7-2 京
京の旅籠で話し終わった五人は、明日の出立に対し各々で準備をしていた。
重兼は荷を運んだ人足への差配と段取り。
月心は馴染みの店に足を運び様々な情報の収集や、そのための種まきを。
永重は父・永勝にどう報告すべきかを思案していた。
そんな中――
半佐と夕霧の二人の姿は、京の街角にある小さな団子屋の軒先に在った。
夕暮れのやわらかい光が差し込み、甘い醤油の香りが漂う。
湯気の立つ焼き団子が二串、二人の前に置かれている。
「……冷めるよ」
半佐がぶっきらぼうに言って、目の前の串を差し出した。
夕霧は一瞬だけそちらを見て、ふん、と鼻を鳴らした。
そう言いながらも、団子にすぐ手を伸ばすあたりが可愛らしい。
半佐はそれを横目で見て、口元を緩めそうになるのを必死に堪えた。
夕霧は団子を一口かじり、もぐもぐと咀嚼しながら目を伏せた。
焦げ目のついた餅に絡む甘辛い醤油が、舌に広がる。
「……相変わらず、京の団子は味が濃い」
「文句言いながら、二口目が早い」
半佐がぼそりと言うと、夕霧はぴたりと動きを止め、ちらりと横目を投げた。
「食べるのと、評価は別です」
夕霧はすっと背筋を伸ばし、どこか真面目ぶった口調で言った。
その目は団子にかぶりつくたびに、目元は小さく潤んでいる。
半佐はそれを見逃さず、心の中でくすぐられるように笑った。
「なぁ夕霧。永重様のことはどう思ってる?」
「どう……とは?」
夕霧は手を止め、半佐を見つめる。
「永重様は……俺の命の恩人だ。
でも、どんなに大人ぶってはいても、まだわずか十三だ」
半佐は湯呑を手に取り、静かに一口啜る。
「……お支えしたい。
夕霧、そなたも同じように永重様を支えてくれないか」
夕霧はふっと笑みを浮かべて
「……私は永重様に雇われてるのよ?
半佐様に言われるまでも無く、そうするつもりよ」
「半佐でいい。俺は元々百姓だから」
夕霧は片眉を上げ、半佐を見つめる。
半佐は少し頭を伏せて告白した。
「俺は三年前、永重様を襲った。賊だ。
そんな俺を永重様は許し、側に付けて平松の姓まで与えてくれた」
夕霧の目が見開かれる。
「……よく斬られなかったわね」
「だろう?けど、甘いだけの御方じゃない。
俺に武芸も文字も教えてくれた。
親も居なかった俺に――文字通り命の恩人なんだ」
夕霧は半佐を言葉なく見つめる。
「恩を感じてるだけじゃない。
そんな永重様が、俺は好きだ。たぶん頼明様も同じだと思う」
半佐は顔を上げると夕霧の目をまっすぐに見つめて
「だから……一緒にお支えしてほしい」
夕霧は少し顔を赤らめて
「わ、わかってるわよ。
この数日ご一緒してみて、そのお人柄が少しだけど分かった気はしてる」
残った団子の串を手に取り口に運んだ。
半佐はそんな夕霧を見て
「……良かった。よろしく頼む」
そう言って頭を下げた。
やがて、夕暮れは深い朱色に染まり、京の街に夜の帳が降りる。
二人は肩を並べ、団子屋を後にした。
二人は揃って確かな足取りで歩み出していた。




