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【御礼10,000PV到達】戸侯記  作者: 和音


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6-3 丹波亀山


その日の丹波亀山は、朝からしとしとと雨が降っていた。


城の石垣に当たる雨音が、静かに、しかし規則正しく鳴り響く――

そんな中で、松丸の元服の儀が丹波亀山城で執り行われることになっていた。



元服を迎えることを知らされたのはわずか三日前のことだった。


しかし松丸の心は既に落ち着いており、来るべき儀式を受け入れる覚悟ができていた。

背筋を伸ばし目線をしっかりと前に向ける自分を、自分自身で確認することさえできる。


ただ、ひとつだけ気になることがあった。


――烏帽子親は、誰なのだろう。


父・永勝に尋ねても、巧みにかわされ、なぜか教えてはもらえなかった。

松丸の胸の奥には、少しだけ、そわそわとした心がくすぶっていた。



そんな松丸を置いて、目に見えてそわそわして落ち着きを失っているのは半佐であった。


松丸の元服の儀を前にして、前日からずっとそわそわしている。

葛籠から取り出した道具を何度も手に取り、確認を重ねる手は止まらない。


さすがに目に余り、

「落ち着け」

「もう、十分だろう?」

そう声をかけるものの……


半佐は目を真ん丸にして、息を弾ませながら答える。

「だめです! こういうのは、念には念を――」

そしてまた葛籠を開けている。


こりゃだめだ…と小さく笑い松丸は諦めていた。




昨夜、永勝より半佐に授けられる名字を二人は聞いていた。


平松――平松半佐。


今日からそう名乗るよう、永勝は言った。

さらに、昨夜永勝はこの名付けについての経緯を教えてくれた。



半佐に名字を授ける――


永勝はこのことを今年の春頃から考えており、ある人物に相談していた。

その人物とは、称名寺住職の性慶であった。


性慶は、かつて褒美としていくつかの屋敷と領地を得ていた。

また、秀吉の信頼も厚く、のちに湖北八万石の代官にも任ぜられていた。


半佐が松丸の側付きになったことをよく知る性慶に、永勝は半佐の名字拝領について文のやり取りで相談していた。

そして性慶が伝えてきたのが『平松』であった。




しかし今の半佐は、自分のことよりも松丸のことが頭でいっぱいのようであった。

松丸はおかしくも、それと同じくらい半佐に対する信頼を増していた。



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松丸とその家族、平松半佐は丹波亀山城へ登城した。


門前で登城の旨を知らせると、

「この度はまことにおめでとうございます」

と笑顔で通された。


そして、元服の儀を執り行う部屋に案内され入り口に立ったところで、松丸と年はそう変わらないと思われる若者一人と、杖を横に置いて床几に腰掛けたやや年嵩の武将が目に入った。


松丸は何とも言い表せない厳粛な雰囲気に一瞬足が竦んだ。


永勝はそんな松丸と目が合うと、微笑を浮かべ頷いた。

松丸は気を取り直して背を伸ばすと、一礼し部屋に入った。


すると、杖を手に持ち、やや年嵩の武将が床几から立ち上がった。


背丈はそれほど高くはない。

ただ、その身に纏う雰囲気は言葉では言い表せない威厳に満ちており、見る者を圧倒するものがあった。


その武将は、立ち上がり松丸を見ると、憮然たした表情をしたまま杖を慣れた手つきであやつりながら目線を外すことなくこちらに向かってきた。


松丸の前に着くと、わずかに表情をほころばせながら口を開いた――



「お初にお目にかかる。

本日そなたの烏帽子親を務めさせて頂く――」



少し間を置き、その武将は言った。


「黒田孝高と申す」






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