6-1 丹波亀山
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丹波亀山城――
南丹、すなわち丹波国南部の亀山に築かれたこの城は、三重の天守を戴き城下町を丸ごと囲い込む総構えの堅城であった。
くしくも、ここは明智日向守光秀が丹波を統べる拠点としていた城である。
山崎の戦いにおいて羽柴軍が明智軍を破り、清須会議を経て羽柴秀吉が実権を握ると、京都にも近い要地である丹波国は秀吉に与えられた。
その丹波亀山城主となったのが羽柴秀勝である。
天正十二年(1584年)、小牧・長久手の戦いに近江草津に陣を布き参戦した秀勝は、陣中で体調を崩し美濃にある大垣城で養生していた。
翌、天正十三年(1585年)の初夏の頃には体調を戻し、正三位・権中納言に任ぜられた秀勝は、丹波亀山城へ帰参するも、再び体調を崩し病の床にあった。
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天正十三年(1585年)葉月(8月)――
天を焦がすかのような盛夏の中天の日差しが、山裾に広がる小さな城下を容赦なく照らしつけている。
土塁は乾ききって白くひび割れ、踏み固められた道を歩くたびに細かな砂埃が舞い上がった。
風はなく、ただ熱だけが重く垂れこめている。
「……暑すぎるな」
「ここは盆地ですゆえ…熱がこもります。風も吹かず雲もありませんし……」
「そういえばしばらく雨降ってないな。雨乞いでもすりゃいいのに……」
「でもこの暑い中、雨乞いの祝詞を長々と聞くのも……」
「……嫌だな……」
寺への遣いの帰り道、暑さに辟易しため息まじりに――少々不謹慎な会話を交わしているのは、
松丸と半佐である。
それぞれ、十三と十八になっていた。
家に着くと、松丸は土間に上がり板縁に腰を下ろした。
すぐに半佐が、水を張った桶を抱えてくる。
沓脱ぎ石の上で草履を脱ぎ、そのまま桶へと足を突っ込む。
「――気持ちいいな……。半佐、そなたも桶を持ってきてやってみよ」
笑みを浮かべ、ため息交じりに言う。
「そのような不作法は出来ませぬ」
微笑みながら、足を拭く布を差し出す半佐。
松丸は苦笑いを返す。
「――さて、始めるか」
足を拭き、家の奥へと上がる松丸。
部屋に入るとそこには文机が並んでいた。
「半佐、次郎丸と志野を呼んでくれ」
そう言うと、墨を水で擦りはじめた。
松丸が墨を摺る音が、静かな部屋に小さく響く。
半佐が次郎丸と志野を連れて入ると、三人はそれぞれ文机に向かった。
「兄様、おかえりなさい」
志野が微笑んで言った。
「よろしくお願いいたします!」
次郎丸が声を張り上げる。
半佐は静かに座り、松丸を見て少し頭を下げた。
三人も同じように、墨を水で摺りはじめた。
松丸は、ゆっくりと筆を運び墨の香りを深く吸い込んだ。
紙の上に文字が滑らかに浮かぶたび、心が少し落ち着いていくのを感じる。
外の猛暑とは裏腹に、部屋の中には穏やかな静けさが広がっていた。
「……志野、次郎丸、筆の運びをもう少し丁寧に」
松丸の声は穏やかだが、注意の厳しさが含まれている。
志野は眉をひそめつつも、慎重に筆を滑らせる。
次郎丸は勢いに任せた線を何度も訂正しながら、必死に松丸の指示に従った。
三人は、松丸の書いた文字を見本に書いていた。
半佐は少し離れた位置で、二人の様子を静かに見守りながら同じように書いていた。
その文体は見事であった。
外では、城下町の喧騒が遠くに漂ってくる。
松丸はふと窓の外に目をやり、陽炎に揺れる山並みを眺めた。
その時、半佐が土間の方を見て小さく手を挙げた。
「松丸様、殿がお戻りでございます」
松丸が土間の方を見ると、父である永勝がこちらを背に板縁に腰を下ろし、女中から足拭きの布を受け取っていた。
「お帰りなさいませ」
松丸は永勝の側まで進み、跪いて挨拶した。
後ろには筆を置いた次郎丸と志野が続き、少し離れて半佐が頭を下げ控えていた。
「うん……今日も暑いな」
そう言うと永勝は手拭いで汗を拭きながら板の間へ上がってきた。
「お早いお帰りですね」
松丸が言うと、永勝は表情を締めて、
「うむ……松丸、そなたに話があり戻った。
次郎丸と志野もこちらへ。
半佐、華らも呼んでくれ」
そう言うと、永勝は腰の刀を外しながら隣にある広間へと歩いて行った。
確認が甘く、ひどい間違い多数でした。スミマセン(汗




