13-3 石垣山城【大詰】
翌日――
太閤秀吉からの御使は、書を携えて如水のもとにやって来た。
秀吉自身も石垣山城内へ居るが、諸大名への対応を主としており、如水でさえ面前で会えるのは稀であった。
御使は如水の前に来ると
「如水殿へ、直々の御意にございます」
そう言って書状を差し出した。
巻かれた書状は短い。
如水は一礼しその書状を受け取ったのち開くと、黙して読み始めた。
その場には、永重と永勝、長政、加えて新たに陣営に入った滝川下総守雄利が控えていた。
如水は黙したまますぐに読み終えた。
「……お怒りにございますか」
永勝が問うた。
「いや」
如水は薄く笑う。
「焦れておられる」
言い終えるや、如水はその書を四人に渡した。
そこに書いてあったのは、
『――小田原、早々に決せよ。
――関東の形、定めよ。
――天下の威、示せ。』
のみであった。
皆に見せたのち、如水は書状を畳んだ。
「殿下は、見せねばならぬのだ」
「何を」
「逆らえば、どうなるかを」
静かな声。
「氏政の腹で足りねば、城を割る」
永重の喉が鳴る。
「……総攻めに?」
「それは愚策」
即答。
「血が流れすぎれば、関東は痩せる。
殿下は地を欲しておられる」
如水は立ち上がる。
「ゆえに、見せしめは一点でよい」
「……氏政殿」
長政が呟く。
「うむ」
そして続ける。
「加えて、氏直を殿下の前へ出す」
「出頭を?」
「生かすためだ」
如水の目は冷えている。
「若き当主が自ら膝を折る。
それは北条の終わりであり、豊臣の始まりとなる」
一拍おき
「殿下は怒りを好まぬ。
恐れを好む」
永重は小さく息を呑む。
「恐れは長く続く。
怒りは、やがて忘れられる」
そう言うと、如水は筆を取り返書を書いた。
『――小田原、ひと月内に決す。
――北条家、名を残す。
――関東、荒らさず。』
墨が乾く前に封じ、使者を呼び戻すと
「殿下へ申し上げよ」
と書を手渡した。
「天下の形は、刃で削るものではない」
如水は永重らを見渡して続けた。
「削りすぎれば、砕ける」
永重が窓へ目をやると、遠く、小田原の城が見えた。
その奥で、北条氏政はまだ決断をしていない。
そして北条氏直もまた、若き肩に重さを知らぬまま立っている。
如水は静かに言った。
「明日、使者を出す。
降伏の道を、具体に示す」
永勝が問う。
「もし、拒めば」
如水の答えは簡潔だった。
「城を割る」
それは脅しではない。計算であった。
「だが割れる前に、心が割れる」
風が止む。
太閤の命は重い。
だがその重みを、どう落とすか。
如水はすでに定めていた。
――氏政を切らせる。
――氏直を生かす。
――北条を“ただの家”に戻す。
戦を終わらせるために、象徴を斬る。
翌日、如水は永重ではなく滝川下総守雄利を伴い、小田原城へ入った。




