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時は大正
設定に誤りがあったため修正(2013.3.22)
甲申政変から日清戦争に至る頃だろう、ゲンが生まれたのは。
おそらくというのは、自分の誕生日を知らないから。
物心ついた頃には、教会の孤児院にいた。
塚本牧師夫妻の子として戸籍には届けられている。
日清戦争は知らないが、日露戦争の頃はゲンもはっきりと覚えている。兵役に就きたい…だが、年齢が足りず悔しい思いをしたものだ。
カフェで、週に一度の贅沢、カレーライスを食し、女給のエミリと馬鹿話を楽しみ、今は肌寒い馬車道を歩いている。ガス灯のあかりがゆらぐ石畳の冷たさもまた心地よい。
「今夜はどこにしけこもう?」
塚本牧師と喧嘩して、慈敬堂を出てから3年。相変わらずのプー太郎。もう30も過ぎたというのに、何をするでもなく、ただただ無頼の日々に身を任せ、さほど容姿に恵まれているわけでも、喧嘩が強いわけでもないゲンにはつまらない時代なのかも知れない。
そんなゲンにも夢はあった。いつか丸珠ダンスホールのお立ち台で喝采を浴びながら踊る夢が…。