#1 倉庫で発見した宝
ここが魔法塔と呼ばれる場所らしい。
俺がいるのは、アスタリアン王国の辺境にある魔法塔の一つだと聞いた。
そして今、俺の魔法の才能が評価されている最中だった。
「さあ、マナを指先に集中させて、簡単な火花を灯してみてください。」
指先が震えた。
俺はごくりと唾を飲み込み、手を伸ばした。
『これ、本当にできるのか? マジで?』
ゲームで何千回、いや何万回と押してきたスキルボタン。
でも現実では?
指先から炎が出るなんて、ヤバすぎだろ。
深呼吸をした。
体のどこかで、かすかにうごめく感覚があった。
『これが…マナか?』
よくわからないけど、とりあえず指先に集めてみた。
そして—
ポンッ!
かすかな火花が灯った。
『おぉ…?』
俺は目を大きく見開いた。
指先に、小さな火花が揺れていた。
暖かい。けど、熱くはない。
『おいおい、これマジか?』
拳を握ったり開いたりすると、火花もそれに合わせて揺れた。
まるで俺の意志で動く小さな生き物みたいだった。
ヤバい。すごすぎる。
俺が…魔法を使ったんだと?
「いや、俺もついにファンタジー世界で一旗揚げる時が来たんじゃないか?」
興奮がこみ上げた。
子供の頃から魔法を使う主人公が羨ましかったけど、ついに俺も! 俺も!
「ふむ。」
ざわついていた魔法使いたちが静まった。
「少なくともマナレベル1には達しているな。マナの操作が全くできないわけではない。だが…どう見てもクラス9の才能はなさそうだ。」
…え? 何だって?
俺は指先の火花を見つめた。
さっきまではめちゃくちゃカッコよく見えたのに、今はなんかショボく見える。
『いやいや、さっきまで感動してたのに、急にこんな評価なの?』
俺、魔法使ったんだぞ? すごいことじゃないのか?
なのに、才能がないって?
「いやいや…ほぼ初めて教わった直後に魔法を使えたのに、これで才能がないってどういうこと?」
「クラス1程度なら、平民でも教育と練習をすればできるようになる。まあ、それすらできない者も大勢いるがな。」
周りを見渡すと、魔法使いたちは皆、興味なさそうな顔をしていた。
『…え? まさか、ここでは指先から火が出るのが当たり前のスキルなのか?』
どうりで誰も感動しないわけだ。
俺だけがテンション上がってた。
夢のような瞬間は、あっさりと粉々になった。
俺はゆっくりと手を下ろした。
火が消えた。
虚しかった。
「終わったな。」
「こいつどうする? 大魔法使いの才能? ないな。」
「どうするも何も、さっさと黙って処理するしかないだろ。こいつ、証拠ごと消えればいいだけじゃないか。」
…は?
俺の本能が危険を察知した。
彼らはひそひそと話しながら、俺をじろじろと見ていた。
ここにいたらヤバい。
何かしないと!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺は慌てて手を振った。
「お、俺だって魔法を学べます! マナレベル1なら到達してるんですよね? なら、勉強すればもっと上手くなるはずです!」
魔法使いたちの動きが一瞬止まった。
一人が眉をひそめて囁いた。
「…どうする? いきなり消すのは、さすがにまずいんじゃないか?」
「そうだな。我々の召喚ミスがバレるのもまずいのに、この男まで消したら余計に怪しまれる。」
「じゃあ、とりあえず授業を受けさせて、自然に脱落するのを待てばいいんじゃないか?」
俺は彼らの会話を聞いて、心の中で安堵した。
こうして、俺は生き延びた。ひとまずは。
掃除。
掃除。
そしてまた掃除。
「おい、そこのお前! ちゃんと隅々まで拭け!」
俺は力なく、雑巾を握りしめながら思った。
『こんなの、魔法を学ぶ場所じゃなくて掃除学校じゃねえか。』
魔法を学びに来た。
なのに現実は、床掃除のプロ養成コースだった。
「クフン、新入り。魔法を習得するには、基本が大事だ。すべては鍛錬から始まる。」
「はい、そうですね。」
俺は丁寧に答えつつ、心の中でため息をついた。
もっともらしいことを言ってるけど、実態はただの労働搾取だ。
魔法を学ぶどころか、ただの雑用係になった気分だった。
正直、こんなんなら農奴になった方がマシだったんじゃないか?
俺は急いで雑巾がけを終えて、魔法の授業が開かれる講義室へ向かった。
一応、基礎魔法の授業には参加できるらしい。
席に座ると、教授の声が響いた。
「さて、今回はマナを集め、指先に流す練習をしましょう。」
周りを見渡すと、他の生徒たちはそれぞれ指先に小さな火や水滴を浮かべていた。
中には風を操る者もいた。
俺は静かに手を上げた。
そして—
何も起こらなかった。
…ただの手だった。
「…やはり、お前には無理か。」
教授は俺を一瞥し、首を振った。
周囲から小さな笑い声が漏れた。
「お前はどうせ、雑用でもして消える運命だろ。」
こうして、俺は魔法塔での存在感を失っていった。
魔法使いたちは俺に無関心になり、俺はただの空気のような存在になった。
『このままじゃ、本当に消されるんじゃね?』
俺は歯を食いしばった。
何か、突破口が必要だ。
掃除生活が続くこと一週間。
さすがに現実が恋しくなってきた。
どれだけ無職だったとはいえ、少なくとも身体は楽だった。
俺はついに、魔法塔の端にある倉庫をさまよっていた。
そしてそこで、"とんでもないもの"を見つけたのだった…。