24-2 名護屋城【文禄の役-出陣】
天正二十年(1592年)皐月(5月)下旬――
陣触れが出てからおおよそ二週間が経っていた。
未だ出陣の下知は受けておらず、永重らは名護屋城下の陣屋で待機を続けていた。
名護屋の城下は日ごとに人馬が増えていた。
諸国の大名が続々と到着し陣屋の数はさらに増え、街道には荷駄隊が列をなして浜辺には大小の船が幾重にも並んでいた。
永重らは、鍛錬の為に城下を離れた丘陵地へ遠駆けに出ていた。
初夏の陽射しは強く草は青々と伸びている。
「――止まれ」
永重が手を上げた。
二十四騎は一斉に歩みを止める。
「どうされました、若殿」
重兼が聞く。
永重は丘の向こうを見ていた。
そこには、騎馬の一団がこちらへ向かって来ていた。
数は二十ほど。
「こちらに気付いているな」
伊織が呟く。
やがて互いに距離が詰まり十間ほどで両者は馬を止めた。
先頭にいた男が一歩前へ出る。
三十を少し越えた頃か、鋭い目つきの武士であった。
「そなたら、どこの隊だ」
静かな声で言った。
永重は馬上で軽く頭を下げる。
「藤懸三河守永勝が隊に属する者にございます」
その男の眉がわずかに動いた。
「そなた、名は」
「藤懸三河守永勝が嫡男、永重と申します」
「……ほう。そなたが永重殿か」
「いかにも」
「拙者は竹中重利と申す」
その名を聞いた瞬間、永重の家臣たちがわずかにざわめいた。
重兼と伊織が互いに顔を見合わせる。
月心は顔を伏せ気味ではあったが、神経をわずかに尖らせた。
永重は静かに頷いた。
「軍目付の重利殿にございますな」
重利は軽く笑った。
「聞いておる。
丹波で少々名を上げている若武者が居るとな」
そして永重の顔をじっと見た。
「重門と元服を同じくしたとか」
「は」
「重門は甥だ」
一瞬の沈黙。
「そうでございましたか」
「昔、あやつから聞いたことがある。
永重という面白い男がいる、とな」
「過分にございます」
「そして――」
重利はかぶせるように言って続けた。
「油断ならぬ、とな」
永重は黙したまま重利から目を離さない。
重利は馬を少し寄せた。
「戦はこれからだ。
名を上げるも落とすもこの先次第だ」
そして軽く顎を上げる。
「せいぜい、期待を裏切らぬことだ」
それだけ言うと、重利の一団はそのまま丘を越えて去って行った。
土煙だけが残る。
しばし沈黙。
最初に口を開いたのは重兼だった。
「……若殿」
「うむ」
「今のが竹中半兵衛殿の縁者ですか」
「そういうことになるな」
伊織が小さく笑う。
「なんとも……」
「何だ」
「ただの遠駆けが、軍目付との顔合わせになるとは」
永重は少し空を見上げた。
名護屋の方角には白く巨大な天守が霞んで見える。
「どうやらこの戦、退屈はさせてくれぬらしい。」
永重は手綱を引いた。
「戻るぞ」
「はっ」
一行は再び馬を走らせた。
――その翌日。
陣触れが再び出され、ついに下知がくだされた。
九番隊、壱岐勝本城へ移動。
出立は三日後。
名護屋の海には、渡海のための軍船が無数に並び始めていた。




