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帰れる場所があるなら帰りたい件  作者: なにかの中の人
【第2章】地球
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救出ケースファイル3-1 都市伝説か真実か?南極遭難物語

「…な、南極ぅ!!?」



その日、リイナの素っ頓狂な叫び声が本部に木霊する。


それは、秋の足音も近づいてきた9月も半ば過ぎた掛かった雨の日である。

いつもより湿度が高く夏程ではないが、気温が高いのも相まって若干鬱陶しく感じる昼下がりに、嬉しくもないそれは上司の口から舞い込んできた。


発された単語のみに注目するなら、如何にも涼しげではあるが……  



「そうだ。実は、日 米 英 露合同南極科学学術調査チーム八人全員が現地で消息を絶ったと昨夜未明に外務省筋が伝えてきたのだ。」


「はぁ……しかしそういった件は、我々異世界特化捜索チームではなく、南極条約での軍事対象外案件であるため防衛省や米陸軍、SASやSVR(ロシア対外情報庁)の管轄では?」


上司の発言に違和感を覚えたリイナは、腑に落ちないといった感じで

そう口にするのも無理からぬ事。

彼女の疑問は尤もであり然程間違ってはいないのだから。


南極大陸はその気候環境的な意味での特異性から、

領土権の凍結

軍事利用の禁止

科学観測等 

様々な件について制限が課せられており、国際協力を目的とする南極条約が締結されて以来、科学観測の場としての利用側面が強く研究が進められている大地なのである。

なので南極に於いて発生した行方不明者捜索を行う為には、それなりの体制や装備を持ちうる組織である必要がある。とすれば、該当するのは彼女が先にあげたそれらの機関が適当であるのは火を見るより明らか。


ならば何故、日本の一組織に過ぎない「転移転生行方不明者捜索機関(ロストチャイルドレスキューエージェンシー)」にも声がかかるのだろう?

更に一歩踏み込むと、そのような局地に一国の一般人たるリイナ(一応対外的には立場は極秘な為)が捜索隊に加わるということは、他国から見れば拭い去れない違和感になるはずである。

下手をすれば、LCRAが保有する一定レベル以上の数々のオーバー(ロスト)テクノロジーやリイナらの力が他国の一般人(・・・)に露見しかねない。ドラゴンすら退ける程の戦力と知られてしまえば、ともすると要らぬ国家間の緊張を誘発する事態も有り得るのである。


「確かに。普通であれば………こういう言い方は悪いが、たかが遭難事故でと思うだろう。が、だ。今回は、調査チームが裏で取り組んでいた目的が問題なのだ。」

「はぁ…」


元々リイナに課せられている任務は、


あらゆる世界に「転移」「転生」したと思われる日本人を救出


する事である。

それ故に微妙に畑違いな案件を前にして今だ納得いかないといった表情で上司の言葉に生返事を返してしまうのだが、難色を示すのは仕方がないとしてもその態度は如何だろう?と、自身の体たらくに気づき即座に凛としたものに戻す辺りしっかりしている。


続いて上司が口にした言葉で

(成る程…此方の領分か)

と辛うじて納得できたのだった。



「というのは、チーム一行の目的が表向きのメディア発表では【無人気象観測所の計測機器メンテナンス及び、氷床下ボーリングに於ける氷床コアの研究】なのだが、その実…数年前に温暖化により突如露出した【南極ピラミッド】の調査であったと政府筋から伝わってきたのだ!」


「な、なんですってぇ!?」


さも困ったかのような顔をして顎を撫でる上司とリイナのやり取りは、思わずどこぞのミステリー漫画のようなものになってしまっているが、逆に言えばソレほどの衝撃であったのは言うまでもない。



「もしかしたらクレバスに滑落した事故かもしれんし、ただ単に遭難事故である可能性も今の時点では否定できんのだ。だがな…今回の件、極秘裏に我等を指定してきた打診元は、あの【DARPA】であるのだ!」


「…あぁ、成る程。彼らがまた(・・)やらかした可能性があるわけですね。」


DARPA(ダーパ)

米国国防高等研究計画局。つまり、軍事大国である米国政府直属の研究機関である。オカルト好きであれば、よく《陰謀論》等で名前を見かけよう。


リイナの(また)という発言より、その組織では前々から似たようなトラブルが起こっていた…いや、【起こしていた】のであろう事は想像に難くない。

更に彼女がしかめっ面をしていることから、何かしらの事情を知っているようでもある。とはいえ、今はそれよりも安否確認のほうが最優先であるべきはずなのだが。


「しかし連中懲りないですね。去年の絶滅生物DNA再生計画暴走時に滅国の危機だったというのに……」


「まあ、連中も上からの命令からか仕方なしな感じは否めないがな。どちらにしろ米国のお偉いが手柄を焦ったかしたのだろう、アンタッチャブルに先走りしたらしい。」


「ふぅ…彼ららしいですね。ですが、本当にピラミッドなのでしょうか?南極という地理的なものを鑑みても、下手をすれば1000万年という馬鹿げたタイムスパン存在していることになりますよ?我らはともかくとして、今の地球考古学がそれを是とするでしょうか?在るかどうかも分からぬ古代ロマンを。」


ただの遭難であるとするならLCRAに話が回ってくるはずがない。それにチームの主たる目的が、超古代文明の技術力や異能の力を求める為のものであるとするならこの遭難劇には何か裏があってもおかしくはない…ましてや依頼の元締めが

DARPA

だというなら自分らへの指名依頼も頷けるというもの、とリイナは確信にも似た予感めいたものを心中に抱くのだった。


人命の安否より陰謀を疑う声が先に出るのが、この組織クオリティーのようだ。


「さあな。ともかく、今回も科学技術庁の方多切(かたぎり)が新装備を試せると躍起になっている。何れにせよ、日本の地球環境学権威でもある四季沼(しきぬま)教授も巻き込まれているのだ。外務省と文科省、それに防衛省からも早めの決断を迫られている。…頼むぞ。」


「はっ!慎んで拝命します。」


いつもの異世界案件とは若干毛色が違う任務に着くのが久々であるリイナは、新たに気持ちを切り替え上司に答礼を返すのだった。




………………………………




それからは国際救出チームの準備があれよあれよという間に整い、9月終わり間際には既にリイナらは特別機により南極の凍てつく大地を踏み締めていた。




今だ拭い去れない違和感を持つリイナが今現在佇んでいる場所が、南極致点に程近いアムンセン・スコット基地前である。


万年雪が積もり積もった厚さ千メートルを越える氷棚の大地には、見渡す限り真っ白な雪原風景のみが広がる。

天気が良い今日みたいな日は、積雪による照り返しの眩しさで、網膜を焼く程に刺激するであろう代わり映えのしない色が広がるその風景。正に、地獄の最下層(コキュートス)を彷彿とさせる白銀乱舞(ダイヤモンドダスト)


総ての生命を拒否するかのような環境。

極寒の極致。




ここは地球でも指折りの酷所  南極大陸。


「凄まじいな……この地球というのは。遥か昔に訪れた魔界の難所と同等の環境が広大な大陸として存在しているとは。」


「うん。この惑星の極致点の一つであり、生命体の存在を拒否しているかのような穢れなき大地なんだ。」


夏季に入っているとはいえ気温は今でもマイナス20℃を軽く下回り、吐く息は綺麗な氷粒の形態に変わる。

網膜を保護する為の特殊なサングラスを着用しているリイナの隣で率直な感想を口にするのは、同じサングラスをして共に自衛隊組に紛れているシャンクである。他国の人間から怪しまれないように地毛を黒く染めているため、彼自身かなり違和感はあるようだが見た目は大丈夫であろう。

そして、科学技術庁から支給された最新鋭防寒バトルスーツは、見た目こそ全身タイツ程の薄さでありながら異常なほどの擦過・銃弾に対する耐久性や蒸れ防止・保温性能を完備している。まさに現代のチート鎧とでも言おうか。しかしながら、体のラインがやや強調されるため、二人はその上から自衛隊の防寒具を羽織っている。…しかし、その姿

……ちょっとかっこいい。


(後で写メって舞にみせよう。うん。)

「ん?どうした?」

「んーん。なんでも。」

刹那ではあるがその横顔をガン見していたリイナの視線に気がつくと、シャンクは不思議そうに問いかけるが、直ぐにリイナは誤魔化すかのように少しだけ顔を赤らめて基地の前の風景に目線を移すのだった。


間違いなく彼女の中で、喜怒哀楽の感情表現が以前より改善され豊かになってきているな。そんな言葉が己の心中にふと浮かぶが、野暮ったいと断じて口にすることはせずただ微笑みでリイナに返すシャンク。




嘗て、一人で行動していたときより遥かに多様な感情を素直に表に出せるようになっていた。それもこれも全て、ヴェルゼイユでの出来事以降からであるのは間違いなく、もしかしたら目に見えぬ何かに導かれての事なのかもしれないけれどまだまだそこに気が付くほどリイナ自身器用にはなれてはいない。

それに、こと戦いに身を置く者にとってそれが全てプラスに働くとは限らない…


今回の救出ミッション編成チームにはLCRAからこの二人が、というか二人だけ(・・)が参加(紛れて)している。

というのも、舞が事前に行われた身体検査の項目で引っかかってしまった為同行できなくなってしまったのだ。南極という極地の特性上、病気にかかっても気軽に治すことができないため、虫歯一つでもNGというほどの厳しい身体検査で病気の可能性がある者を弾くのが通例であるので、貴重な戦力が削られたのは致し方無い事とはいえ痛手ではある。


(はぁ…舞大人しくしてるかな……)


一人残してきた舞を案じてか、リイナは溜め息を漏らすのだった。



………………


「いぎだい~!私もいぎだいの~!」


この前の身体検査の結果に納得いかない舞が、シルバーウィーク前に遊びに来ていたリイナの家で双子がいる前にも関わらず泣き叫び、彼女の部屋の床に寝転がってダダをこねていた。

まあ、泣いても一度出た結果は覆らない訳だが……


「ちょっ、ちょっと!瑠璃と翡翠もいるのにそんな醜態晒さないでよ!!」


「だっでぇだっでぇえ!!うわぁああああーん!」


うん。解る。

一瞬でも、普通なら行く機会すら与えられぬ場所に赴くチャンスがあったのだ。その悔しさは計り知れないだろう。だからといって…


「だーけーどーも!二人の教育に良くないからやめて!ね?折角の美人が台無しだよ?」


仕方ないと思いながらも、床でダダこねまくっている物体に諭すように語りかけると、なんとかリイナの言葉が届いたようでそれは不意に動きを止める。


「ヒック……び、美人?グスッ……ほんとに?」


内心(チョロイン!)と言わんばかりに小躍りしそうになるものの、表情に出さないようまだ絶賛ヘソを曲げている舞に細心の注意を払いつつ慰めるように言葉を選ぶ。

流石に舞程のレベルがスカートでだだっ子する姿は、何度も言うようだが同じ女性として直視に堪えないのである。


漸く舞のモチベーションが立ち直りかけていたのだが、いつの間にか瑠璃と翡翠が先程の彼女のだだっ子ポーズを楽しそうに【笑顔で】真似していた。


「「私たちもいきたーい!」」


ジワッ


あ!これあかんやつや……


「ぎゃーーーーうわぁあああああああんっっっっっっっっっっ!!!」


流石にこれは五月蝿い。煩すぎる泣き声である。

なまじ異能力を持つが為に、この泣き声一つ取ってもガラス窓を震わせ割れそうな程の振動を生み出していた。


お前はセーラー○ーンか!?


と突っ込みたいが、段々メンドクサクなってきたリイナは両手で耳を塞ぎ騒音に耐えている。


……もうこうなれば最終手段だ。

未だ哭いている舞の耳元に近付き、甘ったるい恋人にでも囁くように話しかける。


「仕方ないなぁもう。んじゃこれで機嫌直して貰える?これからお昼寝一緒にしよ?それで我慢して?ね、お願い。」


砂糖を吐きそうな顔になりながら自身のポケットよりハンカチと薬品用の《小さいガラス瓶》を取り出すと、手早く瓶の中身をハンカチに染み込ませる。


「えっ!えっ!?それマジで!?ほんt……グーグー」


リイナの言葉に反応し泣き止み、聞き返してきた舞の口許へ素早く先程のハンカチを当てると見る間に夢の中に誘われていったのだった。

床に寝かせたままなのも可哀想なので自分のベッドに寝かせてあげる辺り、やはりリイナはよいこである。

しかしちょっとイラッとしてしまったので、舞にタオルケットをかけてあげると


「瑠璃。翡翠。僕は数日間お仕事ででかけるから舞の事、宜しく御願いね。ほら、一緒にお昼寝しな。」


「「わーい!!」」


自分の代わりに二人を添い寝させることにしたのだった。

瑠璃と翡翠は()嬉しそうに破顔しながら飛び込む勢いで、舞の右腕を瑠璃が、そして左腕を翡翠が腕枕にして寝始める。どうやらそれが定位置のようで、目を輝かせている。

更に二人は、舞の上着のボタンをさも当然のように外し始めたのを横目に部屋を出るのだった。


(おやすみ舞。ごめんね?)




…………………………


今回の救出は、各国が各々最高の人材・最新装備を投入してきている事から事の重大さが分かろうというもの。米国主導とは言え、強引に世界に先駆け謎の解明を極秘裏で進めたツケを今払っているようなものである。

この分だと日本からの参加者(遭難組)は、詳細を把握していないなと頭を抱えそうになるのだった。


「特尉!そろそろ作戦会議が行われます。是非中へ。」

「ちょっ!加納谷(かのや)一佐!この現場ではそちら(自衛隊)が主導なんですから!僕は一隊員でお願いしますよ?」

「はははっ。申し訳ない。いつも指導を受けているのはこちらですもので思わず。では中へ。」


いつもはリイナが防衛省に武術指導をするために通っているので立場的には上であるのだが、現在はその指揮下に入っているため少々ややこしい位置にいるのだ。

教え子にあたる加納谷と呼ばれた元冬季戦技教育隊所属、現ハイパーレンジャー隊隊長であるこの男は悪びれもせず笑うと二人を中に招き入れるのだった。


今回の国際的遭難災害派遣に適応されている「国際緊急援助活動の実施に関する自衛隊行動命令」は、平成25年にあった台風第30号により、甚大な被害を被った比共和国の復興の為防衛省が出した以来の発動である。


ここから本格的な救出活動が始まる。




今回削ったシーン



砂糖を吐きそうな顔になりながら自身のポケットよりハンカチと薬品用の《小さいガラス瓶》を取り出すと、手早く瓶の中身をハンカチに染み込ませる。


「えっ!えっ!?それマジで!?ほんt……グーグー」


リイナの言葉に反応し泣き止み、聞き返してきた舞の口許へ素早く先程のハンカチを当てると見る間に夢の中に誘われていったのだった。


部屋の外では、お茶を運ぶタイミングを逃していた麗が

「舞さん……それは鬼畜の所業です。」

と突っ込みをいれていた。

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