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帰れる場所があるなら帰りたい件  作者: なにかの中の人
【第1章】 麗しのデルゼルス編
28/34

幕間 LCRAのヒロインたちが繰り広げる何気ない夏の一日

今回は少し百合要素といいますかお色気がちょっと多めになっております。

そういったのに嫌悪感がある方は、飛ばしていただいて構いません。

今話は読み飛ばしても本編にはほとんど影響がありませんのでご安心ください。

「「リイナさ~ん。」」

「何?どうしたの二人とも。」

「「んふふ~。なんでもな~い。」」

「もう。からかわないの。」

「「えへへ~」」


暫く任務もなく本格的に夏らしい時期に突入した8月、冷房の効いたリイナの自室のベッドに瑠璃と翡翠は足をパタパタさせながら横になっていた。一卵性双生児だからであろうか、全く同じ体勢でキャッキャと姦しくしている。

何気ない行動一つでも新鮮で、それに加え二人がいた時代より過ごしやすく、何より平和な日常を享受するのがこんなに素晴らしいという感覚に毎日が天国に思えるのだろう。


幼少時代というのは夏休み一つとっても、大人よりだいぶ時間間隔が長く感じる思い出はないだろうか?これはいわゆる

【ジャネーの法則】

と呼ばれるものである。

瑠璃と翡翠は、今まさに未知の体験を常に積み重ねて生きている。戦中では絶対に体験できなかった人生をいきなり現代人並みに歩めるようになったからであろう。これほど高度な教育を受けられ、飽食と言われるほど食べ物に事欠かず、生きるための最低限のセーフティーネットが充実した国。

これがかつての戦争していた国の未来であるという。当時の人にこの事実が受け入れられるだろうか?おそらく想像すらつくまい。

今の戦争を知らない世代は、大体この平和が当たり前のものとなってしまっている。

だからこそ現代人は、突然訪れる異世界への恐怖に抗う術を知らない。争いや戦いは未だ消えることはないし、今も続いている世界もあるのだ。

もしかしたら、あなたの身近な空間一枚隔てた先がそうであるかもしれない。


とまあ話がずれたが、二人がリイナの自室にいる理由は己の流派の自主稽古に勤しみ汗を流した後部屋で一休みしようとしたところに、双子に

「「お~ね~が~い~」」

と纏わりつかれたため仕方なしに招待したというだけのことである。

出会いよりそう経ってはいないのだがこれ程懐いているのは、向こうの世界で様々な体験と稀有な経験を積んだとはいえ、この年頃(二人とも11歳で成長が停止していたため)はいろんな事柄に興味を示し活発に行動するので、率先してリイナ自らが身寄りを預かるなど公私ともに善き親代わりになっていたのがその一因であろう。

最早、リイナにとっても親戚の子以上の気持ちが芽生えるのは必然であった。

もしかしたら実子のような……いや、なんでもない。


テーブルに置かれている冷やしたグラスに注がれた麦茶を飲み干し、照りつける陽射しが目を射す窓に視線を移すリイナ。

この家の庭には僅かであるが緑が生い茂り涼しさをもたらしているが、こうも温度湿度共に高いと余り意味をなさない。皮膚に纏わりつく不快感が多少緩和される程度である。


「二人とも疲れてない?もう現代になれた?」

「「うん。ほんとに日本か~?って感じだけどだいぶ覚えたぁ!」」

「偉いね~。」

帰還より三週間ほど経った、ある日差しが強い日中。この日、諸々の検査等が一段落した姉妹は一日お休みになっていた。

カウンセラーを通して現代の常識や心のケアに加え、学力を調べるためのテスト・現在保有している超能力等の異能テストetc…これらの膨大な検査項目を日々精力的に熟してきている二人を思いやってか、労う言葉をかけるリイナ。

初めは小さい子供との接し方の距離が分からず戸惑うばかりであったリイナも今は馴れたもので、母親のように両手を使いベッド上で起き上がって座りなおした姉妹の頭を抱くように抱え込みかいぐりまくるのだった。二人も満更ではないように目を細めてされるがままになっている。

彼女の中の母性というものが発達してきているのだろう。こんな気持ちもこれまでであれば想像できなかったのであろうが、仲間達と触れ合う内に土台が出来ていったとみて間違いない。



【再養育療法】というものが存在する。

幼き頃、主に思春期以降に何かしらのショックや体験、その他酷い両親の元で歪に育ってしまったアダルトチルドレン等の症状に対し、その過程で欠けた感情を矯正するための対処療法の一つである。

幼少期より天才と言われ続けてきたリイナも例に漏れずそんな精神構造に近いところにいたのだ。それ故に幼い双子との触れ合いと交流は、両親と兄を失って久しいリイナにとっていつの間にか、そして期せずしてその役目を果たしていたのである。


こんなに大変でありつつも楽しい日常など想像すらしなかったと自分で感じられるほどである。と後にリイナは語る。


「今まで大変だった分、これからは楽しいことがたくさん待っているからね。あ、そうだ!もういっその事ここにずっと住んじゃってもいいよ。舞もたまに来るし、シャンク…はいいか。」

少し調子に乗ったリイナは、テンション上がるままに二人にそう提案したのだが、


「「え~?いいの~?嬉しいな!でも、リイナさんもいつかお嫁さん貰って結婚するんだよね?そうしたら私たちお邪魔じゃないかな?クスッ。」」

ボーイッシュなリイナの見た目をからかうかのように胸を抉る一言の重みが、自身の身体を床にへばり付かせると思わず目頭が潤む。


(オゥッフ!またこれか……見た目は幼いからって甘く見てた…そう来たか…)

彼女のコンプレックスを何も知らないとはいえ、無邪気とは恐ろしいものである。

二人には真意や他意など何もないリイナをからかった一言なのだが、思った以上に効いたようでなかなかに立ち直れず重力に体が負けてしまう感覚にしばし揺蕩うリイナであった。


「もう!僕は女の子だぁ!!そんないけないこと言うのは~この口かぁ!?それともこっちの口かぁ??」

「「きゃぁ~リイナさんのエッチ~!」」

「誰がエッチだってぇ~!!??」

「「うわぁ!逃げろ~」」


なんとか気分を持ち直し、悪い顔を浮かべてやり返すために両手をワキワキと蠢かしながらイケナイ一言を発した二人と追いかけっこするようにはしゃぎ回る三人であった。


こうして傍からみると本当にただの11歳の少女達に見える。

とても、異世界で大変な時代を過ごしていたとは到底思えないなとリイナは複雑な感情を抱きながら追い回し続ける。

三人は、今暫しの無邪気な鬼ごっこを楽しむのだった。


そうして少しの間はしゃいで走り回っていると、突然何の脈絡もなく止まった瑠璃と翡翠。

彼女らにぶつかりそうになりながらも踏み止まったリイナは頭の中で疑問符を浮かべるままに二人に問いかけようとするのだが、反応はなくただ一点を見つめたままの状態に言葉が出てこず心配な気持ちだけが膨らむ。

二人の表情はボーっとしているような感じで口がだらしなく開き、固まったままである。

これは何かの前触れか?とゆっくりその視線の先を追っていくとまだ暑い日差しが差し込む窓に行着く。目に入ってきたのは日差しではなくこの部屋の中を外から堂々と覗き込む何者かの間抜けな顔であった。


口許はギリギリと歯軋りさせており何かを羨むような、それでいて全てを呪い尽くさんばかりに般若の表情で血の涙すら幻覚として見えてきそうな者が一人、ガラスに張り付いていたのだ。

それは何者であるかは皆瞬時に理解できたのでリイナ達は別段騒ぎ立てることはなかったのだが、同じ女性として思わず顔を背けたくなる程可哀想に思えてしまうその姿。


たまたま訪問したタイミングで、知り合い達が楽しそうにキャッキャウフフしているのが目に入ってしまったのだろう。そして自身に猛烈に襲いくる急な疎外感に蝕まれ暗黒面(ダークサイド)に堕ちてしまったが故の突発的な行動の結果がこれだ。


余りにも哀れ。


三人で未だへばり付いている(ソレ)に暫く生暖かい視線を送っていたのだが、ある瞬間に瑠璃と翡翠がゆっくりと右手をユニゾンして窓に向ける。

すると、手も触れていないのにカーテンが独りでに閉まっていくではないか!

流石に11歳児でも見苦しいと感じたのだろうか、まるで臭いものには蓋をしろと言わんばかりに無情にも閉じていくカーテン。

この力もESPの念動力に近い原理のものであろう。

それは双子の優しさから来る無意識行動であったのかもしれないが、今日の外の物体はここからが違った。


「「ヒッ!!」」


二人はよくわからない力の拮抗を感じたのか、短い悲鳴を発して一瞬身を竦ませた。同時に閉まっていくカーテンが念動力に逆らうかのように再び開き初めたのだ!

恐ろしい執念。そして恐るべきポテンシャル!

人の思いとはこれほどまでに強く、そして新たな力を目覚めさせ……

「「あっ!鼻血出だした……」」

「じゃなくってぇ!舞大丈夫?なにしてんのそんな暑いとこで!?」

カーテンが開ききったところで外の物体に変化が訪れる。


所詮は生身である。

長時間真夏の気温の中で無理をしていたため日射病か熱射病になってしまったのだろう、鼻血を出しながらゆっくりと後ろに倒れこんでいく「舞」……


そう。外から覗いていたのは、リイナと夏休みの宿題をしようと偶然ここを訪れた舞だった。

外とは言え、庭は柔らかくしっかりと手入れされている芝生だからそこまで大事には至らないと思うが、すぐに三人は自業自得とは言え脱水症状に陥って意識もままならぬ彼女をリイナの自室に運び込み介抱を始めたのだった。




ここで、日射病及び熱射病の対処を列挙しよう。

まず、 風通しが良く、涼しい場所に運んで安静にする。


しかる後、身体を締め付けを緩めたり、服を脱がせて放熱を促す。


体を冷やすために水をかけたり、水で濡らしたタオルで全身を拭く等体温を下げるようにする。


意識がある場合には冷たい水かスポーツドリンクを摂取させる。


これで大体は大丈夫と思われるが、念のため病院で診て貰ったほうが懸命であろう。

 




一応、麗に頼んでかかりつけの医者を往診で呼び寄せ診察してもらったが、大したことはないらしい。…だが

「普通、この気温下で小一時間いたらこんなんじゃ済まないんだけどね。ま、運が良かったとしか…」

の医者の一言に

(ああ…一応 女神(ヴェルフェス)の加護…というか本体が守ってるからね。)

と苦笑いを溢すリイナであった。

ともあれ、舞のスカートなどの衣服を緩めて締め付け感を緩くした後に 脇 足の付け根 頭 の各所へ体温を下げるためにアイス枕を配置して心配そうに様子を見る三人であった。

時たま、額に乗せた濡れタオルを交換してあげる瑠璃と翡翠は本当に申し訳なさそうな表情で今にも泣きそうな雰囲気である。

しかし……


舞がこう横になっているのをみると、ある一部分がその…大変主張しているのがはっきりとわかる。今は拘束を緩めるために下着のフロントホックも外してあるから余計である。

少しの間立派な双山に目を奪われていたがふと気になったのだろう、己の胸部に目線を落とし一撫でしてから嘆息するリイナの背中からは哀愁が漂っている。

その一連の行動を興味深そうに凝視していた双子はその行為に興味をもったらしく、彼女を真似るように自分等の胸部を撫でている。


「「すとーん。すとーん!!きゃははっ」」


などと口走りながら。


今日、リイナは間違いなく悔しさに枕を濡らしてしまうだろう予感に打ちひしがれると、まさに追い打ちといった二人の行動に居た堪れなくなったのか

「ちょっと僕別室でお仕事してくるから…静かに看病したげてね。1時間くらいで様子見に来るからね。お願いできる二人とも?」

「「わかった~。頑張るね!」」

そう瑠璃と翡翠に一声かけてから、力ない足取りでリイナは部屋を出たのだった。





カーナカナカナカナカナカナカナカナ


それから数十分。

日が長い夏の日の太陽も西に沈みかけた頃、仕事を一段落させたリイナは自室に足を運ぶ。 


ガチャ


(あ~!!やっと来てくれたぁ!!!リイナちゃん助けて~ウェェン!!!)


どうやら気が付いたらしい舞が、小声(..)でリイナに助けを求める。

…のだが、ヘルプの言葉が聞こえたはずのリイナが無言で再び扉を閉めようとするので思わず

「ウォイ!!」

ドスの効いた突っ込みが舞より入る。思わず大きい声を出してしまった為に舞はしまった!というような表情をして口を紡ぐと目線で更にリイナに助けを乞うのだった。涙目で。

「…ふぅ。ごめん、今二人を離してあげる…」

顔を赤らめながら目線を微妙に外してそう答えるリイナ。


舞を寝かせたベッドには彼女の左右の両腕を枕代わりにし、尚且つその母性の象徴ともいうべき双山(..)を仲良く片方ずつ握りしめてスヤスヤと瑠璃と翡翠が寝ているのであった。

そりゃ無言で扉も閉めようというもの。

何も知らぬ者が見たのなら確実に

「お楽しみでしたね」

と言われそうな状況であったため、リイナの行動もやむなしな感じであった。


ともあれ近づいて見てみると、幸せそうな寝顔のその頬にはうっすらと一筋の涙の跡が見て取れた。

普段あれだけはしゃいではいるものの、やはり過酷な体験と長きに渡る日本の親族との離別からか、もう会うことができない母の面影を舞に見出したのだろうとリイナは推測せざるを得なかった。


静かに二人の涙の跡をハンカチで拭き取ると、一人ずつ起こさぬように配慮しながら与えられた自室に運ぶと、ようやく舞は解放されたのだった。


「ありがとうリイナちゃん。でも寝ている間、あの子たち頻りに(ママ…)って言ってたよ。やっぱ淋しいんだね。あんな悲しそうな顔見たら、どんだけ私が恵まれているかよくわかった気がするよ。」

少し潤んだ瞳でそう語る舞。

もし自分がそんな立場であったらどうなっていたのか…想像力豊かな彼女は、二人の境遇に哀憐を感じ得ないといった感じで瑠璃と翡翠が寝ていたベッドに視線を落とすのだった。


「そっか…まだまだカウンセリングじゃおっつかない部分もあるよね。」

改めて自身の仕事の意味を考えさせられたのか、彼女らとの触れ合いをもっと多くして笑顔を増やしてあげたいなとリイナは決意するのだった。






「…あのぅ、それでリイナちゃん」

「ん?どしたの?って大丈夫?」

しばらく無言であった二人だが、ふいに舞がさっきより顔を真っ赤にして声をかけるとその表情を見て心配そうにリイナは彼女を気遣うように答える。

何故か恥ずかしそうにしながらモジモジするばかりで、どうしたのか一向にわからなかったのだが、やっと絞り出せた一言でリイナは全てを理解したのだった。


「ああああああのさ、…新しい下着あったら貸してほしいな~なんて思うんだけど、迷惑かな?」

「へっ?……あ、あ、あああああああいいよ!僕の部屋にあると思うから」


どうやら、瑠璃と翡翠にずいぶんとしばらくの間揉まれたり吸われたりしていたらしく(何とは言わないが)

、寝汗やら何やらで大変なことになっているようである。

察した彼女はすぐに、シャワーを貸したがいつの間にか自身も連れ込まれていたのであった。

双子と一緒にからかう形となってしまった手前嫌とは言えず、図らずも舞の脳内フォルダに新たな容量を増やす結果となってしまった。



何はともあれ、新しく入った仲間となった瑠璃と翡翠が今後どのように活躍してくれるかワクワクしてくるリイナと舞。

この物語のヒロインである彼女たちのこれからの成長を、未だ異世界で助けを待つ人々は待ち続けている。









(あ、あの~…わたくしはヒロイン枠ではないのでせうかぁ…?)

空気を読んで一部始終を見守っていた女神(ヴェルフェス)の泣きそうな一言が、過ぎゆく夏の一日の終わりに無情にも木霊していくのだった。

ヴェルたん(あ、あの~…わたくしはヒロイン枠ではないのでせうかぁ…?)


作者「あぁっ!?(威圧)」

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