2.初めての依頼
リクは森を離れ、町の近くまで来ていた。
町の門をくぐったとき、最初に思ったのは――
「……人、多いな」
森しか見てなかったから、余計にそう感じた。
石畳の道。木と石の建物。行き交う人。露店の匂い。
ちゃんと“異世界”だった。
⸻
『やっとスタート地点って感じだな』
⸻
「森スタートきつすぎるだろ」
⸻
歩きながら、ふと周りの視線に気づく。
ちらちら見られてる。
明らかに。
「……あ」
⸻
『気づいたか』
⸻
「俺、浮いてる?」
⸻
『めちゃくちゃ浮いてる』
⸻
「だよな」
⸻
原因は分かってる。
制服。
どう考えても、この世界の服じゃない。
「……さすがにまずいか」
⸻
『目立ちすぎだな』
⸻
「よし」
立ち止まる。
イメージする。
この世界の人が着てそうな服。
動きやすくて、シンプルなやつ。
「メイクリーチ」
光が集まる。
数秒後。
手の中に、布の服一式が現れた。
「……できた」
⸻
『なんでもありだな』
⸻
「助かる」
⸻
路地に入って、さっと着替える。
鏡はないけど、たぶん大丈夫だ。
「……うん、浮いてない」
⸻
『ようやくモブになれたな』
⸻
「言い方」
⸻
これで一安心。
改めて、町を見回す。
「……よし」
小さく息を吐く。
「やることは決まってる」
⸻
『なんだ?』
⸻
「飯と寝る場所はどうにでもなるけど――」
手を開く。
パンくらいなら出せる。
家だって作れる。
「それだけだと、この世界で何も分からない」
⸻
『……まあな』
⸻
「地図もない、常識もない、知り合いもいない」
「これ、普通に詰むだろ」
⸻
『生活はできるけど社会性が死んでるな』
⸻
「それな」
⸻
だから。
「情報と、繋がりが欲しい」
⸻
『で、ギルドか』
⸻
「一番それっぽいからな」
⸻
■冒険者ギルド
木の看板をくぐる。
中はざわざわしていた。
鎧の人。剣の人。ローブの人。
さっきより視線が少ない。
「……服って大事だな」
⸻
『さっきまで目立ちすぎてたからな』
⸻
受付に向かう。
「初めての方ですか?」
「はい」
登録を済ませる。
数分で終わる。
「これで完了です」
「早いな」
⸻
『異世界、手続き軽いな』
⸻
「助かるけどな」
⸻
掲示板へ。
依頼が並んでいる。
「初心者向け……」
探す。
見つける。
「“遺跡の魔物の数を減らす”」
⸻
『いきなりダンジョンか』
⸻
「簡単って書いてある」
⸻
『その“簡単”、信用できるか?』
⸻
「……微妙だな」
⸻
でも他にない。
「これでいいか」
⸻
■遺跡
町から少し離れた場所。
崩れた石の建物。
「……それっぽい」
⸻
『嫌な予感しかしないな』
⸻
「同感」
⸻
中に入る。
ひんやりした空気。
静かすぎる空間。
「……静かだな」
⸻
『逆に怖いな』
⸻
奥へ進む。
――ガサッ。
「来た」
魔物。
一体。
「メイクリーチ」
短剣を出す。
突っ込んでくる。
避ける。
斬る。
終わり。
「……楽すぎる」
⸻
『バランス崩壊してるな』
⸻
「ちょっと怖い」
⸻
さらに奥へ。
数体。
同じように倒す。
静かになる。
「……終わりか?」
⸻
『帰るか?』
⸻
「いや、確認だけ」
⸻
そのとき。
――キィン!
金属音。
――ドンッ!
何かがぶつかる音。
「……今の」
⸻
『今の、悲鳴みたいなの聞こえなかった?』
⸻
「聞こえた」
⸻
走る。
⸻
■ランカ救出
広い部屋。
少女がいた。
赤髪。
ツインテール。
魔物三体に囲まれている。
「やばいな」
⸻
『数が多いな』
⸻
「でもいける」
⸻
踏み込む。
「そっち行くな!!」
魔物が振り向く。
一体、斬る。
二体目、来る。
避ける。
斬る。
三体目。
一瞬で距離を詰める。
――終わり。
⸻
「……大丈夫?」
⸻
少女に近づく。
息が荒いが、無事だ。
「……助かった」
赤い瞳が、まっすぐ俺を見る。
「ありがとう」
「いや、近くにいただけだから」
⸻
『それっぽいな』
⸻
「うるさい」
⸻
少女が立ち上がる。
少しふらつく。
「おっと」
手を貸す。
距離が近い。
⸻
「……」
⸻
じっと見られる。
数秒。
⸻
「……名前」
⸻
「え?」
⸻
「教えて」
⸻
「リク」
答える。
その瞬間。
少女の目が、わずかに揺れた。
⸻
「……リク」
⸻
小さく繰り返す。
⸻
「ランカ」
⸻
「ハイビス・ランカ」
⸻
「よろしく」
手を差し出される。
自然な流れ。
握る。
⸻
少しだけ、強く握られる。
⸻
「……見つけた」
⸻
「え?」
⸻
「……なんでもない」
⸻
笑う。
⸻
ごく普通の出会い。
――のはずだった。
⸻
でも。
なぜか、その言葉だけが引っかかった。
⸻
■帰り道
「一人で来たのか?」
「うん」
「危ないだろ」
「分かってる」
⸻
『分かってて来るタイプか』
⸻
「俺も人のこと言えないけどな」
⸻
並んで歩く。
出口へ。
⸻
気づけば。
⸻
ランカの手は、ずっと俺の袖を軽くつかんだままだった。




