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帰れる場所があるなら帰りたい件  作者: なにかの中の人
【第2章】地球
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救出ケースファイル3-5 一方その頃2 ワーム沈黙 勇者と言う名の動力源

「っ!?」

「えっ!?なっ!?なんで…」


混乱を来す二人は何が起きたか理解出来ぬまま言葉に詰まり呆けた顔。

それも致し方ない事。この世界にはワームに対抗できる戦力はほぼほぼ全滅してしまっていたのだから、こんな芸当をしてのける者に心当たりはない。


「人々が下敷きになっている瓦礫を取り除きます、お待ちを。ふぅっ……フゥゥゥゥッ……(さざなみ)!!」


二人の理解を置き去りに、海は独特の呼吸法で個の秘された力を引き出すは、妻条流が一つ



(さざなみ)》。



徐にマイアらを下敷きにしている数トンはあろうかという

瓦礫に手を掛けると、卓袱台(ちゃぶだい)返しのごとく軽々しく引っくり返したと思ったら、原子崩壊するように砂山と化した。


バサァッ

辺りに砂煙が立ち込め、咳き込む人もちらほら。

短時間であれだけあった瓦礫は姿を消し、崩落に巻き込まれていた人は今度は砂にまみれるのだった。


実はこれ、引き上げられた身体能力は肉体的精神的共に果てしなく単純比較であれば天狗になる法とも言われている仙道の秘術や修験道の剛力を遥かに越えるのだ。

肉体と魂の振動数を大幅に向上させるため、このように力の使い方を工夫すると任意の物体に対して力を伝えるだけで分子結合を解くことすら可能となる。


その異常事態を目にした人々は、眼が飛び出んばかりに仰天の表情で固まってしまっている。

まあ下手に騒がれて色々と後手後手に回るのもな~と海は思っていた所だったので、これ幸いとまずは重症の怪我人に対して中国武術の技法にある気功が一つ《軟気功》での治癒を施して歩く。


「ふむ、少し本気を出さなきゃな。オン コロコロ センダリマトウギソワカ」


異世界の人間には大治癒回復魔法クラスの驚くべき効果を発揮する軟気功ではあるが、あまりに重傷者が多すぎるためにそれだけでは回復が追い付かないと判断した海は、一息すらつかず手印を整え真言を唱える。

すると、空間に揺らぎが生じ目を開けていられないほどの後光と共に癒しの神【薬師如来】様が顕現されるのだった。

その場にいた者達はあまりの光景に目を開けたまま気絶する等、動けずに成すがままとなっている。



そりゃ見たこともないような存在である神々、それも神格が高すぎる日本の神々が下りてきたら固まるほかないよね?



現れ出でた如来様は静かに周りを見渡すと悲しそうな表情をされ、右手の施無畏与願印(せむいよがんいん)を左に持っている壷(薬壷(やっこ))に翳してから優しく振り広げるようにされると、まるで国中に加護が広がるかのように怪我人が回復していくのであった。


ただ残念なことに創世神自体がイグに喰われていたせいなのかこの世界自体の加護は発動することなく、亡くなった方の世界線を変えることは叶わず生き返らせることはできなかった。

奇跡を成された後は、物悲しそうにそして音もなく静かに見えなくなっていき静寂が訪れる。


「立てますか、レディー?」


その光景を見て悲痛に歪みそうになる表情を無理矢理笑顔にし海はそう言うと、二人の位置関係から勇者の子を助けたと断定したマイアに手を差し伸べる。


「……はっ!?は、はいっ!だだ大丈夫れす!ありあとござります。」


思考が停止していたのと、どうやら海が醸し出す優しいイケメンオーラに当てられたようで置かれた状況を忘れ怪我は治っているというのに緊張しまくりで噛み噛みとなっているマイア。


助かった事実にようやく自分を取り戻した勇者の子は、海に駆け寄りすがり付いて訴える。


「お兄さん!!!!お、お兄ちゃんを!お兄ちゃんを助けてください!!化物に食べられちゃったお兄ちゃんを……お願い……うわぁああああ」


「化物の腹にいる、ということで間違いない?なら大丈夫。まだ生きてるみたいだから。僕の仲間が直ぐに助けるから安心しな?もう大丈夫だからね。よしよし」


もう目の前にいるこの人にお願いする他ない、何者か判らないがこの世界にあってもこれだけの奇跡を行使できるこの人に縋るしかない。もう日本には帰れないのだからせめて兄を助けてもらいたい。


いろんな願いがごちゃ混ぜになりながらも、涙や鼻水お構いなしに狂ったかのように抱き付く女の子の頭を優しくゆっくりと撫でながら確認のために海は言葉をかけると、しゃくる様に泣いていたのがだんだん収まってきたのだった。


「ほんと?ホントに?できるの?お兄ちゃん帰ってくるの?」


まだ不安と疑いの眼差しで見つめてくるこの子の表情に、海は日本に残してきてしまっている妹(里比奈(リイナ))の面影が重なった気がした。

不安で押しつぶされそうなのだろう、震える体を不意に強めに抱き返し落ち着かせるように背中を擦りながら力強くこう答えるのだった。


「ああ。君もお兄ちゃんも無傷で助けるから。絶対に!そしてちゃんと日本(・・)に帰してあげるからね?少しだけ待っててね。」

「えっ?!か、帰れる?…帰れるの?おうちに??日本に帰してくれるの!!??」

「うん。ちょっと理解するのは難しいかもしれないけど僕は、日本国国家公安委員会直属、転移転生行方不明者捜索機関(ロストチャイルドレスキュー)ってとこの特殊行動班、つまり救助のプロフェッショナルなんだ。大丈夫だからもうちょっと頑張るんだよ?」

「ほんと…に帰れ…る…ん……」


どうやら帰れるという海の言葉を信じてくれたようで、張り詰めていた緊張の糸が遂に切れてしまった女の子は海に抱かれたまま気を失うのだった。


この世界での伝承によれば、勇者召喚術法には元の世界に送還する方法は存在せず一度呼ばれたが最後ここで一生を過ごすことになるらしく、その常識を覆せるというのを聞いてマイアは驚きの暫しのち安堵の表情を浮かべて海へ向かって無言で深く頭を下げたのだった。

ポタポタと下の砂が溢れる雫で濡れていく。


この子と思わず重なる自身との相似的状況に海の目にも涙が溢れそうになるが、悲願を達するまでは泣けないと今一度メガネを直すと崩れた壁からザインが向かった巨大ワームへと視線を移すのだった。





「おわっ!!臭っさいんじゃ!ホントにでかいだけのミミズなんじゃな~。デカすぎてどこぞのダンジョンかと思うわい。」


直径数100mはあろうかというワームの口から潜入を開始したザインは、そんな愚痴をこぼしつつ海から渡されている腕輪状探知機の液晶画面を見ていた。

飛行魔法で目的の地点へ高速で飛んでいても、物理的大きさのためまるで進んでいる感覚がないのが本音。そのうえ、小型ワームが行く手を遮ろうと邪魔してくるもんだから殊更である。


「ちぇい!とりゃっ!!ちっさいのが多すぎじゃい!!!」


固くて素早い小型ワームは普通、一匹だけでも倒すのは骨であるのだが今のザインにしてみれば群がる羽虫がごとくである。

ただし、(気を抜かなければ)であるが。


ワサワサワサワサワサワサ…


湧いてくる湯水のようにどこからともなく集まってくるワームを文字通り(しらみ)潰しに駆逐していく。

然程苦でもないのだが異常ともいえる数に辟易といった表情で愚痴を溢すあたり、イラついてもいるようだ。

存外にこういうシューティングゲームでありそうなシチュエーションを楽しんでいる風なところもあるようで、無意識に口角が吊り上がっているのは種族の血であろうか。言葉とは裏腹にというやつだ。


所々に(そびえ)立つ、自身がぶっ刺した楔を器用によけながら液晶のオーラが示す地点にようやっとたどり着いたザインはその異常な光景に息を飲むのだった。


「な、なんじゃこれは…」


彼自身目にしたことの無いタワー状のメカメカしい機械類が林立するその光景は、外側の生々しさとは明らかに一線を画していた。

その一角の駆動のための動力供給源らしき場所に、不思議な色の光を放つ二つの円筒形の液体が満たされたガラス状カプセルが見える。

腕輪の反応は、明らかにその中にいる者を指し示していた。


「ししょーの世界みたいな科学とやらでこいつは動いておったのか…」


唖然としているザインをよそに小型ワームはその数を続々と増やしていく。

ここがこの化物の中枢部であるのはワームの集まる勢いで感じ取ることができた。そして、早めに脱出しないとその圧倒的物量に押し切られる可能性が出てくるのも。


どうやら動力源の一部となっていたからであろう。一人と一匹(・・)の生体オーラは著しく弱っているようだ。


「よーわからんが、こいつら担いで早く出なきゃじゃ!ホリャッ、オリハルコンランサー!たりゃあああ!!」


ガシャァーン!×2

バッシャアアァッ!!


時間が惜しいとばかりに無詠唱魔法で生成した金属の刃を思いっきりぶん投げて、円筒ガラスポッドをぶち破り中に浮いていた男の子と一匹(・・)を回収し担ぐと元来た道筋を再び高速度で飛行するのだった。


「プ……プギィ……」


片方に担いだソレが昏睡状態より覚醒し始めていたのに気付かぬまま。




でもわざわざ戻らんでも、壁をぶち破って外に出てから戻ればいいのに…




「なるほど…動力の一部に使用されてた、と」

海は、ザインらが脱出したことを液晶画面で察すると独り言のようにポツリと呟いて城壁の穴の外へ視線を送る。そして、それを見てようやく城外に横たわっている巨大ワームがいつの間にか動きを止めていることにマイアや救助された人々が気が付くと、皆一様に不思議そうな表情を浮かべていた。


「あ、あれ?微動だにしてない?なんで…」


「あー多分、片が付いたんだと思います。相方の方のね。」


「か、片が…付いた?んです?」


民皆が思っているだろう疑問を外を見ていたマイアがポソッと溢すと、海はそのわけを説明するのだがあまりにも現実離れしすぎていて理解が追っついていない。

そのため、彼女はどこぞのアニメに出てきそうなフェアリーさんっぽいしゃべり方になっていた。


「ふふっ。さあ皆さん、あの化物はもう倒されました。もうあれが動くことはないはずです。バラバラになってしまった方たちを探して国を復興しましょう。ほとんどの怪我人は回復しているはずです。」


その様子に海はクスッと微笑む。それから、居る人みんなに聞こえるように事態の収束を説明すると外に出てザインの帰りを待つことにした。

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