1. 異世界来た瞬間、死にかけてるんだが
「ちょっ――待って無理無理無理無理!!」
全力で走っていた。
森の中を。
全力で。
人生でここまで本気で走ったことは、たぶん一度もない。
「いやなんで!? なんで初手これなの!?」
後ろから響く重い足音。
ドスン、ドスン、ドスン。
振り向く。
そして後悔する。
「でっか!?」
犬みたいな何か。
ただしサイズが完全にバグってる。
牛くらいある。
牙がやたら鋭い。目が赤い。殺意がすごい。
「どう見てもチュートリアルの敵じゃないだろ!?」
⸻
『当たりを引いたな』
⸻
「外れだろこれ!!」
⸻
頭の中に響く声。
あの神様だ。
⸻
『異世界なんてこんなもんだ』
⸻
「初日で命の危機は聞いてない!!」
⸻
枝をかき分けて走る。
足がもつれそうになる。
でも止まったら死ぬ。
これは分かる。
絶対死ぬ。
「能力!!」
ある。
ちゃんと聞いた。
プロローグで説明された。
メイクリーチ。
なんでも作れる能力。
分かってる。
分かってるけど――
「実戦で使うの初めてなんだよ!!」
⸻
『イメージしろ』
⸻
「知ってる!!」
⸻
言われた。
ちゃんと覚えてる。
頭では分かってる。
でも――
「こんな状況で冷静にできるか!!」
⸻
背後で唸り声。
近い。
めちゃくちゃ近い。
やばい。
ほんとにやばい。
足がもつれる。
「うわっ!?」
転んだ。
最悪。
顔を上げる。
影。
巨大な口。
牙。
「……終わった」
⸻
『終わってない』
⸻
「いや終わる!!」
⸻
でも。
このままじゃ死ぬ。
だから無理やり考える。
欲しいもの。
今必要なもの。
防ぐ。
とにかく防ぐ。
盾。
デカいやつ。
「――メイクリーチ!!」
叫ぶ。
イメージを叩き込む。
その瞬間。
ドンッ!!
目の前に、巨大な盾が出現した。
次の瞬間、魔物が突っ込んでくる。
衝撃。
「うおおおお!?」
吹き飛ばされる。
地面を転がる。
でも――
「……生きてる!?」
食われてない。
盾も壊れてない。
成功。
ギリギリ。
⸻
『ほらできた』
⸻
「ギリギリすぎるわ!!」
⸻
魔物が後退する。
距離ができる。
今しかない。
逃げる?
いや、また追いつかれる。
なら――
「武器……!」
短剣。
軽いやつ。
扱えそうなやつ。
今度はちゃんとイメージする。
「メイクリーチ!!」
ぽんっ。
手に収まる感触。
短剣。
「よし!」
⸻
『いけ』
⸻
「軽いな!?」
⸻
魔物が再び来る。
怖い。
でも。
足が動く。
勝手に。
前に。
「え?」
速い。
体が軽い。
さっきより明らかに動ける。
⸻
『それ二つ目だ』
⸻
「今言うな!!」
⸻
もう止まれない。
振る。
――ザンッ。
それだけ。
魔物がそのまま倒れた。
「……」
静寂。
「……え?」
短剣を見る。
普通。
腕を見る。
普通。
魔物を見る。
倒れてる。
「……え?」
⸻
『勝ったな』
⸻
「え?」
⸻
『おめでとう』
⸻
「ええええええ!?」
⸻
理解が追いつかない。
「いやいやいやいや!?」
おかしいだろ。
初戦だぞ。
ほぼ初心者だぞ。
なのに。
「……俺、強くない?」
⸻
『かなりな』
⸻
「聞いてないんですけど!?」
⸻
『言った』
⸻
「ふわっとしか言ってない!!」
⸻
でも現実。
倒してる。
さっきまで死にかけてたのに。
今は勝ってる。
「……なにこれ」
ちょっと怖い。
普通に怖い。
⸻
『慣れろ』
⸻
「無理」
⸻
その場に座り込む。
息が荒い。
心臓がうるさい。
でも。
「……生きてる」
それだけで十分だ。
⸻
立ち上がる。
周囲を見る。
森。
相変わらず森。
でもさっきよりはマシに見える。
「……とりあえず」
状況整理。
「俺、異世界に来た」
⸻
『そうだな』
⸻
「能力ある」
⸻
『そうだな』
⸻
「で、森」
⸻
『そうだな』
⸻
「最悪じゃない?」
⸻
『最悪ではない』
⸻
「ちょっとは否定してくれよ」
⸻
歩き出す。
慎重に。
さっきみたいなことにならないように。
⸻
そのとき。
風が吹いた。
森の奥から。
血の匂い。
そして。
さっきとは比べものにならない圧。
「……え」
⸻
『強いな』
⸻
「軽いな!?」
⸻
分かる。
本能で分かる。
これは無理。
「逃げる!!」
即決。
全力で逆方向へ走る。
学習した。
強そうなのには近づかない。
これ大事。
⸻
森の奥。
巨大な魔物の死体の前。
一人の剣士が立っていた。
金の髪を束ね、大剣を担いでいる。
静かに、周囲を見渡す。
風が流れる。
その中に混じる、わずかな違和感。
知らない気配。
「……」
ほんの少しだけ、視線が揺れた。
だが。
そのまま、興味を失ったように歩き出す。
⸻
まだ。
出会うには、早い。
読んでくださりありがとうございました
フォローやブクマ、★レビューよろしくお願いします!




