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帰れる場所があるなら帰りたい件  作者: なにかの中の人
【第2章】地球
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救出ケースファイル3-4 一方その頃1  異界に巣食う異形の神、救いの神は津軽谷 海(カイ)

遅くなりまして申し訳ありません。

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 


凡作ではありますが、ブクマしていただいている皆様、通りすがりにみてくれている方々全てがなんらかの感想を抱いていただけるような作品であれたらと思います。

「ああっ!神よ!!」


「勇者……いや、真の救世主だ!!」



そのあり得ない光景に、窮地に立たされていたこの世界の者達全てが感涙を禁じ得ずひれ伏しているという現実。





名も知らぬ世界の一つにそれは居た。 


超弩級の体躯を唸らせ生き物が住まう領域を侵し、全てを滅ぼすレベルで暴れまくるモンスター、いや、化物以上の化物。


人の涙と生き血をすすり、己が欲望のみで突き進む問答無用の悪鬼羅刹で腐れ外道。

繰り広げられたるは阿鼻叫喚の地獄絵図。

響き渡るは死の怨嗟。


現れてより然程の時は経ってはいなかったらしいのだが、その世界に住まう者達の平和な時代は瞬く間に崩れ去る。


その狂気の矛先は人類・獣人族・妖精族・魔族・精霊族等、生命力溢れる者達に向けられ、果ては動植物に及びついには創生神すらも喰らうに迄至る。

それこそ、のべつ幕無しに屠っていった。


寝ている間に喰われ去る者。

逃げ切れず果てた者。

勇敢にも挑み散って行った者。

あるいは己の子を逃がすため囮になったものの、共に喰われた者。

等々

凡そ考えうるあらゆる地獄が地上に現出し、今も尚生み出されている最中という救い様の無さは直視に耐えない。


この危機に対しての打開を図った王制国家の長は、情報を掴んで直ぐにこの化物の引き起こす災禍を鎮めるべく御抱えの宮廷魔術師団らに数十年ぶりの異界勇者の召喚を命じていた。


この手の世界にしては珍しくも即断であり、また英断でもあった。

通常であれば、異世界からの召喚術などは国家間の外交軋轢に対する切り札的扱いなのだが、迷わずにそのカードを切れたのは賢王であったからか結果を急いだ愚王だったからかは最早知る由もない。


だがしかし、これまた禁断の秘技たる異世界からの勇者召喚術という不確定要素に頼り、幼き勇者を迎えはしたものの時既に遅し。


呼び寄せられた勇者だった(・・・)者は成長の機会すら満足に与えられることなく、召喚時に付与される筈の神の祝福ギフトはこの世界へと呼ばれる前に創世神が消失していた事もあって全く使えず、能力的にほぼ丸腰のまま王族・貴族によって鳴り物入りで実践投入された結果、ゲームとはまるで違うその現実に早々に心をへし折られ恐怖に怯えているのだと言う。


その事実が瞬く間に世に知れ渡ると、国民達は更に混乱する羽目になるのだった。


地上は無惨にも粉微塵に蹂躙され、統治者達は持てる術を駆使し繰り出した討伐隊は遂に帰って来ず、多数の国民を匿っていた強固な造りの王城ですら守りを突破されて王家の血筋ら共々ほぼ全滅。


圧倒的とも言える化物の侵略スピードに成す術なくもはや壊滅寸前といった様相を呈していた最中にその二人は現れた。


「カテドラルゥゥッアンカァァァー(聖なる杭打ち)!!シュート!」


ズガガガガガガガガガガガガガガァァァン!!

雷鳴と勘違いしそうな程の音と衝撃波が辺り一面、それこそ化け物の図体自体が馬鹿デカイので超広範囲に渡って薙ぐように拡がって行った。

ビシャッブシャっっ!!

数拍遅れて聞こえてくる液体の噴出音。


「グルルァァアアァォォォ!?」


いわゆる魔法の類いであろう。巨大な金属状の楔が幾本も轟音を響かせて化物の巨躯と地面とを縫い付けており、それ以上凶行に蠢くのを封じていたのである。


化け物にも他の生物のように血液が流れているのだろう、深い藍色の吐き気を催すような臭気を放つ体液が刺さった傷口より間断無く吹き出している。これが液体の噴出音源として未だあちこちから聞こえてくる。

恐らくは、地球に於けるイカ類の体液のようにヘモグロビンではなく、銅タンパク質であるヘモシアニンのような成分を含んでいるためだろう。

それに生物らしくちゃんと痛覚も備わっているようで、号砲のような悲鳴めいた唸り声が四方八方に響き渡っていく。


その(おぞ)ましき長大な体躯が激痛によりウネリと共に地で暴れるは圧巻の一言。

地響きは惑星地表全土を揺るがす大地震となる位の大質量に、人々は平伏したまま怯え縮こまる。


この世界の国家が組織した討伐隊や冒険者ギルド等が向かわせた集団等が、化け物を屠らんが為持ち出した世界中の武器や魔法といったあらゆる手段、それこそ


・広範囲を焼き払う極大火属性魔法や巨木をズタズタに引き裂く絶大な風魔法等の戦術・戦略級魔法類や禁術

・全てを切り裂くとされた伝説の武器の数々


ですら満足に掠り傷一つ負わせること叶わなかった体表に、針ネズミが如く聳そびえ立つ金属質状の歪な数多の楔が深々と喰い込んでいる様を目にした人々にとっては、《神》とか《救世主》とか口々にそう言わざるを得ない程の驚愕だったようだ。


見た目は地球全土に存在する蚯蚓(みみず)状の風貌であるのだが、そのサイズがまずおかしい。

先端の口と思われる場所より尾の先迄は地上からでは果てが見えず、楔で縫い付けた張本人が浮かぶ遥か上空の高所でようやっと全貌が見渡せる程。

そして、頭とおぼしき場所には眼は存在せずトンネル掘削機械を彷彿とさせる刃状の歯があるのみ。


身体の側面に等間隔で点在する呼吸器のような黒い点穴からは小型の魔物を間断無く産み出し続けている。と同時に強酸性と思われる液体が吹き出し道行く障害物を融かしていた。

その光景はまるで現代の戦艦か駆逐艦を彷彿とさせるが決定的に違うのは、その見た目から来る嫌悪感であろう。


小さな村なら一口で壊滅させうるその大きさは、人類にどうこうできるレベルではないのをまざまざと体現していた。


見た目だけで言えば、地球のモンゴルにあるゴビ砂漠に生息する現地ではオルゴイコルコイと呼称される


【モンゴリアン・デス・ワーム】


か、火星の地表を徘徊する


【サンドワーム】


の亜種か近種であろう。


同時に、何かの陰謀めいた邪悪な意思がそのデカイ図体から放たれるオーラに籠められているのを上空に浮かぶ二人ははっきりと感じ取っていたのだった。


「こいつは酷い……ザインの土魔法で動きを止められたが……もっと早くにここへ訪れることが出来ていたら……いや、今は現状をなんとかしなきゃだ。それに地球の(・・・)人間もいるみたいだしね。」


「おう。でもししょー、ここはわしにやらせてくれ!このデカイのわしの魔界を消滅させたやつの雰囲気と重なってしゃーないんじゃ!」


リイナが背負っていたような飛行用のジェットパックで浮かぶ青年が眼下の光景に胸糞悪いといった感情を吐露すると、隣にいる浮遊魔法で浮かぶ魔族の少年は自身の体験と重なったのか闘志剥き出しで青年の方に顔を向けると呟きに応えるように熱く吼えるのだった。


「ハハッ!成長力著しいねまったく。若いってのはいいもんだ。出来るかい?一人で。」


「はんっ!何言うとるんじゃししょー。こんなのは、ししょーに比べたら天と地じゃて。しっかし太くてデカイの~。」


「いやはや。前のザインじゃこうはいかなかったんじゃないかな?…しかしこいつは……もし奴等がクトゥルフの名称を採用していると仮定したら、これも君の世界を消した化物の系列だろうね。多分。当てはまるとすれば、あらゆる蛇族の父たる《イグ(Yig)》だな。」


「やっぱしか!」


眼下のミミズの動きを封じたのはザインの土魔法なのだが、この青年《津軽谷 海》と邂逅した時の比ではない魔力レベルとなっていた。

元々、生体に近いゴーレム創造を得意とした彼ザインの戦い方はカイと出会い師事することにより進化したようで、今ではゴーレム創造のみならず土魔法の多彩な発展型での戦闘スタイルに変化していた。


恐らくは、海と共にこの世界のように壊滅に瀕した次元を渡り歩いて修行するかのように世直しの旅を重ねてきたのだろう。

表情に自信が溢れる男前に成長したようだ。


「んじゃいっちょ…ああ!小っさい化物がまだ生き残ってる人を!このぉ、とぉりゃあああ!現れ出でよ《ラショ―ク改》、眼下に見える化物全てに飛びかかれぇ!!」


とはいっても、まだお調子者の気概が抜けていないようで戦闘中に気を抜く辺りまだまだなと海は苦笑してはいるものの、真剣さは失われていない。


気を抜いていた自身に恥じ入り、焦り気味に手印を組むとワードを唱えたザインは、召喚したラショーク改と呼ぶ見た目触手の塊のようなゴーレムを人々に襲いかかっている無数の小型ワームへとそのまま宛がうように生成し、同時にあっという間に倒していく。


いかに小さいとはいえワームの固さは本体と遜色なく、この世界の人間の振るう武器がまるで役に立っていないのに、である。




前のような小山程の大きさから考えると、だいぶサイズダウンしているはずなのに力量には殆ど差が見られないように海は分析するのだった。


ただ残念なことに人々を助ける存在のはずのラショーク改は、外見だけ見ればワームと然程差違の無い程度には生理的嫌悪感を誘発するため、気絶してしまう者が後を絶たないという残念な副産物も生まれていた。


いと憐れ…


まあでも目に見えるこれだけの範囲でも逃げ惑う人は万単位でいるのに、瞬時に苦もなく同等数の生体状ゴーレムを生成するザインは間違いなく海が言う通り成長力著しいようだ。

自分の故郷たる魔界とここの名も知らぬ世界の【魔力の質】は微妙に異なるはずなのにこれだけ完璧に操れているのは、己の世界を亡国にしたクトゥルフ一派(仮称)に対する復讐心からの技術の底上げが原因の一因かもしれない。


「ははっ、んじゃあれ(化物)は任せたよ。僕は…城の方にいるとおぼしき地球からの勇者(・・)を助けてくる。」


「了解じゃあ!ししょー。」


腕に嵌めている解析機器の液晶画面を見ながら、海はザインにそう告げると王城の方面に視線を移す。流石に日本人がいるとわかったらおどけている訳にはいかぬと、気を整え体の準備を促す。


「あ、それとあのデカイ図体の中にも……うん、そうだ。地球の生命体オーラが2ついるみたいだから救助してくれ。頼む。」


「……うへぇ」


と言うことは、あのミミズの中を探すって事になるのか?

それを認識したザインは吐きそうな顔になっていた。


「んじゃ頼んだよ。ははっ。」


そんなのお構い無しと言った感じの海は、真剣な表情そのままにジェットパックの出力を上げ猛烈な速度で城に向かう。


そのスピードから内心では早く救助してあげたい、日本に戻してやりたいという気持ちが強く表れているのは明白。

意図せずに日常を奪われた者の気持ちが痛いほど解るが故に、海は即時行動を起こすのだった。





所変わり、化物の襲撃により崩れ落ちかけた王城の中で一際大きいダンスホールのような空間にその子は倒れ込んでいた。

国一番の強固な建築物といってもあのモンスターにしてみれば菓子を食はむようなもの。以前のような煌やかさは既に失われ廃墟が如く半壊している様は見るに耐えない。


その子の目の前には衝撃で崩落してきたのだろう天井の石材が、かなりの人数の避難民を巻き込んで鎮座している。

地獄絵図さながらの呻き声が響いてくるのを両手で耳を塞ぎ、目を強く閉じて現実を直視したくないといった感じで縮こまっていた。




「こわいこわいこわいこわいこわい、いやだ……いやだいやだいやだ死にたくない死にたくないお兄助けてお兄どこにいるのお兄帰りたい帰りたい帰りたい帰して帰して帰してぇ!」


「勇者様……ガハッ!大丈夫です、か…どうやら化物の動きが止まってい…るようです。もうこの国は御仕舞いです…せめて…勇者様だけでもお、お逃げください……我らの王家が異界勇者召喚とい…う愚行さえせなんだ……ら。こんな目に遭わせることも……申し訳……ありません。」


「やあああ!マイアぁ!あああ…誰か……助けてぇぇぇぇ!!」



瓦礫に下半身を挟まれたマイアと呼ばれたメイドのような女性が大量の血を流しながらも、難を逃れたその女の子に謝罪のような言葉を発している。

言葉を咀嚼して理解すると、


自らが仕えている王家がこの女の子を召喚しこのような状況に巻き込んだ


らしく、世話係であったのか名前を呼ぶ程度には打ちとけている仲のようである。

でも女の子は既に精神的に限界なのだろう、メイドを気遣う余裕すら喪失し誰でもよいからといった感じで悲鳴をあげて救いを求め続けていたが虚しく響いていくばかりであった。


二人の位置関係から状況を察するに、崩落してきた天井の下敷きになる前にマイアが勇者と思われるその子を突き飛ばして救ったような形に見える。


だがそんな場面に運命は更なる試練をもたらした。

間一髪助かったその子に向かい、何かの影が恐ろしい勢いで近づくのがマイアの視界の端に捕らえられる。

彼女がそれを認識し勇者の子に警戒の呼び掛けをしようと思考を巡らせた時には、ほぼ回避不能のタイミングであった。


襲ってきたのはあろうことか小型ワームであり、それが残像を残すほどの跳躍で飛び掛かる姿であったのだ。


「は、早……逃げ……!!」


「っ!!」


勇者の子は、あまりにも急な事に動くことも出来ず諦めにも似た虚ろな表情で見つめているしかなく…







ッパァアアアン!!!!!!


刹那、ワームは風船が割れるような破裂音のみを残し弾けて消し飛んだのだった。

あれほどの硬度をもった物体がだ!


「間に合ったね。大丈夫だった?そちらの女性も方もすぐに助けます。」


いつの間に現れたのか、優しい表情をした海が未だ横になっていた勇者の子を抱え起こし頭を優しく撫でながら瓦礫に挟まれたマイアにそう語りかけていたのだった。

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