4-6 行徳寺
「そなた、半佐のことはどう思っている?」
兵庫助は、温和な声音で松丸に問うた。
「…不幸な身の上と、感じております」
松丸は言葉を選び、恐る恐る答える。
兵庫助はフッと鼻で笑い、
「そう構えるな。
…確かに半佐の身の上は、同情するに余りある」
そう言うと兵庫助は少し表情を引き締めて続けて言った。
「そうではなく、半佐自身の事を松丸はどう思っている?」
問いの意味が掴めず、松丸は怪訝な表情を浮かべる。
「――そなた、半佐をこのまま側に置く気はあるか?」
その言葉で、松丸は問いの真意を理解した。
「――私は…某は、半佐を側に置きたく思います」
松丸は兵庫助の目を見据え、続ける。
「同情からではありませぬ。
美濃よりここに至るまで、また行徳寺に着いてからも半佐は某を助け、よく働いてくれまする」
そして、一息置いて、
「半佐は……ここを出たのち、行く先がありませぬ。
某は家に戻ったのち、扶持を与えてでも、側に置きたく思います」
松丸は、一息にそう言い切った。
兵庫助はさらに表情を引き締め、静かに言った。
「半佐に、そなたと長松が武芸やら読み書きを教えていたのは知っておる。
側に置く、というからには、何があろうともそなたが責任を持たねばならん。
たとえ、十の童であっても、だ」
そう言うと、松丸は両手を揃えて
「心得てございます」
深く頭を下げた。
「…あいわかった。
そなたがそこまで覚悟したうえで側に置くというなら、異存はない」
そう言うと立ち上がり、兵庫助は付け加えた。
「そなたが側に置かぬ、と言えば儂が引き取ろうと思っておった」
驚いて顔を上げると、兵庫助はわずかに表情を緩めていた。
「しっかり面倒を見てやれ」
そう言い残し、兵庫助は本堂の外に向けて歩き出した。
松丸は、深く頭を下げてその背を見送った。
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本堂の外では、足軽たちに明日長浜に向けて出立する旨が伝えられていた。
皆、表情は明るい。
外に出た兵庫助は、足軽一人ひとりに声をかけて回っている。
遅れて出てきた松丸を半佐が見つけると、静かに近寄ってきた。
喧噪の中で、松丸は言った。
「半佐。聞いての通り、明日ここを発つ」
半佐は、ただ静かにうなずく。
続けて、
「…そなたは、藤懸家にて雇い入れる」
半佐は驚いたまま松丸を見つめ、やがてその目に涙が浮かんだ。
「某の側で、仕えよ」
「はっ」
短いやり取りののち、半佐は深く、深く頭を下げた。
木々の影が写る地面に、ぽたりと涙の痕が落ちた。




