妖精さんと、はんたー
「多分、はんたーっての、もうすぐ見えてくると思うから、なるべく声出さないようにね」
とても高い所にいるので、下から見上げても、ころんを見ることはできないはずですが、声を出すと聞こえてしまうかもしれません。
ハンターが去るのを待とうと、えっぐはころんに優しく伝えると、ころんも大きく頷いて、そっと口に手を当てます。
「コーロコーロ、コロポックルちゃぁああぁん♪ ハンターのジマッカさんが来ましたよぉおぉ」
四つん這いでガサガサ草を掻き分けながら、ハンターと名乗った男が、蠢くように這い回っています。
うふは体をヒョイっと出して、ハンターを上から見ています。
「なんか、気持ち悪い動きしてるねー」
えっぐも覗き込んで、カサカサ動くハンターを見て、身震いします。
「口調も、笑い方も、こわいなぁ」
ありていに言えば『キモい』言動のハンター。
ころんを捕まえるための、少し大きめの虫かごや、虫取りアミのようなものを手に持ちながら、気持ち悪い笑いと動きで、草むらに隠れている気がするころんを、這って探しています。
「あ、危ないって」
ころんは小声で、身を乗り出しているうふとえっぐに伝えて、小さな体でふたりを引っ張ります。
「多分、えっぐとうふのこと、はんたーには見えてないと思うんだ」
えっぐはころんに伝えると、ころんは首を傾げます。
「えっぐたちね、悪い人たちには見えないんだよ。だから、ころんいい子」
「いい子のころんが困っているから、うふたち助けたいのー。お手伝い妖精だから!」
ころんは住んでいたところを、ハンターに壊されて、仲間は連れ去られたり、なんとか逃げることができたほかの仲間は散り散りになりました。
ひとりぼっちで逃げていたこと、あのハンターだけが、何故か自分をしつこく狙ってくること、お腹も空いて、怖くて、どうしようもなくて、心が折れそうになっていたことを、うふとえっぐに話した。
「そっか。ころん、よくがんばりました」
うふはころんを抱っこして、優しく抱きしめました。
つらかったこと、大変だったことを聞いてもらえて、温かく抱きしめてもらったころん。
大粒の涙がポロポロ出てきてしまいます。
「……うっ、ぐすっ……」
しばらく泣き続けたころんですが、ひとしきり泣くと、ぐしぐしと涙を拭いて、どうしたらハンターから逃げて、平和に暮らせるかわからなくて、うーんと考え始めます。
「コロポックルの村を作ればいいんじゃない?」
えっぐがぽつりと言いますが、今までいたところは、ハンターに壊されてしまいました。
また、集落を作ろうとも、ハンターに見つかればひとたまりもありません。
「うーん、安全なところ……安全なところ……」
うふは思い浮かべようとします。
しかし、今いる場所が、どこなのかもわかっていません。
えっぐはハッと何かが浮かんだので、口を開きました。
「うふ、ころんが住めそうな場所、視てみよう」
「あ、そうだね!」
ころんは、うふの腕の中で首を傾げます。
それを見たえっぐは、ころんに教えてあげました。
「あのね、えっぐたちは、物の気持ちを見る事が出来るんだ。だから、ころんが安心して住める場所からは、気持ちが出ていて、ころんに向いているはずなの」
「もののきもち??」
言葉ひとつひとつはわかるけれど、全部が合わさると何を言っているのか、いまいちピンとこなくなり、ころんはあたまにハテナをたくさん浮かべています。
「えーとね……」
えっぐは近くにあった木の葉っぱをひとつ、木からもらいました。
「えっぐは、この葉っぱをころんにあげたい。って思った時に、この葉っぱには『気持ち』が入るんだ。その届けたいって思いの印が、えっぐやうふには見えるんだ」
なんとなく想像できたころんは、こくこくと頷きます。
いま、葉っぱからは気持ちの線みたいなのが、ころんに向かって出ている、と教えてもらいました。
線はころんには見えないけれど、えっぐやうふは、いたずらでそういう事を言うコたちではなさそうなので、ころんはその言葉を信じることにしました。
「こんなかんじで、ころんに住んでもらいたいって思っている場所からのきもちを、えっぐたちが見て、みつけようって思ったの」
「このあたりから、その気持ちって出ているの?」
ころんの言葉に、うふはフルフルと左右に体を振った。
抱っこされているころんも、左右に揺れる。
「探しにいこー」
「おー!」
うふのコールに、みじかい手を伸ばして返事をするえっぐ。
うふとえっぐはじーっところんを見て、返事を待ちます。
「お、おー?」
みんなでにっこり笑いました。
ころんの新しいおうちを探す旅の始まりです。
森を出て、川を越えて、時に野宿をしたり、妖精が見える人間さんのお手伝いをして、ご飯と寝るところを用意してもらったり。
「いろんなところに行ってみたけど、なかなか無いね」
えっぐはあたりを見るも、自然豊かな森ながら、ころんへの気持ちが向いていないようです。
みんなで木の枝に腰かけて、一息ついて木の実をほおばりおやつタイム。
「ううっ……世界はころんに住むなって言ってるのかな……」
物の気持ちが向いていないのは、コロンには見えてないけれど、悲しい気分になります。
うふはちょっとだけ前かがみになり、とあるところを見ます。
「違うと思うー。気持ちが出てきてないのって、たぶんあいつのせい」
ヒョロンとした腕を伸ばして示す方向には、ハンターが四つん這いで草木をかき分けて、カサカサ這って進んでいる。
「こーろーぽっくりゅーーん、どーこでーすかー? お元気ですかー?」
ころんを捕まえたくて仕方ない、ハンターのジマッカ。
気持ち悪いほど勘がいいようで、行く先に現れる事が多く、もうすでに見かけても驚かなくなりました。
どれだけ山を越えても、川を渡っても、一旦戻ってみても、何故かいる事が多いのです。
どうしたらいいだろうかと、うふは目をつむって考えます。