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プロローグ:光と闇の間で

今回の舞台は天界の広大な図書館。

中央にある、まるで星々を映し出すかのように輝く大理石の円卓。周囲には数えきれないほどの書物が収められた巨大な書架が立ち並び、天井にはゆっくりと流れる光の帯が漂っていた。ここは知の殿堂――偉人たちが対話を交わし、真理を探求するための特別な場所だった。


司会者であるあすかは、円卓の中央に立ち、集まった三人の哲学者を見回した。彼女の前には、時代も地域も異なる三人の偉人、イマヌエル・カント、ソクラテス、そしてアウグスティヌスがそれぞれの椅子に腰掛けていた。彼らの表情には、それぞれの思想を背負う者としての鋭い思索の色が浮かんでいる。


カントは背筋をぴんと伸ばし、理性的な眼差しを持って静かに座っていた。その顔には揺るぎない確信が宿っている。彼は普遍的な道徳律を信じており、今日の議論でもその信念を曲げるつもりはないだろう。


一方、ソクラテスは軽く微笑みながら、手にした杯をくるくると回していた。その穏やかな仕草とは裏腹に、彼の目には鋭い光が宿っている。彼の哲学の基本は問いを立て、考え抜くこと。今日の議論でも、彼は鋭い問いを投げかけるだろう。


そして、聖職者であるアウグスティヌス。彼は落ち着いた表情を浮かべながらも、その眼差しは厳粛だった。彼の考えでは、悪とは善の欠如であり、神の意志を離れたところにあるもの。視点の問題などではなく、より根源的な概念だった。


あすかは一つ息を整えると、彼らに向かって口を開いた。


「歴史バトルロワイヤルにようこそ。本日はこの場にお集まりいただきありがとうございます」


彼女は周囲の書架を指し示しながら、話を続ける。


「私たちは、今日ここで『悪とは何か』というテーマを改めて考えます。そのきっかけとなったのは、最近あの世で行われたアドルフ・ヒトラー、アル・カポネ、ジョーカー、そしてルシファーの対談でした。彼らの議論の末に出た結論は、こうです。」


彼女は一枚の巻物を開き、その言葉を読み上げた。


「『悪とは、秩序と反逆の間に存在し、視点によってその意味を変えるものだ』」


その言葉が場に響くと、一瞬の沈黙が訪れた。カントは軽く眉をひそめ、ソクラテスは考え込むように顎を撫でた。アウグスティヌスは、天を仰ぐように目を閉じた。


「彼らの議論では、悪は絶対的なものではなく、状況や立場によって異なるものであると結論づけられました。しかし、本当にそうなのでしょうか? それとも、悪には普遍的な定義があるのでしょうか?」


彼女は一歩踏み出し、三人を見つめた。


「本日は、哲学・神学の世界で偉大な業績を残した皆様に、それぞれの視点からこの結論に反論していただきます。」



対談者の紹介


あすかは右手側に座る男性を指し示した。


「まずは、ドイツの哲学者イマヌエル・カント。彼は『定言命法』を提唱し、人間が理性をもって普遍的な道徳律を定めるべきだと考えました。彼の哲学では、善と悪は相対的なものではなく、理性によって普遍的に確立されるべきものです。」


カントは小さく頷き、静かに口を開いた。


「彼らの議論には、道徳的基盤が欠けている。『視点によって善悪が変わる』などという考えがまかり通るならば、我々はもはや倫理を語ることすらできなくなる。道徳法則とは、人類共通のものとして確立されねばならないのだ。」


あすかはカントに同意するようにうなづき、真ん中の男性を指し示す。


「次に、古代ギリシャの哲学者、ソクラテス。彼は『無知の知』を説き、対話を通じて真理に到達することを重視しました。彼にとって悪とは、知識の欠如によって生じるものだったのです。」


ソクラテスはにやりと笑い、皮肉っぽく言った。


「なるほど。つまり、彼らは悪について考えたつもりでいたが、結局のところ、何も知らぬまま勝手な結論を出したというわけか。悪が視点の問題だというなら、そもそも彼らは悪を理解しているのだろうか?」


あすかはソクラテスの問いに答えるかのように頭をかしげ、最後に左側の段差を指し示した。


「そして、キリスト教神学における重要な思想家、アウグスティヌス。彼は『悪とは善の欠如である』という独自の神学的視点を持ち、キリスト教神学の礎を築きました。」


アウグスティヌスは静かに目を開き、厳かに語った。


「ヒトラーやカポネ、ジョーカーが語る悪は、まさに神の秩序を無視した混沌の言葉だ。善とは神の意志であり、悪はその欠如にほかならない。彼らの主張は、まるでルシファーの言い訳のように聞こえる。」


あすかはアウグスティヌスの力強い言葉に笑顔で答え、円卓中央に視線を移す。


「では、これから皆さんにじっくりと議論していただきましょう。改めて、『悪とは何か』を再び問い直します。」


議論の火蓋が切って落とされた。

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― 新着の感想 ―
例によって例による、といった感じですけど 私の意見は完全にアウグスティヌス寄りです。 ここにクザーヌスさんもお招きしたいですね。 ソクラテスとの対話がスリリングになりそう。
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