再会
長く放置していました。きまぐれに続きを書いてみたいと思います。マユ視線での投稿はなくなってしまったかもしれませんが…。
「おい!」
うつらうつらしていると、ゴメスに肘で突かれた。
そもそも、俺は宗教に興味はない。そりゃ、かっては塚本牧師に従事したことがある。従事とは言っても、ただ後をついていっただけだ。それに…ここは、カトリックじゃないか。同じキリスト教と言ってもプロテスタントとはずいぶん違う。
ゲンの前に、赤い籠が回ってきていた。ゴメスに小突かれたのはその時だった。不満に思いながらも、ポケットにあった小銭を放り込み、次の人に回す。
正直、ゴメスを真似て聖水を指につけて額、胸、左肩、右肩と十字を切り、教会を出た時はほっとした。
「なあ、頼むから俺たちの信仰に従えとは言わないが、ちょっとは敬う気持ちにならんか?」
「ゴメンだね。俺は何ものにも縛られたくはない、もちろん神さんにもお寺さんにもな。」
あきれた顔でゴメスがため息をつく。
「で?パン食いに行くのか?」
「もちろん。船の堅いパンには飽きたところだ。すぐに連れて行け。」
朝はまだ早い…といっても、ゲンにとってはだ。ミサの始まりが7時で、今は9時。木村屋のある大通りはにぎわっている。
「いつもより、人が多いな。」
「ゲン、お前、日本人のくせに知らないのか?」
「何を?」
「今日は、たしか地久節と言ってだな、皇后陛下の誕生日らしいぞ。」
「ほう、異人さんにそんなことを教わるとはな。ま、俺にとっちゃ、休みたい時が休日だ。」
言われてみれば、商売人の中にも普段着で歩く者も多かった。
「ん?」
すれ違う人々の中に、ゲンは何か懐かしい…いや、心揺れる風景を見た。
目に入ったのは、一人の女学生の姿だった。
むこうもゲンの視線に気づいたようで、怪訝そうに立ち止まり、小さく頭を下げる。つられてゲンも頭を下げた。
誰だったろう?
女学生は何かに気づいたようだが、ほんの一刻ゲンを見つめただけで、歩き始めた。
追わなければ…そう思いながら、動くこともできずにただその後姿を見送った。ゲンの目には恥じらいととまどいの表情で立ち去ってゆくように見えた。
「どうした?」
ゴメスの声に我にかえる。
「ん、…いや、何でもない。」
「知り合いか?」
「さあな。」
会ったことがある…だけど、誰だったか思い出せない。何か大切な人だったような気がする。確かめたい…けれど、どうしても思い出せない。もどかしさ…
その日、一日、その光景が頭から離れなかった。もしかしたら、すごく重要な機会を逸したのではないか、取返しのつかないことをしたんじゃないか…そんな思いばかりが頭の中を駆け巡っていた。