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第2ラウンド:ルシファーの主張への反論

そのとき、天井に広がる光の帯が揺らぎ、空間に一筋の輝く道が開かれた。その中心から、黄金の鎧をまとった一人の戦士が現れる。彼の背後には、壮大な天の軍勢が見え隠れし、手には燦然と輝く炎の剣が握られていた。


天使長ミカエル。


かつてルシファーの反乱を鎮めた天の軍団の総司令官であり、善と悪の戦いの最前線に立つ存在。彼は静かに足を踏み出し、円卓の前に立つと、鋭い眼差しを哲学者たちへと向けた。


「私は天の意思を預かる者として、この議論に加わろう。ルシファーの言葉は、神の秩序を覆そうとした時から変わらぬものだ。彼は自らを神としようとし、自由を求めた。しかし、その自由は真実の自由ではなかった。」


ミカエルの声が空間に響くと、図書館の壁にまた光の幻影が映し出される。そこには、ルシファーの堕天の瞬間が描かれていた。



光から闇への堕落――ルシファーの言葉


映像には、まばゆいばかりの天界の宮殿が映し出されていた。そこに立つのは、かつて最も美しき天使であったルシファー。その黄金の翼は輝き、その目は神の光を反射していた。しかし、彼の表情には不満と反抗の色が浮かんでいる。


「なぜ、我々は神の命に従わなければならないのか? なぜ、唯一の善が神の秩序であるとされるのか? 私には、私の自由がある。私は、神の法に縛られない。私は光そのものになれる!」


彼の言葉とともに、空が暗転し、天使の軍勢が彼を取り囲む。ミカエルはその中心に立ち、ルシファーに対峙した。


「お前の求める自由は、真の自由ではない。お前の言う自由とは、自らの欲望に従うこと。だが、それは神の愛から離れた瞬間、単なる傲慢と化す。」


ルシファーは微笑むが、その笑みの裏には怒りと絶望が滲んでいた。


「善も悪も、視点によって変わるものだ。神は善と定義するが、私には私の善がある。もし、善が絶対ならば、なぜ神は我々に自由を与えた? それは選択を可能にするためだろう?」



カントの反論:「自由とは道徳法則に従うこと」


映像が消えると、再び図書館の静寂が戻った。しかし、その場の空気は確かに変わっていた。カントは冷静に口を開いた。


「ルシファーの誤りは明白だ。彼は、自由を誤解している。自由とは、自らの欲望に従うことではなく、道徳法則に従うことだ。」


彼は円卓を軽く指で叩きながら続ける。


「もし彼の言うように、善と悪が視点によって変わるのならば、道徳とは無意味になる。人がその時々の感情で善を決めるのならば、それは単なる本能的衝動に過ぎず、理性に基づいた道徳法則とは呼べない。

「私は『定言命法』に従うべきだと考える。それは、個人の欲望や主観に左右されず、常に普遍的に適用可能な道徳原則である。ルシファーの誤りは、自由と放縦を混同していることだ。」



ソクラテスの反論:「知らない者は自由ではない」


ソクラテスは腕を組み、考え込むように顎を撫でながら言った。


「なるほど、ルシファーは『自由』を求めたと言ったが、それは本当に自由なのだろうか?」


彼はミカエルに視線を向ける。


「ミカエルよ、もしルシファーが神の善を完全に理解していたならば、彼はそれを捨てたかね?」


ミカエルは首を横に振った。


「いいや。彼は、神の光を知っていながら、それを誤解した。彼は、神の愛をただの束縛と捉えたのだ。」


ソクラテスは満足げに頷いた。


「ならば、やはりルシファーは無知だったということになる。彼は本当に善を理解していたわけではなく、誤解の中で行動した。知がない者は自由ではない。

無知ゆえに誤った選択をする者は、本当に自由な存在と言えるのだろうか? それは、目隠しをしたまま道を歩く者と同じではないか?」



アウグスティヌスの反論:「悪とは善の欠如である」


アウグスティヌスは静かに両手を組み、深い声で語り始めた。


「ルシファーの言葉は、神の愛を拒絶した者の詭弁だ。彼は『善と悪が視点によって変わる』と言ったが、それは悪を認識していないからこそ言えることだ。」


彼は天井を仰ぎ、目を閉じる。


「悪は善の欠如である。善がないところに悪が生じる。ルシファーの選択は、光を否定し、影の中に自らを置くことだった。しかし、それは新たな光を生み出すものではない。ただ、善がないという状態を作り出しただけだ。」


彼は目を開き、ルシファーの残した言葉を否定するかのように、力強く言った。


「影を見て、それを新たな光と勘違いすることこそが、最大の誤りなのだ。」



司会者・あすかのまとめ


あすか:「皆さんの議論をまとめると、こうなります。

カントさんは自由とは、欲望に従うことではなく、普遍的な道徳法則に従うこと。

ソクラテスさん無知な者は自由ではない。ルシファーは善を知らなかったからこそ、誤った選択をした。

アウグスティヌスさんは悪とは善の欠如であり、ルシファーの反乱は、光を否定したことに過ぎない。」


あすかはミカエルに向かって尋ねた。


「ミカエルさん、最後に一言お願いします。」


「悪は視点の問題ではない。悪とは、神の愛を拒絶した者が作り出す、歪んだ影にすぎない。」


「ありがとうございます。闇に堕ちた方々への反論を通じて、『悪とは何か』見えてきたと思います。

今からは光の側の皆さんによる『悪のは何か』をまとめていきましょう」

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― 新着の感想 ―
カントもソクラテスもキレッキレですね! 私も二人についてもっとお勉強しないと。 神の愛を「拒絶した」者。 ここが本当に、卓見だなーって思います。 自由だからこそありえる選択肢ですよね。 そして自…
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