5-4 長浜城~藤懸家邸
章立てしていませんが、第一章完です。
夕餉の支度が整った広間には、久しぶりに藤懸家の面々が揃っていた。
座卓を囲むのは、当主・永勝とその妻・華。
そして、長男の松丸、次男の次郎丸、三男の三郎太。
長女の志野に、まだ小さな足でよちよち歩く次女のお珠。
久しぶりの家族の揃い踏みに、空気は柔らかく温かい。
そして卓の隅には、松丸の側付きである半佐も座していた。
事通なら、主人の家族に同席することなどありえない身分である。
しかし、永勝自身が顔見せも兼ねて半佐に座を許したのだった。
半佐は、少し緊張した面持ちで膳を前に座る。
その視線は、家族の誰一人に疎外されている様子はなく、むしろ家族の輪の中で慎ましくも確かな居場所を見つけているかのようだった。
広間には、箸の音や茶碗の触れ合う音、時折子どもたちの笑い声が小さく混ざる。
この一ヶ月で、日ノ本の国の行く末が劇的に変動したが、ここだけは平和で温かい日常があった。
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夕餉が終わり、華が女中と片付けをしている中、永勝は縁側で月を見ながら一献を傾けていた。
わずかに微笑みながら、松丸と半佐を呼び寄せる。
永勝の手で注がれた濁酒が椀に揺れる。
「松丸、半佐。改めて此度はよう働いた」
そう告げると、彼は一気に酒を飲み干す。
月明かりが頬を柔らかく照らし、優しい表情が陰影となって浮かぶ。
少し間を置き、永勝は静かに言葉を続けた。
「半佐が賊であったことは決して口にするな」
松丸と半佐は背筋を正し、目を伏せる。
「…よいな?」
永勝の声は穏やかだが、確かな重みを帯びている。
「華にいらぬ心配をかけたくはない」
二人が頭を下げると、永勝は笑いながらも再び酒を注ぐ。
「これ…そんな態度を華が見ると余計に気にする。やめよ」
やがて、表情を引き締めて半佐を見つめる。
「そなたのような若者が、賊の真似をせねばならぬ。そんな世にしてはならん」
ため息をひとつ、月の光に混じる影の中で静かに呟く。
「話の仔細は兵庫助より聞いた…よく松丸らを助けてくれた。
そして…辛かったな…」
再び優しい表情をした永勝が半佐を見て言った。
半佐は無言で深く頭を下げる。
「だからやめよと言うに。
…松丸のこと、しっかりと支えてやってくれ」
「ははっ」
半佐が頭を上げると、永勝は松丸を見据えて微笑を交えて言う。
「松丸、そなたは嫡男じゃ。
いずれ半佐はそなたを支える臣の一人になるやもしれぬ。
自ら責任を持って面倒をみるのだぞ」
間を置き
「弟、妹たちも、な」
笑みを浮かべてそう言うと永勝は月明かりを見上げながら、二人に聞こえるようにつぶやいた。
「これから世がどうなるか………」




