドのマイアとてそれは同じ。

いかに長らく海千山千の事柄を目にしてきた王城に勤めるメイドであっても、この世界には無かった初めて目にする絶技の前では顎が地に付きそうな位に呆ける他ないのだろう。

日本の幼女を抱き締しめながら石のように固まっていた。


安い表現になるが周りから見ても異質な位器用、言い替えればそれだけ

【非常識】

に価するという証左であろう。






流石、小さな魔王を吹き飛ばしてきただけあり遠目から見ても凡そ殆どの剣気は苦もなく捌き切られたようで、中々のスピードで近付くそれは徐々に城の皆にも確認できる距離まで接近してきていた。


通常、ザインらのように人が水面を切ってくるようなほどの衝撃と威力により吹き飛ばされたのであれば、物理的にも生身の肉体など掴んでいるもの諸共(もろとも)にただでは済まないはずなのであるが、ザインの戦闘センスの賜物であろうか。

どうやら咄嗟に、そして無意識レベルであろう空間固定の魔法障壁の行使によって皆見た目(・・・)は無傷である。


「うっ!?は?…(この生物……まさか……)」



ふと、視線を落とした海は受け止めたザインの左手が掴んでいるもの(・・)を見て頭が理解すると共に柄にもなく思考回路がフリーズしそうになる。

今までは接近する敵にのみ神経を注いでいたため認識できていなかったが、頭がそれを理解した瞬間頬がひきつりそうになるのだった。


一先ずその事実を頭の隅に追いやり、弟子らに目に見えぬ怪我など無いか確認する辺り良い師匠してるなとひきつりそうな表情から自虐的笑みを溢す。


奴が来るまでの間にとりあえずそちらからの視線を外し、そっと目を閉じ己の中にあるものを高め始める海。





アージュニャー・チャクラ(眉間に有るとされるチャクラの一つ)に練り上げたプラーナを集中すると、徐々に海の全身から金色の粒子が噴き出し体の周りを取り囲んでいく。


周りは相変わらず理解不能で動けないまま光輝く海を見つめていた。

物理的以外の異能による障害がないか確認するため、いわばザインの体から発せられている生体オーラの状態で異常の有無を診断していく。

発現したチャクラで覆った眼で見た限り、吹き跳んできた際の回転による遠心力等々の影響は大きいだろうが、障害らしいものは見受けられなかった。


この間、僅か二秒


「ふぅっ…」


金色の渦が鳴りを潜め、一息つくと間の抜けたやり取りが出来るくらいであるから問題ないなと判断した海は、こちらに近づく存在へ再度視線を移す。

その目は怒りなのか哀しみからなのか、どうにも判断しづらい複雑な感情を含んでいるようで誰も読み取ることはできない。





(ザイン)が気を抜いていたのかどうか定かではない。

がしかし、一応有象無象の世界に君臨する程度の魔王ならば軽くあしらえるレベルに達しているはずのザインを吹き飛ばす…

こんな辺境にそんな戦力が…


そんな、海の頭をよぎる疑問に答えは返って来るはずもなく。


訝しげな海の眼差しは、ザインを吹き飛ばしたであろう原因と交錯すると鋭さを増し、暫しの不動状態を貫いたまま来客を待つのだった。







ゴーーー!

ガキョン!ウィーン、ガシャッ


ついに海と相対する川縁(かわべり)へと到達を果たした何者か。

今いる世界の人類には到底理解できねども、正にロボットの駆動音と表現できそうな音と共に地面スレスレをホバリングしてきたソレは、日本で目にしたアニメから飛び出したかのような雰囲気を醸し出していた。



外部装着型強化パワードスーツ



ザインがあれ呼ばわりしたのは、海が追っている奴等にしては技術的に古風だとも言えるような、生身のヒューマノイドが操るタイプのそれ。

シルバーメタリックな外骨格フレームに推進機構らしきバーニア、外部から見えるような中央に搭乗していると思われる人属の頭部には情報表示のための液晶か類似する機能なのか、空間投影されていそうなバイザーが展開されており、搭乗者のサポートを為しているのだろう。

そのせいか、細やかな表情は読み取れない…いや、正確にはそれは不可能である。



やがて王城前にて着地の後静止したスーツらしきものは城に固まっている生体反応を確認したのだろう、この状況を把握でもするかのように搭乗者が一頻り見渡すと展開していたバイザー状のものを収納した後、後部の排気口らしきものからプシューッと蒸気の様なものを吐き出して完全に沈黙したのだった。




静まり返る一帯。



「きゃあぁあああああああ!!」


不意に金切り声のような悲鳴が、それを認識したマイアの口から飛び出る。


「うわぁああああ!」

「ぎゃあああああ!」


マイアを切っ掛けにして、パワードスーツを目にした者らが揃ってパニックを起こし始めたのだ。


スーツの中央にいる外部に晒されている生体は一糸纏わぬ女性のそれ。身体中に相当な数の配線がなされ、後頭部から鼠径部は駆動にかかるであろう何らかの装置で覆われていて、一見すると拘束されていると見えなくもない。

そして見た目は、地球の科学でもようやく開発に着手され始めたメカメカしい外部装着型パワードスーツそのもの。


ただ一つだけ違ったのは……






搭乗者の頭部だけが朽ちていたのだ。






それは、悲鳴もあげたくなるというもの。


一対何者なのか?

何が目的なのか?

何故、巨大ワームより現れザインを吹き飛ばしたのか?

謎は尽きない。



マイアらがパニックに陥る中、少しでも反応があればと海は挑発にも似た言葉を口にする。


「君かぁ、うちの弟子を可愛がってくれてありがとう。オーバーテクノロジー文明の科学の癖に見てくれが地球の二流SF映画殺戮マシーンとか、笑え無いね?ははっ……」


「……」


それに対する答えが返ることはなかった。

既に事切れているのか搭乗者の意志すらもが機械に囚われているのか、元々言葉を持たぬ存在なのか知る由もない。



死していると仮定すると、何故に使用者が果てているのにも係わらずに稼働できるのであろう?

見た目ではエネルギーの供給元がどこからなのか判らないのだが……



(……成る程ね…)

「そんな……!!魂の力を……吸われとるんか!?」


そんな中、海とザインは二人揃って同じ見解へと至ると共に悲痛な表情へと変わっていく。

と、



「肉体のオーラではなく、魂を元に幽体と霊体を構成しているアストラル体からのエネルギーを肉体が滅しない程度に調整してスーツの動力源としているのか……どこまでも外道な……いつまで悲しみを増やすつもりだネガティブGィィィ!!!!!」




ワナワナと戦慄(わなな)くカイの声が遂に怒声に変わり、辺りに響いていくと再び場に静けさが訪れた。


人々は思いもよらぬ海の叫びにパニックを忘れたかのように動くことができなくなっていた。

骸のパワードスーツすらも微動だにしない静寂。



チャラッ……



そんな中、不意にパワードスーツの搭乗者である裸身の首元からペンダントのような物が音をたてる。

金属の澄んだ音が、静まり返る辺り一面に何かを訴えるように響いたのだった。



「し、ししょー…」


海の怒声に一番驚嘆したのがザインであった。

普段は、虫も殺せぬような性格であるのを身近でいつも感じていたために想像だにしないあまりのギャップで驚きの表情を隠せないでいたのだ。


「下がってなザイン、あの骸を天に還してくる。」


そういってカイはパワードスーツの前に歩み出ようとしたその時、それは動いた。


ギギッ… ブチッ!      


スーツの右腕が、ぎこちなく裸身の胸元をまさぐるとペンダントを引きちぎったのだ。



ギギギッ……



まるで油を指していないブリキのおもちゃを思い出させるような、金属同士の軋みを響かせ右腕は海へと差し出される。


まるで強制されている意志(・・・・・・・)に反して無理矢理に動いたように…


罠か?それとも別の思惑があるのか?


だがしかし、海は臆する事なくゆっくりとパワードスーツに歩みを進める。その複雑な表情そのままに…



「だ、ダメじゃ!ししょー!!っ……」


横になって見ていたザインは、すぐに海へ警告を発するものの歩みは止まらず。一度手合わせしたからだろう、相手の危険度を訴えようとするのだが続く言葉が出てこない。

何故なら…



海の瞳から涙が流れていたからに他ならない。



やがて伸ばした右腕の前に立つと、自身の両手でペンダント状のものを優しく受け取る。海の表情が驚きに変わったのはその時であった。


朽ちた死体と思われた女性の眼窩から、涙のようなものが流れ出したのを見たのだ。

こんこんと湧き出る清水のように……



海が受け取ったペンダントを指でさするうち、ずらすと開くタイプであることがわかった。

いわゆるロケットペンダントというやつである。


「…見させて、貰っていいかい?」


女性のみに聞こえるようなか細い声で問いかけるが、変わらず返事が返ることはない。

動いたり抵抗するような素振りを見せないため可と取った海はロケットを左右にずらす。

そこには筋肉質で逞しい男性の肩に座って楽しそうに笑顔でいる女の子が写った写真が嵌まっていたのだ。


写真と目の前の女性がどんな関係なのかはわからない。


だが、彼女も助け出すべき存在なのは海自身理解したようで、未だ涙やまぬその頬を両手でさすり赤子に語りかけるように呟くのだった。

日本語が通じるか解らないままに。




「大丈夫。助けます、必ず!」



その顔には満面の笑顔が浮かんでいたという。


「これはっ!?」



触れた掌から流れてくる情報が海の疑問を氷解させるに至ると同時に、パワードスーツの動きがおかしくなり始めるのだった。


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